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シニアのICT利活用による豊かな生活と情報格差

 

公開月:2022年11月

水野 一成(みずの かずなり)

株式会社NTTドコモモバイル社会研究所副主任研究員

はじめに

 超高齢社会において、シニア(本稿では60、70代を対象)がスマートフォン(以下、スマホ)やパソコンなどの情報通信技術(Information and Communication Technology、以下ICT)を活用することで、生活がより豊かになる、また少しでも孤立予防など社会的課題が解消できるのではないか、そんな思いから、私たちが本格的な調査を開始したのは2015年。当時は「アクティブシニア」というワードがマスコミを賑わしていた。この集団は旅行や趣味、買い物など消費意欲も旺盛であるが、ICTの活用はまだ浸透していなかった。2015年のスマホの所有率は、60代で3割、70代で1割であり、当時はまだまだ従来型のケータイ(フィーチャーフォン、いわゆるガラケー)が主流であった。それから7年が経過し、2022年1月の調査では、60代で9割、70代で7割と大きく所有率が伸びており、シニア層がインターネットを活用するための土壌が整いつつある(図1)。他方、新型コロナウイルスのワクチン接種予約方法や、QRコードの活用状況などを見ると、スマホ所有率と連動して、ICTの活用が進んでいるとは言い難い。

図1、60代と70代のスマホ・ケータイ所有状況について2015年から2022年の年次推移を表す図。
図1 スマホ・ケータイ所有状況の年次推移(60代、70代)
(出典:NTTドコモモバイル社会研究所)

 本稿では、シニア層のスマホなどの情報通信機器(ICT機器)の利用実態、利用したことで生じた変化、およびその割合を、単集計だけではなく、回答傾向をもとにグループ分けを実施し、グループの特性を明らかにしながら、考察を加えていく。なお、調査は主にNTTドコモ モバイル社会研究所 2022年1月の実査(関東1都6県、訪問留置法、性年代・都市区分・県域で割付、回答数709)の結果である。

スマホなどICT機器の利用と人とのつながり

 スマホがシニア層に普及したことの影響を、まずは「コミュニケーション」の側面から見てみたい。スマホは電話やメール、SNSで文字あるいは写真、さらに動画の共有など、別居する家族や友人等と、直接会わなくても非対面で交流することができる。

 では、どのようなシニアが非対面での交流を行っているか、対面交流と合わせて分析をした。友人との交流の調査結果をもとに、対面・非対面両方活発な「積極派」、片方だけ活発な「対面重視派」、「非対面重視派」、両方活発でない「消極派」と4つのグループに分けた。まず男女差を同居家族の有無と合わせてみたのが図2である。男性は「積極派」が少なく、特に「独居」の場合「消極派」が7割程度と多い。女性は男性と比較し、「積極派」の割合が高く、同居家族がいる場合「非対面重視派」も多い。この層は、配偶者・子・孫への家事、育児、介護の役割を担っている場合があり、友人との交流が活発ではあるが、時間的制約が生じることから非対面交流が多いのではないかと考えられる。

図2、シニア層における友人との交流について、積極派、対面重視派、非対面重視派、消極派の4つのグループに属する割合を性・家族構成別に表す図。
図2 シニア層における友人との交流(性・家族構成別)
(出典:NTTドコモモバイル社会研究所)

 次に社会参加の面から見るため、「地域での活動(自治会・町内会・老人会・奉仕活動等)」「教室での活動(種類を問わずカルチャースクール等)」の2つの活動への参加状況から分析した。その結果、両活動とも「参加している」人は対面・非対面両方で対人活動が活発であり、「時々参加している」と比較しても有意に活発であった(図3)。「参加している」人の中で「対面重視派」は1割程度、そこから「非対面交流」が活発であるシニアを考察してみる。もともと対面交流が特に活発であった層(社会参加に不定期ではなく、定期的に参加している)に、ICT機器の利用が組み合わさり、対面交流の延長に、非対面交流が活性化されたのではないか。さらに一部では対面交流の活動を補う(連絡手段等)だけではなく、対面で交流しない時(あるいはできない時)に、情報の共有あるいは、オンラインでの交流が生まれ、地域や教室での活動をよりアクティブのものに進化させているのではないかと推察する。

