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いつも元気、いまも現役(YouTube「Earthおばあちゃんねる」チャンネル登録者17万人超 多良美智子さん)

 

公開月:2026年4月

たらみちこ氏の写真。

自然体が多くのファンを惹きつける

 神奈川県の築59年の団地で、ひとり暮らしを楽しむ多良美智子さん、91歳。孫のあーすさんと始めたYouTubeEarthおばあちゃんねる(外部サイト)(新しいウインドウが開きます)」では、何気ない日常を配信し、登録者数17万人を超える人気チャンネルに。『87歳、古い団地で愉しむ ひとりの暮らし』をはじめ、すばる舎から出版されたライフスタイル本3冊も大ヒット。

 気温がぐっと下がった1月、4階にある美智子さんの部屋を訪ねた。玄関を入った瞬間、ほかほかとした暖かさに包まれる。もとは小さく仕切られた3DKだったが、障子やふすまを取り払い、ひとつの大きな空間として使っているという。

 「子どもたちが巣立ったあと、仕切りを外してワンルームにしたんです。そうしたら動きやすいし、掃除もしやすい。おかげでストーブひとつで十分。お風呂も寒い思いをしません」

 そう語る美智子さんは、91歳とは思えないほど声に張りがある。

 50平米の室内には、美智子さんの"好き"がぎゅっと詰まっている。飴色に艶を重ねたダイニングセット。古伊万里の皿、絵手紙の作品、家族写真などがセンスよく飾られた民芸箪笥。壁には中米・パナマの手芸「モラ」の作品。物は決して少なすぎず、多すぎず。隅々まで整えられた空間には温もりがある。訪れた人が口にするのは、「なんて居心地がいいの」というひと言だ。

 「"特別"なものなんて、何もないんですよ」。美智子さんはそう微笑む。だが、その"自然体"こそが、多くのファンを惹きつけてやまない理由だ。

 夫を見送ってから12年。「家族5人のときは手狭だったけど、今は目の行き届くこの広さがちょうどいい」。年を重ねて、ますます団地のよさを実感している。

濱田庄司、白洲次郎、柿右衛門などのお皿を収納している民藝箪笥の写真。
民藝箪笥には、濱田庄司、白洲次郎、柿右衛門などのお皿を収納。一つひとつ集めた大切なお皿

お金はしっかり貯め、必要なときに使う

 美智子さんの長崎の父は会社を経営していたが、知人の借金の保証人になったことで倒産。さらに、夫の勤め先も倒産するなど、苦労を重ねてきた。そんな環境もあり、美智子さんは「お金はしっかり貯め、必要なときに使う」という考えを持つようになった。

 お金の使い方では夫と意見が一致していた。「お金をかけるなら子どもの教育に」。家の購入も考えたが、大きなローンは足かせになる。団地は身の丈にあった住まいと感じている。

 貯金をしているからこそ、本当に気に入ったものに出会ったときは、迷わず購入する。銀座の木工展で偶然出会った仏壇、団地の天井の高さに合った低めのダイニングセット、民藝箪笥に収められた濱田庄司、白洲次郎のお皿もそうだ。気に入ったものに囲まれる、美智子さんの暮らしぶりがうかがえる。

コロナ禍で始めたYouTubeが転機に

 美智子さんの転機は85歳、2020年。コロナ給付金で購入したスマートテレビでYouTubeをみたことがきっかけだった。「絵手紙や水彩画、モラの作品も、私がいなくなったら灰になると思うと、少し寂しい。YouTubeに映像を出したら、子どもたちが見てくれるかもしれない。九州にいる親戚にも、元気な姿を見てもらえるかも」。そんな思いがふと頭にひらめいた。

 孫の得意分野を伸ばしてあげたいという思いから、当時15歳だったあーすさんに撮影を頼むことに。第1回は「ちらしずしとエビフライをつくる動画」。シングルファーザーの次男とあーすさん親子のためにつくったメニューだ。次男親子は月2回、美智子さん宅を訪れている。

 「たまに来るときには、手をかけて好きなものをつくってあげたいと思って用意した料理です。最初はそれほど反響はなかったけれど、料理ならレパートリーはいくつもあるので、特別な料理ではない普段の料理や日常の暮らしを、どんどんYouTubeにあげていこうと思ったんです」

 当初は親戚だけが見ていたチャンネルだったが、2か月後に公開した「団地のお部屋紹介」の動画の再生回数がぐんぐん伸び(現在266万回以上)、チャンネル登録者数も一気に増えた。人気の動画には、「団地一人暮らしの日常」を紹介するものが多く、「保存食を作る!」「ある日の夕飯」「モーニングルーティーン」などが並ぶ。

 YouTubeを始めた当時15歳だったあーすさんは、現在、デザイン系の専門学校生。「お孫さんが声変わりしたね、とか、視聴者さんが孫の成長を一緒に喜んでくれるのが嬉しい」と美智子さんは目を細める。

