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地域シニア住民の輝きをもう一度~全国フレイルサポーターの多様な活躍~

 

公開月:2026年4月

呂 瑋達(りゅう うぇだ)

東京大学高齢社会総合研究機構特任研究員


はじめに

 日本では世界でも例を見ない速さで高齢化が進行し、すでに超高齢社会を迎えている。医療・介護需要の増大や地域機能の低下が進む中、「人生100年時代」は理念的なスローガンではなく、社会制度や地域のあり方そのものを見直す必要性を突きつける現実となっている。こうした状況下で、高齢社会が直面する中心的課題は、単に寿命を延ばすことや要介護期間を短縮することではなく、高齢期においてどのように機能能力や生活の質、そして人生の意味や価値を保ちながら生き続けるかへと大きく転換している。

 健康寿命の延伸は依然として重要な政策目標であるが、健康寿命指標のみでは、高齢期における幸福感や生活満足度、主観的な価値体験といった側面を十分に捉えることは難しいと指摘されている1)。こうした問題意識を背景に、世界保健機関(World Health Organization:WHO)は「World Report on Ageing and Health」において、健康を単なる疾病の有無ではなく、身体的・心理的・社会的側面を含む包括的なウェルビーイングとして再定義した2)。健康長寿の実現には、医療や介護への依存を強めるのではなく、個人の機能能力を維持し、それを支える社会参加や社会的つながりをいかに継続できるかが重要であると強調している。

 この国際的潮流と歩調を合わせるように、日本では高齢期における「生きがい(人生の意味や価値)」の重要性が長年にわたり議論されてきた。大規模地域住民コホート研究では、生きがいを有する高齢者は、そうでない高齢者に比べて全死亡リスクが有意に低いことが報告されており3)、人生の意味や価値を感じることが疾病状態とは独立して健康や生存に影響を及ぼし得る可能性が示されている。これらの知見は、高齢期の健康を身体機能や疾病管理のみに還元するのではなく、主観的経験や社会的役割を含めて捉える必要性を示している。

 以上を踏まえると、「幸福長寿」とは単に疾病がない状態や長く生きることを意味するのではなく、身体機能・心理状態・社会関係が相対的に調和し、本人の意思や価値観に基づいて生活を継続できる状態として再定義されるべきである。この視点は、後期高齢期に至るまで人が社会と関わり続ける可能性を前提とし、地域やコミュニティのあり方そのものを問い直すものである。

 本稿では、この「幸福長寿」の概念を理論的背景として、高齢者におけるフレイル予防を含む健康促進の枠組みを整理したうえで、医療・専門職主導型対策の限界を踏まえた住民主体型フレイル対策の意義に焦点を当てる。さらに、日本全国で展開されているフレイルチェックおよびフレイルサポーター制度を取り上げ、地域実践の拡がりと多様化の実態から、超高齢社会における持続可能な健康長寿・幸福長寿モデルの可能性を論じる。

高齢者におけるフレイル予防を含めた健康促進対策

 幸福長寿の実現には、高齢者を「支援を受ける側」として捉える受動的な視点から、個人が本来有する潜在力に着目する包括的理解への転換が求められる。WHOが提唱する内在的能力(intrinsic capacity:IC)は、移動、認知、心理、感覚、活力といった領域における機能的潜在力の総体を指し、生活環境との相互作用を通じて実際の機能能力として発現するとされている2)。超高齢社会である日本においては、医療機関や個別専門介入のみに依存する対応には限界があり、地域環境の整備や社会参加機会の拡充を通じて、高齢者の能力発揮を支える社会構造の再構築が不可欠である4)

 一方、加齢に伴い身体的・心理的・社会的脆弱性が重層的に進行する過程で、「フレイル(frailty)」は健康と要介護状態の中間に位置する、可逆性を有する重要な段階として注目されてきた。フレイルは単なる身体機能低下にとどまらず、身体・心理・社会的側面を含む包括的状態であり、入院、要介護、死亡リスクと関連することが報告されている5)-8)。とりわけ、社会的つながりの希薄化や役割喪失に関連する社会的フレイルは、機能低下や死亡リスクと密接に関係することが示されている9),10)。しかし、こうした側面に対する持続的かつ有効な対応策は、十分に確立されていないのが現状である。

