「一日一生」今を大切に生きる(齋藤 英彦)
公開月:2026年4月

シリーズ第16回長生きを喜べる社会、生きがいある人生をめざして
人生100年時代を迎え、一人ひとりが生きがいを持って暮らし、長生きを喜べる社会の実現に向けて、どのようなことが重要であるかを考える、「長生きを喜べる社会、生きがいある人生をめざして」と題した、各界のキーパーソンと大島伸一・公益財団法人長寿科学振興財団理事長の対談の第17回は、国立病院機構名古屋医療センター名誉院長の齋藤英彦氏をお招きしました。
名大つながりの深い縁を感じて
大島:今号の対談には、国立病院機構名古屋医療センター名誉院長の齋藤英彦先生にお越しいただきました。齋藤先生は名古屋大学の私の大先輩で、ご専門は血液内科学です。日本骨髄バンク理事長や日本さい帯血バンクネットワーク会長を務められ、AMED(国立研究開発法人日本医療研究開発機構)では、再生医療実現プロジェクトのプログラムディレクターとして、再生医療の基盤づくりに携わってこられました。2019年には日本医学会総会の会頭を務められ、愛知県のみならず、日本の医療界を牽引されてきました。まずは簡単に自己紹介をお願いできますでしょうか。
齋藤:私は1963年に名古屋大学医学部を卒業し、1年間、国立名古屋病院でインターンを務めた後、名古屋大学第一内科に入局し、血液内科医となりました。そこで4年ほど過ごし、1968年に渡米して、ボストン小児病院に留学しました。ボストンでの3年間は、ほとんど指導者がいない状態で、私の人生の中でも最も苦しい時代でした。その後、オハイオ州クリーブランドにあるCase Western Reserve大学の内科に移り、10年間在籍しました。その間、米国内科専門医、血液内科専門医、腫瘍内科専門医の資格を取得し、血液内科の臨床と研究に携わりました。
1982年に帰国し、佐賀医科大学に着任して約3年間勤務しました。佐賀は有明海と玄界灘に面した静かな城下町で、とても住みよい場所でした。私は佐賀に骨を埋める覚悟で、アメリカの家を売り、佐賀に土地を購入して家を建てる計画を進めていました。その最中、思いがけず祖父江逸郎先生の後任として、名古屋大学医学部第一内科教授として名古屋に戻ることになりました。
その後、名古屋大学医学部長、附属病院長を歴任し、定年の1年前に国立名古屋病院(現名古屋医療センター)の院長に就任しました。以来、名古屋医療センターに籍を置いています。名古屋大学に約17年、名古屋医療センターにもほぼ同じ期間在籍しています。途中、一時期、JR東海が経営する名古屋セントラル病院の院長を5年間務めましたが、それ以外は名古屋医療センターでの勤務です。
大島:ありがとうございます。私は1997年に中京病院から名古屋大学泌尿器科教授として着任しました。着任当初は大学病院特有の雰囲気に戸惑い、自分の感覚のずれもあって、教授会などで突拍子もない発言をしたこともあったのではないかと思います。
私と齋藤先生との接点は、先生が1998年に名古屋大学附属病院長に就任されてからです。卒後臨床研修を終えた後、大学に研修医が1人も残らないという状況が問題となり、「大学でしっかりと研修ができる体制をつくろう」という話になりました。その担当に私が指名されたのです。突然のことで戸惑いましたが、何とか十数人の研修医を確保することができました。多くのベテランの先生方がいらっしゃる中で、齋藤先生がなぜ私を指名されたのか、正直わかりませんでした。
翌年、齋藤先生は初めて副院長制を導入され、二村雄次先生と私の2人を副院長に指名されました。その後、2000年に二村先生が齋藤先生の後任として附属病院長に就任され、2002年には、二村先生の後任として私が附属病院長となりました。さらに2004年、国立長寿医療センター(現国立長寿医療研究センター)の初代総長に指名され、その後、長寿科学振興財団の理事長となり、現在に至っています。今の私があるのは、間違いなく齋藤先生が決断された、あの人事のおかげです。それがなければ、今の自分はなかったと思っています。
齋藤:それだけ大島先生に伸びしろがあったということです。その後の国立長寿医療センターへの異動についても、老年医学は専門外であっても必ず学び、よいセンターをつくってくれるだろうという期待を込めた人事だったのだと思います。また、私の大先輩の祖父江逸郎先生は長寿科学振興財団の前理事長ということで、深いご縁を感じます。

