地域の居場所づくりから見る多面的なフレイル対策
公開月:2026年4月
清野 諭(せいの さとし)
山形大学Well-Being研究所 行動科学部門助教
東京都健康長寿医療センター研究所 社会参加とヘルシーエイジング研究チーム非常勤研究員
野藤 悠(のふじ ゆう)
東京都健康長寿医療センター研究所 社会参加とヘルシーエイジング研究チーム研究員
はじめに
現在の一般介護予防事業では、住民主体の通いの場を基盤とした「地域づくりによる介護予防」が全国的に推進されている。通いの場とは、「高齢者をはじめとした地域住民が、他者とのつながりの中で主体的に取り組む、介護予防・フレイル予防に資する月1回以上の多様な活動の場・機会」を指す1)。また、通いの場のように組織的に運営されてはいないものの、その場に属することにより、安らぎ、安心、やりがい、自己実現、楽しみを感じることができる地域の居場所2)も多数存在する。これらは、地域包括ケアシステムと連動可能かつ重要な地域資源の一つである。本稿では、筆者ら(東京都健康長寿医療センターの研究チーム)がこれまでに実施してきたフレイルに関する研究成果とともに、通いの場等の地域資源を活用したフレイル対策について紹介する。
なぜフレイル対策が重要か
群馬県草津町の高齢者を対象とした10年間の縦断研究3)では、生活機能の加齢変化は4つのパターンに類型化され、約6割が加齢に伴ってフレイルを経ることが示唆されている。特に、生活機能が比較的良好に保たれていても、75歳以降に急速な機能低下を示す群では、医療費・介護給付費が急増する傾向が確認されている3)。
また、同町の健診受診者を8年間追跡した研究4)では、フレイルは高齢者個人の要介護化および総死亡リスクをそれぞれ2倍以上高めることが報告されている。仮に、フレイルおよびその予備群への進行を予防できた場合、集団の要介護化と死亡を約3割低減できる可能性が示唆されている4)。これらの知見は、人生100年時代を見据える本邦において、生活習慣病対策だけでなく、生活機能の維持・改善を図るフレイル対策が極めて重要であることを示している。
フレイル予防・改善のためのプログラム
フレイルは身体的・精神的・社会的側面を併せもつ多面的概念であり、その予防・改善には、複数要素を組み合わせた包括的介入が望ましい。筆者らは、筋力運動、栄養、社会プログラムを組み合わせた複合介入が、フレイルと機能的健康度の改善に有効であることをランダム化比較試験により明示してきた5)。また、前向きコホート研究では、身体活動、多様な食品摂取、社会交流の三要素の実践数が多いほど、要介護化リスクが低値を示すという量反応関係を確認している6)。そのため、地域におけるフレイル対策や介護予防施策では、各種活動の中に運動・栄養・社会参加の三要素をいかに効果的に組み込むかという視点が重要と考えられる。
地域の通いの場を活用したフレイル予防の戦略
2020年に導入された「高齢者の保健事業と介護予防の一体的実施」では、保健事業と介護予防事業の連携を通して、地域全体で高齢者の健康寿命延伸を図ることが重視されている7)。したがって、フレイル予防の機能を備えた多様な通いの場の拡充は重要な課題となっている。具体的な戦略として、このような通いの場を新たに創設する方法と、既存の通いの場の活動にフレイル予防の観点から不足する要素を無理なく付加する方法の2つが考えられる。
通いの場づくりによるフレイル予防の取り組み事例
兵庫県養父市では、2014年より、高齢になっても歩いて通える身近な場所(徒歩圏域)ごとに住民主体のフレイル予防教室(通いの場)を開設する取り組みが進められている8)。本事業では、所定の研修を修了したシルバー人材センター会員が業務として市内各地に赴き、運動・栄養・社会プログラムから成る週1回・60分の教室を一定期間運営する。その後、当該教室は地区住民による自主運営の通いの場へと移行する仕組みとなっている。通いの場が開設された地区では、約9割の高齢者が自宅から500メートル圏内の通いの場にアクセスできる環境が整備されている。さらに、この通いの場の参加者では、フレイルおよび要介護化リスクが、非参加者と比較して約半分であったことが報告されている8),9)。
