長寿科学研究に関する情報を提供し、明るく活力ある長寿社会の実現に貢献します。

第1回 一読・十笑・百吸・千字・万歩

 

公開月:2022年4月

石川 恭三
杏林大学名誉教授


 木々の小枝の先から新緑の若芽が一斉に噴き出すのを目にするたびに、どこにそんな逞しい生命力が潜んでいたのだろうかと、自然の力の偉大さに感嘆する。すると今でも、さあ、のんびりと老いてなどいられないぞと、体の芯から新芽のような力が沸き上がってくる。

 日々の生活に活力を与えるためには心身のバランスがとれた活動が必要である。そのための手段として、「一読・十笑・百吸・千字・万歩」を長年提唱している。

 「一読」とは、一日に一回はまとまった文章を読もう、ということである。新聞、雑誌、本、何でもいい。読むことで思考プロセスを活性化させ認知機能を高めることができる。

 「十笑」は、一日に十回くらいは声を出して笑おう、ということである。笑うことで免疫力が高まり、がんや感染症に対する抑止力が発揮される。さらに、脳の血流が増加し、脳の働きが活発になり、記憶力が高くなる。また、笑うことで脳内のエンドルフィンが増加して幸福感が得られる。笑うことは得するばかりで損することは何もない。

 「百吸」は、一日に百回(一度に十回くらい)深呼吸をしよう、ということである。深呼吸することで、肺の隅々まで拡げて、多くの酸素を血液中に取り込み、体中にたっぷり酸素を供給することができる。また、深呼吸することで、副交感神経の活性が高まり、精神的な安定が得られ、血圧が低下し、脈拍数も少なくなり、心臓血管系の負担が軽減される。

 「千字」とは、一日に千字を目安に文字を書こう、ということである。文字を書くことで認知機能が高まることは明らかであり、理屈抜きで実感できる。一日千字を書くことは、実際にはかなりむずかしいタスクではあるが、これが認知症予防の特効薬だとしたらチャレンジする価値はあると思う。日記でも手紙でもいい。お勧めは、昨日の一日の食事の内容や行動を箇条書きでも何でもいいので書き出すことである。ぜひ、千字に挑戦してほしい。

 「万歩」は、一日に一万歩をめざして歩こう、ということである。一万歩は無理なら半万歩(五千歩)でもよしとして、一日中家にじっとしていないで、外に出て歩くことである。歩くことによるメリットは数多くあるが、特筆すべきは認知機能を高め、認知症の予防になることである。

 朝起きて、さあ、今日は何をしようかと思いを巡らすとき、この「一読・十笑・百吸・千字・万歩(半万歩)」を想起して、一日の行動計画の中に取り入れることをぜひ、考えてほしい。

著者

石川 恭三(いしかわ きょうぞう)
 1936年生まれ。慶應義塾大学医学部大学院修了。ジョージタウン大学留学を経て、杏林大学医学部内科学主任教授。現在、同大学内科学名誉教授。臨床循環器病学の権威。執筆活動も盛んで、著書多数。主な著書に『老いの孤独は冒険の時間』『老いのたしなみ』『老いのトリセツ』(以上、河出書房新社)など

以下をクリックすると機関誌の内容をご覧になることができます。

公益財団法人長寿科学振興財団発行 機関誌 Aging&Health 2022年 第31巻第1号(PDF:27.5MB)(新しいウィンドウが開きます)

WEB版機関誌「Aging&Health」アンケート

WEB版機関誌「Aging&Health」のよりよい誌面作りのため、ご意見・ご感想・ご要望をお聞かせください。

お手数ではございますが、是非ともご協力いただきますようお願いいたします。

WEB版機関誌「Aging&Health」アンケートGoogleフォーム(外部サイト)(新しいウインドウが開きます)