図3、シニア層における友人との交流について、積極派、対面重視派、非対面重視派、消極派の4つのグループに属する割合を社会参加状況別に表す図。
図3 シニア層における友人との交流(社会参加状況別)
(出典:NTTドコモモバイル社会研究所)

 それでは非対面交流によって、どのような人とのつながりに変化が生じたか※1。主に、①人のつながりが深くなる「深化」、②人との関係が広がる「拡大」に分けられ、36%が両方、23%が深化のみ変化があったと回答した(影響が少ないは41%)。こちらも性・家族構成別に見ると、女性の変化が多く、特に独居でその傾向が顕著である。スマホなどICT機器を利用することで、非対面交流が活発になり、人とのつながりもより深化・拡大した。

ICT利活用と生活の変化

 ICTの利用は人とのつながりの変化だけではなく、日常の生活の面でも変化をもたらしている。まずは、シニアがどのようなICTサービス※2を利用しているか、2015年調査と2022年調査を比較した。どのサービスも上昇傾向にあるが、特に「情報の検索」や「ソーシャルメディアの更新や発信」は特に上昇幅が大きい。これはスマホの普及と連動しており、気軽にインターネットにアクセスできる環境と、シニア間の利用が増えたことが背景にあると考えられる(図4)。

※2 ICTサービスとは、スマホ・パソコン・タブレットなどで利用するサービスをいう。

図4、シニア層のICTサービス利用状況の2015年と2022年の比較を表す図。
図4 シニア層のICTサービス利用状況
(出典:NTTドコモモバイル社会研究所)

 では、ICTサービスを利用することで、生活にどのような変化をもたらしたか。表1のとおり、シニア層は若中年層と比較して全体的に低いが、「疑問を調べるようになった」「カメラ機能でメモ・板書をとる機会が増えた」など「情報」に関わる項目は半数以上のシニアは変化があったと回答した。一方、「購買」「ペーパレス」に関わる事項は、4割以下で若中年層と比較しても30ポイント以上の差がある。

表1 ICTサービス利用での生活の変化(%)
項目10-20代30-50代60-70代
疑問を調べるようになった 96 95 76
専門機器の持ち歩きが減った 91 83 55
カメラ機能でメモ・板書をとる機会が増えた 82 81 57
地図アプリによって道に迷わなくなった 91 80 54
スマホで調べることでストレスが減った 82 82 53
欲しいものをネットで簡単に購入ができる 87 83 39
欲しいものをお店で簡単に購入できる 83 74 37
チケット等を印刷しなくてよくなった 76 67 25
ネット手続きにより外出が減った 57 53 24
電子書籍により紙媒体を持ち歩く機会が減った 52 42 18
カードが減り財布がすっきりした 47 45 13

太字:80%以上(多くの人は変化した)

下線付き:50%以上(半数の人が変化した)

 シニアの中でも生活の変化を多岐に実感しているグループがある一方、ほとんど実感していないグループも存在し、このグループの特性として、「日々の活動※3」が消極派である割合が他と比較して多い。スマホなどのICT機器の利用による生活の変化を実感しているシニアは、社会参加や友人との交流など「日々の活動」を通じて、ICT機器の便利な使い方についても、共有されていき、結果、上記のように多方面に渡って変化をもたらしているのではないか。

※3 「日々の活動」は、地域活動(①自治会、町内会、老人会、②奉仕活動)、教室活動(③教養・芸術・料理などのカルチャースクール、④体操・ヨガ・などの体を動かすカルチャースクール)、人との交流(⑤友人、⑥家族・親戚)の結果をもとに5つのグループに分ける.
シニアの日々の活動「積極派」はスマホ所有9割超える(前年比+16)ー「積極派」と「消極派」とのスマホ所有率差は広がり20ポイントにー(2022年6月1日)モバイル社会研究所(外部サイト)(新しいウインドウが開きます)(2022年10月7日閲覧)