 また、社会参加や役割の維持、有意味な活動への関与は、主観的幸福感を高めるだけでなく、身体活動や心理的健康を介してフレイルの発生・進行リスクを低減する可能性が示唆されている11)。高齢人口の持続的増加に伴い、フレイルはもはや一部の高リスク高齢者に限定された問題ではなく、地域社会全体に影響を及ぼす人口レベルの公衆衛生課題として位置づけられている。また、既存研究では、フレイル状態は時間とともに動的に変化し得る一方で、改善よりも不良な状態への遷移が起こりやすいことが示されており、早期段階からの予防的介入の重要性が指摘されている12)

 このような背景のもと、従来の医療・専門職主導型対策は、対象範囲の限定や長期的継続の困難さ、費用対効果の面から、地域全体への普及・定着に制約を伴いやすい。実際、運動や栄養といったエビデンスに基づく複合介入であっても、日常生活の文脈に十分組み込まれず、継続的な支援体制を欠く場合、その効果を地域レベルで長期的に維持することは難しいと報告されている13)。したがって、住民主体型フレイル対策は、単なる実施手法の選択ではなく、フレイルの多次元性と親和性の高い戦略的転換と捉えられる。

 さらに、実装可能性および持続可能性の観点からも、住民主体型モデルは現実的かつ有望なアプローチである。日本の地域社会には、比較的良好な身体・認知機能を維持し、地域活動への参加意欲を有する高齢者が多数存在しており、地域において支援的役割を担う潜在的資源が残されている。既存研究では、ボランティア活動や互助的な社会活動への参加が健康負担を増やすことなく、むしろ死亡リスクの低下や心理・社会的健康の向上と関連する可能性が示されている14),15)。これらの知見は、適切に設計された住民参加型活動が、高齢者本人と地域双方に利益をもたらすことを示唆している。

全国住民主体型フレイルチェック活動とフレイルサポーター制度

 以上の背景を踏まえ、日本では東京大学高齢社会総合研究機構(IOG)を中心として、住民主体型フレイルチェック活動が全国で展開されてきた。本活動は、従来の「高リスク対応型モデル」から、潜在的リスクを含む地域高齢者全体に働きかけるポピュレーションアプローチへの転換として位置づけられる16),17)。全国フレイルチェックは、リスク判定や対象者選別を主目的とするのではなく、測定を通じて「気づき」と「自分事化」を促す入口的介入として設計されている。

 フレイルチェック活動では、身体機能、口腔機能、栄養状態、社会性の4領域を簡便かつ可視的に提示することで、高齢者自身が状態変化を理解し、生活習慣を主体的に見直す契機を得やすい点が特徴である(図)。実施体制としては、統一研修を修了した地域住民が「フレイルサポーター」として測定補助や進行管理、対話促進を担う。非医療化・同伴型の実施構造は、参加の心理的ハードルを下げ、継続的・反復的な参加を可能にしている16),17)

 さらに、フレイルサポーター主導で実施されたフレイルチェック結果が、将来の要介護発生や死亡リスクを有意に予測し得ることが縦断研究により示されており18)、住民主体型モデルが社会的意義に加え、公衆衛生学的妥当性と政策評価上の価値を併せ持つことが示唆されている。

図、総合チェックシート(栄養とからだの健康チェック)と住民主体型フレイルチェック活動の様子を表す図。
図 総合チェックシート(栄養とからだの健康チェック)と住民主体型フレイルチェック活動の様子

地域実践の拡がりと多様化

 全国で住民主体型フレイルチェックが継続的に展開される中で、その機能は健康測定にとどまらず、健康意識、社会参加、地域活動を結びつける入口型プラットフォームとして発展してきた。地域の資源や住民の意思に応じて、フレイル対策は多様な形で派生し、高齢者のウェルビーイングや地域の凝集性へと波及している。