骨髄移植は再生医療のフロントランナー
大島:では、齋藤先生のご専門である骨髄移植や再生医療について、お話を伺っていきたいと思います。
齋藤:再生医療の中で、私がお話しできるひとつが、骨髄移植やさい帯血移植についてです。これは、白血病などの血液の難病の患者さんに対して、造血幹細胞(血液をつくる源となる細胞)を移植する治療法です。造血幹細胞は骨髄やさい帯血に存在し、まれに末梢血にも含まれています。現在、造血幹細胞移植には、骨髄移植、さい帯血移植、末梢血幹細胞移植の3種類があり、治療の選択肢は大きく広がりました。
骨髄移植やさい帯血移植は、再生医療のフロントランナーといえます。例えば、10代の子どもに骨髄移植を行うと、その子が50歳になっても、ドナー由来の造血幹細胞が40年後も生き続け、赤血球や白血球をつくり続けます。
大島:齋藤先生が教授を務めておられた名古屋大学医学部第一内科では、骨髄移植に先駆的に取り組まれてきました。
齋藤:以前は、医師免許をかける覚悟で骨髄移植に取り組んでいました。骨髄移植を行う患者さんには、前処置として大量の放射線照射が必要です。当時、ある病院ではそれを非論理的だとして、多くの患者さんを名古屋大学に紹介してきました。そうした経緯もあり、私が教授を務めていた第一内科で多くの患者さんに骨髄移植を行うようになりました。1980年代半ば頃の話です。このような流れの中で、私は早くから造血幹細胞移植のシステムづくりに関わり、日本骨髄バンク理事長や日本さい帯血バンクネットワーク会長を務めました。
大島:骨髄バンク事業は、公益財団法人日本骨髄バンクが主体となり、日本赤十字社と都道府県等の協力によって行われている公的事業とのことですね。ご紹介いただけますか。
齋藤:日本骨髄バンクは1991年12月、厚生労働省の主導により、財団法人骨髄移植推進財団(現公益財団法人日本骨髄バンク)として発足しました。その2年後には、初めて非血縁者間骨髄移植が行われています。骨髄移植ではHLA(白血球抗原)と呼ばれる白血球の型を合わせますが、日本人はHLAの型が比較的似ており、約96%の方にドナーが見つかります。現在は、中国、米国、台湾、韓国の骨髄バンクとも国際協力を行っています。日本の骨髄バンクのドナー登録者数は約55万人ですが、アメリカは約907万人と桁違いで、中国99万人、韓国37万人、台湾32万人と続きます。骨髄バンクは2021年に創立30周年を迎え、この間に非血縁者間造血幹細胞移植は累計5万例に達しました。
大島:ドナーと患者さんのマッチングは、うまくいっているのでしょうか。
齋藤:ドナー登録者55万人のうち、約6割が40〜50代です(ドナー登録は18歳以上、54歳以下。骨髄・末梢血幹細胞の提供は20歳以上、55歳以下)。現在と同じ方法でドナーを募り続けると、数年後にはドナー数が減少していくことは避けられません。また、適合ドナー2万人のうち、約65%が初期段階でドナー側の理由により終了しています。そのうち健康上の理由以外が約7割を占め、その半数以上は「連絡が取れない」「都合がつかない」といった理由で、コーディネート開始段階で終了しています。したがって、今後は30代以下の若いドナーを増やすことが不可欠です。SNSの活用や、教育機関でのドナー登録会の拡充などにより、登録機会を増やすことを検討しています。
大島:現在、ドナー登録は献血ルームでの採血が主流なのでしょうか。
齋藤:採血による登録もありますが、現在はスワブ法といって、口腔内の粘膜をこすり取る方法でも登録できるようになりました。2026年度からは、スワブ検査とオンライン登録の本格導入を目指して準備を進めています。スワブ検査であれば、献血会場などに出向く必要がなく、登録のハードルが下がるため、登録者の増加が期待されます。
大島:こうしたシステムづくりには、大変なご苦労があったかと思います。
齋藤:確かに苦労はありましたが、多くのボランティアの方々に支えられてきました。骨髄バンクの役員や、骨髄バンク運動に携わっている方の中には、ご家族やご親戚が骨髄移植を受けた経験を持つ方が多くいらっしゃいます。身近にその経験があるからこそ、皆さん強い思いを持って活動されているのだと思います。
老化を「病」と捉えるのか、自然な経過と捉えるのか
大島:齋藤先生は、AMEDの再生医療実現プロジェクトでプログラムディレクターを務められました。そこでぜひ伺いたかったのが、「再生医療と長寿の関連」についてです。何か最新の知見はありますでしょうか。
齋藤:実例はまだかなり限られています。昨今、老化そのものを病と捉えようとする動きがあります。「老化は病である」と考えたときに再生医療がどのように寄与できるのかという点では、現時点ではそこまで到達していません。ただし、幹細胞やiPS細胞、間葉系幹細胞などの再生医療技術は、今後、老化関連疾患への応用へと発展する可能性を秘めていると思います。長寿科学研究では、地域や社会との共生、そしてQOLの向上が重要です。その中で再生医療と高齢者医療をどう統合するべきかを考えると、再生医療はあくまで「従」の立場にあり、ADLを改善するという観点から、リハビリテーションの一環として貢献することが重要だと考えています。
ただ実際に、再生医療と高齢者医療が統合されて、高齢者が若返るかといえば、そうではないでしょう。時間は前にしか進みません。老化を「病」と捉えるのか、それとも自然な経過と捉えるのか。その線引きをどうするのかという問題もあります。
大島:「不老長寿」という言葉がありますが、医学がそれを目標に掲げてよいのか、という問いに行き着きます。老化は人間である限り避けられないものです。寿命の延伸だけを目的とすることには、やはり違和感を覚えます。
齋藤:不老長寿は、そもそもあり得ないことですからね。iPS細胞が発見された当初は、「がんも治るのではないか」「老化も防げるのではないか」と期待されましたが、現実はそうではありません。今のところ、iPS細胞を用いた網膜や軟骨の治療は、いずれも実験段階で、一般医療にはなっていません。再生医療の中で、一般医療として確立しているのは、従来から行われてきた体性幹細胞を用いた骨髄移植やさい帯血移植のみで、これは世界的に見ても同様です。ただし、iPS細胞技術は創薬の分野では役立っていると思います。
大島:もし不老長寿が実現して、人が死ななくなったら、それはそれで大変ですね。