この「シルバー人材センター会員が業務として教室運営を担う」モデルは、埼玉県シルバー人材センター連合本部にも導入されており10)、他地域への横展開も可能であることが実証されている。
フレイル予防の"ちょい足し"
筆者らは、通いの場の活動に、フレイル予防の観点から不足している要素を無理なく付加する取り組みを「フレイル予防の"ちょい足し"」として提案している11)。その目的は、簡便に実践可能な「ちょい足しプログラム®」を日常的な活動の中に自然に組み込み、運動・栄養・社会参加の三要素を充足させることで通いの場におけるフレイル予防機能の強化を図ることにある(図1)。

既存グループの活動に、フレイル予防の視点から不足している要素を無理なくプラスする
例えば、運動に関する"ちょい足し"として、茶話会や趣味の会等の非運動系の活動にストレッチや筋力運動を付加する方法、あるいはラジオ体操やウォーキング等の運動系の活動に筋力運動等の別の運動プログラムを加える方法が挙げられる。
近年では、1日5分の中高強度身体活動の増加によって、総死亡を最大で10%予防できる可能性が示唆されている12)。また、「バスに間に合うよう走る」、「坂道を急いで上る」といった断続的な活動が1日3〜4分あるだけで、まったくない場合よりも全死亡や心臓・血管疾患死亡のリスクが約30%低いことが報告されている13)。個人・グループ活動を問わず、既存の習慣に最小努力で実践可能な習慣を付加することは、効果と継続性の両面から合理的な手法と考えられる。
「ちょい足しプログラム®」
フレイル予防の「ちょい足しプログラム®」は、1)フレイルに関する基礎的理解を深める総論プログラム、2)下肢筋力・柔軟性・協調性の維持・向上を目的とした運動プログラム、3)多様な食品摂取を促す栄養プログラム、4)口腔機能の維持・向上を目的とした口腔プログラムの4領域から構成されている。これらのプログラムは、テキスト「フレイル予防スタートブック」()14)に体系的に整理されている(図2)。いずれのプログラムも1回あたり5〜10分程度で実践可能であり、通いの場の参加者が主体的に取り組めるよう、すべてセリフ付きの構成となっている。

「さあにぎやかにフレイル予防リーフレット」「食べポチェック表」「フレイル予防スタートブック」は、ホームページからダウンロードできます。
「ちょい足しプログラム®」を収録した「フレイル予防スタートブック」は、のウェブサイト14)より入手可能である。同研究チームでは、コンセプトおよびプログラムの出所を明確にする目的から「ちょい足しプログラム®」と表記しているが、その使用を制限する意図はまったくない。なお、同研究チームでは、「フレイル予防の"ちょい足し"」を導入した通いの場の参加者を対象として、厳密な評価デザインによる効果検証も進めている。
おわりに
「ちょい足しプログラム®」を実践するか否かを最終的に判断する主体は、その通いの場の担い手や参加者自身である。通いの場の中には、活動内容をあえて定めず「居場所」としての機能を重視する場も少なくない。そのため、通いの場の担い手や参加者に対しては、多様な選択肢として「ちょい足しプログラム®」を紹介しつつも、実践を強制するのではなく、意思決定を当事者に委ねる姿勢が求められる。その上で、「この内容であれば自分たちのグループでも取り組めそうだ」と前向きに受け止められるよう支援することが理想的である。
「ちょい足しプログラム®」は、通いの場におけるフレイル予防機能の強化を企図して開発されたが、担い手や参加者の立場からすると、"ちょい足し"の目的はフレイル予防に限定されるものではない。例えば、絵本の読み聞かせ活動に携わるボランティアが、活動を可能な限り長く継続できるよう、下肢の筋力運動を"ちょい足し"するケースもある。現場における受容性と継続性を高める上では、当事者・グループのニーズの充足や自己実現を支援する一手段として"ちょい足し"を位置づけることが重要である。
文献
- 植田拓也, 倉岡正高, 清野諭, 他:介護予防に資する「通いの場」の概念・類型および類型の活用方法の提案. 日本公衆衛生雑誌 2022;69(7):497-504.