YouTubeにも登場する、なます皿の写真。
YouTubeにも登場する、なます皿。煮物も刺身も何でも受け止めてくれる
愛用のたこ唐草のそば猪口の写真。
晩酌にはたこ唐草のそば猪口で日本酒を1杯

出会う人はみんな先生

 YouTubeがきっかけとなり書籍も出版した。『87歳、古い団地で愉しむ ひとりの暮らし』を皮切りに、『88歳ひとり暮らしの元気をつくる台所』『90年、無理をしない生き方』(いずれも、すばる舎)は、累計20万部のベストセラー。

 YouTubeのコメントや、書籍の読者アンケートのはがきには、すべて目を通しているという。「すごい量でしょう?」と見せてくれたアンケ--トのファイルは、すでにNo.8まである。

 「60代の読者さんが、『年を取るのは嫌だと思っていたけれど、多良さんみたいな老後があるなら希望が持てる』と書いてくださるんです。そういうメッセージは嬉しいですね」

 多くの人が共感するのは、美智子さんが「ひとり暮らしを存分に楽しんでいる」ことだろう。

たらみちこ氏と妹のたらくみこ氏の著書が並んでいる写真。
美智子さんの著書『87歳、古い団地で愉しむ ひとりの暮らし』『88歳ひとり暮らしの元気をつくる台所』『90年、無理をしない生き方』と、8歳年下の妹・多良久美子さんの著書『80歳。いよいよこれから私の人生』(いずれも、すばる舎)

 「主人とは九つ違いでしたから、先に逝くことはずっと頭にありました。だから、一人でも楽しめるものをたくさん持っていたほうがいいと思っていたんです。それで絵手紙を始めたり、好きだった編み物を学び直したり、モラをとことん突き詰めたり。いつも一人で楽しめるものをそばに置いてきたことが、今も役に立っています。だから一人でも全然寂しくないです」

 これまで続けてきた習い事は、絵手紙、水彩画、編み物、第九を歌う会、歌の教室、麻雀など。長いものでは20年近くになる。

 「外に出れば、お稽古事がいくつもあって、全部ご近所。こんな年寄りを受け入れてくださってありがたいわ。皆さんから『若い』と言っていただくことがあるのですが、『あなたたち若い人が付き合ってくれるから、私も若くいられるの』と、いつも感謝しています」

 「出会う人はみんな先生」と美智子さんは言う。いいところはどんどん受け入れ、嫌なところは自分はしないようにする。無駄な出会いはひとつもない。

外に出て社会とつながることの大切さ

 「この年になると、家から一歩外に出て社会とつながることの大切さがわかります。困ったことを口にすると、皆さんがいろいろ答えを出してくれる。その中から自分に合うものを取り入れることができます。社会とつながっていないと楽しくないし、成長もないと思うんです。できれば人の役に立つことも、少しやれたらいい。絵手紙の手ほどきを長いこと続けてきましたが、少しは役に立てたかなと思います。そういうことが私の元気の源になっているのでしょうね」

 90歳を機に、無理をしない生活を心がけるようになった。19年間続けた「第九を歌う会」は昨年のステージで卒業。絵手紙の手ほどきも、生徒たちが十分に上達したのを機に区切りをつけた。4階までの階段は、片手で手すりを持ち、もう片方の手で壁に触れながら、より慎重に上り下りしている。

 「衰えてきたところもありますが、年齢を重ねれば当たり前。そういう姿を見ていただくことも大事だと思っています。無理はしないけれど、できることを楽しみます。だってせっかく生きてきたんですもの!」

 無理をせず、自然体で年齢を重ねていく。その姿もまた、YouTubeで発信していきたいという。その姿に、多くの人が背中を押されている。

撮影:丹羽 諭

プロフィール

たらみちこ氏の写真。
多良 美智子(たら みちこ)
PROFILE
1934年長崎県生まれ。8人きょうだいの7番目。戦死した長兄以外はみな姉妹。小学生のとき戦争を体験、被爆する。戦後すぐに母を亡くし、父や姉たちに育てられる。27歳で結婚後、神奈川県の現在の団地に引っ越し、59年間暮らす。12年前に夫を見送り、ひとり暮らし。2020年に当時中学生の孫と始めたYouTubeEarthおばあちゃんねる(外部サイト)(新しいウインドウが開きます)」では、日々の暮らしや料理をアップし、登録者数17万人超のチャンネルに。著書に『87歳、古い団地で愉しむ ひとりの暮らし』『88歳ひとり暮らしの元気をつくる台所』『90年、無理をしない生き方』(いずれも、すばる舎)。

※役職・肩書きは取材当時(令和8年4月)のもの


公益財団法人長寿科学振興財団発行 機関誌 Aging&Health 2026年 第35巻第1号(PDF:5.4MB)(新しいウィンドウが開きます)

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