 高知県仁淀川町では、2019年からフレイルチェックを継続する過程で住民自身が地域におけるフレイルの広がりを実感し、「もう一度元気を取り戻してほしい」という当事者の問題意識を起点として、短期集中型プログラム「ハツラッツ」が展開されている(写真1)。本プログラムは、介護予防・日常生活支援総合事業に位置づけられる通所型サービスCの手法を参考に構築されており、一定期間(概ね3か月程度)に集中的な介入を行い、身体機能・生活機能の改善と自立支援を目指す点に特徴がある。具体的には、運動機能向上を中心としたプログラム構成、定期的な評価に基づく目標設定、ならびに生活機能の再獲得を意識した支援といったサービスCの基本的枠組みを踏まえつつ、専門職主導ではなく、住民自身が運営・実施の主体となる形で地域に実装されている点が大きな特徴である。専門職資源の不足により従来型サービスCの導入が難しいという地域課題のもと、住民が他自治体の事例見学や学習会を重ね、2021年5月に試験的に開始した点が特徴である。運営では、参加者(「鯉さん」)が来所時に自らバイタルを測定し、全身ストレッチや下肢筋力トレーニング、体力測定、フレイル予防の講話を組み合わせ、支援者(「お支えさん」)が中心となって測定補助や声かけを担う。さらに、卒業後のモニタリングでは、歩行、TUG(Timed Up & Go Test;歩行能力、動的バランス、敏捷性などを総合的に評価するテスト)、CS-30(30秒立ち上がりテスト)、片脚立位、握力などの指標が開始時から卒業時に改善し、その効果が卒業後6か月以上経過しても有意に維持されていたことが示され、参加者が卒業後に支援者側へ回る「好循環」が、活動の継続性とフレイル予防の定着を支える可能性が報告されている19)

写真1、高知県仁淀川町「ハツラッツ」活動を表す写真。
写真1 高知県仁淀川町「ハツラッツ」活動

 また、神奈川県秦野市では、フレイルチェックを含む地域の健康づくりの取り組みと並行して、里山の自然保全活動に継続的に参加する高齢者の実践が展開されている(写真2)。フレイルチェックや関連する啓発活動を通じて、自身の身体機能や社会的つながりを振り返る機会が提供される中で、里山活動は身体を動かす場であると同時に、地域に役割を持って関わる社会参加の場として位置づけられている。探索的研究では、里山活動に一定期間以上継続して参加している高齢者は、地域在住高齢者と比べて歩行速度が速く、社会ネットワークが広く、フレイル有病率が低い傾向を示しており20)、里山活動が身体活動、社会的交流、地域貢献といった複数の要素を同時に満たす実践である可能性が示唆されている。また、里山活動は高齢者個人の健康や生きがいの向上にとどまらず、人と人とのつながりを深め、地域コミュニティの活性化や自然環境への理解促進にも寄与する取り組みとして位置づけられている。こうした「人・地域・自然」をつなぐ活動は、フレイルチェックを含む地域の健康づくりの枠組みと補完的に機能しながら、高齢者のウェルビーイングと地域の持続性を同時に支える社会的意義を有すると考えられる。

写真2、神奈川県秦野市の里山活動を表す写真。
写真2 神奈川県秦野市の里山活動

 これらの実践は、専門資源が限られる地域においても住民主体型構造が継続性を担保し得ること、さらに支援者側であるフレイルサポーターにとっても、役割獲得が主観的ウェルビーイングに結びつく可能性を示している。

おわりに

 住民主体型フレイル対策は、人口構造の変化、フレイル発生機序の多次元性、そして社会資源の制約に即した必然的選択である。全国フレイルサポーター活動は、介護予防施策にとどまらず、高齢者を地域実践の主体として位置づけ、個人のウェルビーイング向上と地域の社会関係資本の蓄積を同時に促す社会的メカニズムとして機能している。本取り組みは、超高齢社会における幸福長寿の実現に資する持続可能な制度的枠組みを提示するものである。

文献

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筆者

りゅううぇだ氏の写真。
呂 瑋達(りゅう うぇだ)
東京大学高齢社会総合研究機構特任研究員
略歴
2014年:中国山東科技大学工学部卒業、2018年:東京大学農学生命科学研究科応用生命化学専攻健康栄養機能学研究室研究生課程転科、2020年:東京大学新領域創成科学研究科人間環境学専攻健康スポーツ科学研究室修士課程修了、2024年3月:東京大学医学系研究科生殖発達加齢医学専攻老年病学研究室博士課程修了、2024年4月より現職
専門分野
老年学、公衆衛生

公益財団法人長寿科学振興財団発行 機関誌 Aging&Health 2026年 第35巻第1号(PDF:5.4MB)(新しいウィンドウが開きます)

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