- 植田拓也, 藤田幸司, 森裕樹, 他:地域包括ケアシステムを補完する地域資源としての高齢者の「居場所」の定義と類型. 応用老年学 2025;19(1):104-111.
- Taniguchi Y, Kitamura A, Nofuji Y, et al.:Association of trajectories of higher-level functional capacity with mortality and medical and long-term care costs among community-dwelling older Japanese. J Gerontol A Biol Sci Med Sci. 2019;74(2):211-218.
- 北村明彦, 清野諭, 谷口優, 他:高齢者の自立喪失に及ぼす生活習慣病、機能的健康の関連因子の影響. 日本公衆衛生雑誌 2020;67(2):134-145.
- Seino S, Nishi M, Murayama H, et al.:Effects of a multifactorial intervention comprising resistance exercise, nutritional and psychosocial programs on frailty and functional health in community-dwelling older adults:a randomized, controlled, cross-over trial. Geriatr Gerontol Int. 2017;17(11):2034-2045.
- Seino S, Nofuji Y, Yokoyama Y, et al.:Combined impacts of physical activity, dietary variety, and social interaction on incident functional disability in older Japanese adults. J Epidemiol. 2023;33(7):350-359.
- (2026年3月24日閲覧)
- 野藤悠, 清野諭, 村山洋史, 他:兵庫県養父市におけるシルバー人材センターを機軸としたフレイル予防施策のプロセス評価およびアウトカム評価. 日本公衆衛生雑誌 2019;66(9):560-573.
- Nofuji Y, Seino S, Abe T, et al.:Effects of community-based frailty-preventing intervention on all-cause and cause-specific functional disability in older adults living in rural Japan:a propensity score analysis. Prev Med. 2023;169:107449.
- 野藤悠, 新開省二, 大須賀洋祐, 他:「高齢者が仕事として担うフレイル予防教室運営」の普及可能性と課題:埼玉県シルバー人材センター連合本部の取組. 日本公衆衛生雑誌 2025;72(1):42-51.
- 清野諭, 野藤悠, 植田拓也:「フレイル予防の"ちょい足し"」による身体活動・運動普及のアプローチ. 保健師ジャーナル 2025;81(6):471-476.
- Ekelund U, Tarp J, Ding D, et al.:Deaths potentially averted by small changes in physical activity and sedentary time:an individual participant data meta-analysis of prospective cohort studies. Lancet 2026;407:339-349.
- Stamatakis E, Ahmadi MN, Gill JMR, et al.:Association of wearable device-measured vigorous intermittent lifestyle physical activity with mortality. Nat Med. 2022;28:2521-2529.
- . フレイル予防スタートブック()(2026年3月24日閲覧)
筆者

- 清野 諭(せいの さとし)
- 山形大学Well-Being研究所 行動科学部門助教
東京都健康長寿医療センター研究所 社会参加とヘルシーエイジング研究チーム非常勤研究員 - 略歴
- 2013年:筑波大学大学院3年制博士課程人間総合科学研究科スポーツ医学専攻修了(博士(スポーツ医学))、日本学術振興会特別研究員PD(東京都健康長寿医療センター)、2015年:東京都健康長寿医療センター研究所社会参加と地域保健研究チーム研究員、2022年:同社会参加とヘルシーエイジング研究チーム主任研究員、2024年より現職
- 専門分野
- 運動疫学、老年学、公衆衛生学
- 野藤 悠(のふじ ゆう)
- 東京都健康長寿医療センター研究所 社会参加とヘルシーエイジング研究チーム研究員
- 略歴
- 2010年:九州大学大学院人間環境学府博士課程単位取得満期退学、2011年:東京都健康長寿医療センター研究所社会参加と地域保健研究チーム研究員、2012年:九州大学博士(人間環境学)取得、2015年:公益社団法人地域医療振興協会ヘルスプロモーション研究センター研究員、2019年より現職
- 専門分野
- 健康科学、老年学、公衆衛生学
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