齋藤:その点に関連して、シェリー・ケーガンの著書『DEATH』(日本縮約版:『「死」とは何か イェール大学で23年連続の人気講義』、文響社)という興味深い本があります。人間が必ず直面する「死」というテーマを、哲学的に問い直した一冊です。例えば、肉体がなくなっても「心(魂)」は残るのか。不死が可能だとしたら、それは本当に望ましいのか。仮に寿命が500歳まで延びたとしても、やはり死は怖いでしょうし、人間はきりがありません。死を通して「生きる意味」をどう考えるべきか、深い問いが提示されており、ぜひ多くの方に読んでいただきたい本です。
若い世代へ伝えたいこと
大島:齋藤先生は、医師として時代を越えて社会と関わり、年を重ねる中で多くの経験を積んでこられました。これからの若い世代へ、何かアドバイスがあればお願いいたします。
齋藤:私は現在86歳になりました。年齢を重ね、医療現場から次第に離れていくと、薬の名前も忘れ、心電図の読み方も忘れてしまい、とても外来診療はできません。だからこそ若い人たちに伝えたいのは、その時々に直面する課題に一生懸命取り組んでいくしかない、ということです。
最近、私がよく思うのは「一日一生」という言葉です。かつてボストンの病院でお世話になったボスが、いつも「The present life is a gift of God's grace」(今生きているのは神のご慈悲だ)と言っていました。私が尊敬する日本人の方は、「朝、目覚めたときに、人間に生まれたことにどれだけ感謝できるか」と語っていました。高齢者であっても、若い人であっても、一日を一生だと思い、今という時間を大切に生きることが大事だと思います。
大島:「一日一生」、とても良い言葉ですね。一日一日が、より尊く感じられます。齋藤先生には、これからも再生医療の発展にお力をお貸しいただきたいと思います。また長寿科学振興財団の理事としても今後ともご協力をお願いいたします。本日は貴重なお話をありがとうございました。
対談者

- 齋藤 英彦(さいとう ひでひこ)
- 国立病院機構名古屋医療センター名誉院長
1963年名古屋大学医学部卒業、1968年同大学院医学研究科修了。血液学・臨床腫瘍学を専攻。米国Case Western Reserve大学内科Associate Professor、佐賀医科大学内科教授を経て、1984〜2001年、名古屋大学第一内科教授、同医学部長、附属病院長を併任、その後、国立病院機構名古屋医療センター院長(現名誉院長)、名古屋セントラル病院長、(公財)日本骨髄バンク理事長、日本さい帯血バンクネットワーク会長、AMED再生医療のプログラムディレクターを務める。米国Association of American Physicians名誉会員(1985年)、FACP Robert Grant Medal(2009年、国際血栓止血学会理事長)。The American Society for Clinical Investigation(会員)。名古屋大学名誉教授。長寿科学振興財団理事。

- 大島 伸一(おおしま しんいち)
- 公益財団法人長寿科学振興財団理事長
1945年生まれ。1970年名古屋大学医学部卒業、社会保険中京病院泌尿器科、1992年同病院副院長、1997年名古屋大学医学部泌尿器科学講座教授、2002年同附属病院病院長、2004年国立長寿医療センター初代総長、2010 年独立行政法人国立長寿医療研究センター理事長・総長、2014年同センター名誉総長。2020年より長寿科学振興財団理事長。公益財団法人在宅医療助成勇美記念財団理事。2023年瑞宝重光章受章。
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