スマホの活用からみる情報格差

 上述したとおり、「人とのつながりの深化・拡大」「日々の生活を便利に変える」ことはすべてのシニアが実感しているわけではない。では、なぜそのような差が生じているか。ここでは、スマホのリテラシー(使える機能)に着目しその原因の一端にアプローチする。

 スマホ所有者にスマホで使える機能を調査した。表2のように、「電話、メール、カメラ」は9割程度できると多くの人が使えると答えた。一方、「アプリのダウンロードや削除ができる」は70代以上では半数を下回った。スマホにはもともとインストールされたアプリもあるが、より使いこなすにはストアからアプリをダウンロードすることは不可欠である。全体として半数弱のシニアが、その機能を利用できていない。

表2 実施可能なスマホ操作(%)
項目60代前半60代後半70代前半70代後半
電話をかける 98 99 99 100
メールやメッセージを送る 97 93 88 87
カメラを使って写真や動画を撮影 93 94 83 87
電話帳の設定 88 83 74 73
インターネットを使って情報を検索 92 84 73 57
アプリのダウンロードや削除 72 61 43 39
Wi-Fiに接続 68 56 40 34
メールやメッセージの受信拒否設定 61 42 30 29
位置情報のON/OFF設定の仕方 56 42 25 28
写真を編集・加工 48 26 17 16

太字:80%以上(多くの人は変化した)

下線付き:50%以上(半数の人が変化した)

 また、シニア間にも活用度合いに差が生じている。分析を進めていると、パソコンとの所有が関連していた。シニアのスマホ利用とパソコン利用はライフコースの側面からみても、関係性が深い。特に70代後半は1995年Windows95が発売された時に、50代前半であり、この時に会社でパソコンを利用していたかが、今のスマホの利活用にも影響していると推測する。

さいごに

 シニアのICT利活用の実態を「コミュニケーション」「サービス利用による生活の変化」「スマホの機能利用」の面から調査結果を見てきた。シニア層もICTを利用することで、生活がより豊かになっている部分が垣間見えた一方、若中年層との差はまだあること、さらにシニア間でも、その効果を享受できていない層があることも明らかになった。つまり、他世代との間にもシニア同士にも「情報格差」が大きく存在している。さらに、今「スマホを使いこなしているシニア」は有意に今後さらに使ってみたいという意欲を持っており、格差がさらに広がる可能性がある。

 個々に特性を分析していると「日々の活動」との関係が大きいことに気づく。今回の調査では因果関係を明らかにするまでには至らないが、ICTの利活用の有無が日々の活動量・質の面で差をより拡大させている可能性がある。コミュニケーションとしての役割では、特に新型コロナウイルスの影響で、対面で会うことがむずかしい中ではその役割の大きさが増し、新たな交流機会を生んでいる。ビデオ通話など非対面での交流が月1回生まれるなど、子世代との交流頻度が増した事例もある。アフターコロナにおいても、こういった営みが継続するか注目したい。

 もう1点私が関心を寄せているのは「防災・減災」での利活用である。インターネット調査では、スマホの中に「防災系アプリをダウンロード」している割合はシニア層の方が高い※4。ダウンロードしている多くのアプリはプッシュ通知で災害に関する情報を教えてくれる。気象に関わる情報収集や避難への誘導に大きな力となり、ICTが命を守る役割を果たしているともいえそうだ。

 今までICT利活用が活発でないシニアに対し、何が障壁となっており、どのようなサポート、アプローチが必要か、引き続き調査と合わせ、今後も多くの方と議論を進めながら解明していきたいと考える。

文献

  1. NTTドコモ モバイル社会研究所:モバイル社会白書2022年版.(外部サイト)(新しいウインドウが開きます)(2022年11月9日閲覧)

筆者

みずのかずなり氏の写真
水野 一成(みずの かずなり)
株式会社NTTドコモモバイル社会研究所副主任研究員
略歴
2003年:株式会社NTTドコモ入社、2015年より現職
担当調査
高齢者とICT利活用、防災・減災とICT利活用、子どもとICT利活用

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公益財団法人長寿科学振興財団発行 機関誌 Aging&Health 2022年 第31巻第3号(PDF:5.4MB)(新しいウィンドウが開きます)

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