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多世代交流から考える地域のフレイル対策

 

公開月:2026年4月

高橋 知也(たかはし ともや)

東京都健康長寿医療センター研究所 社会参加とヘルシーエイジング研究チーム研究員


「フレイル」という概念の定着と拡張

 近年、健康長寿の達成に向けた重要なキーワードのひとつとして「フレイル(Frailty)」という概念の定着が進んでいる。日本老年医学会はフレイルに関するステートメント1)の中で、フレイルを「高齢期に生理的予備能が低下することでストレスに対する脆弱性が亢進し、生活機能障害、要介護状態、死亡などの転帰に陥りやすい状態で、筋力の低下により動作の俊敏性が失われて転倒しやすくなるような身体的問題のみならず、認知機能障害やうつなどの精神・心理的問題、独居や経済的困窮などの社会的問題を含む概念」と定義している。

 日本ではフレイルという概念が老年医学の領域から導入・普及した経緯もあり、「虚弱」や「老衰」といった身体面での機能低下の文脈で語られることが少なくなかった。しかし、強調しておきたいのは、今日フレイルという概念が筋力やバランス機能といった身体機能の低下だけでなく、認知機能の低下や抑うつなどの心理・精神的機能の低下、あるいは閉じこもりや社会的孤立といった社会的側面の低下にまで拡張されている点である。実際に国外においても、「身体的機能のみならず、認知的機能や抑うつなどに代表される精神的機能、社会的機能といった生活機能が全体的に脆弱化した状態像」2)として捉えるなど、フレイルを多面的に捉えて対応すべきという認識が広がっている。

 また、フレイルは健康な状態から機能的障害の発生に至る中間に位置しており、早期かつ適切な介入によって生活機能の維持・向上が期待できる。地域における通いの場などの居場所がフレイル予防の場としても機能すれば、住民同士の緩やかなつながりの形成とフレイル対策の両全を達成することもできよう。

地域における多世代交流の現在─アフターコロナを迎えて

 昨今の単身世帯増加や職住分離、自治会をはじめとする地域コミュニティの縮小に加え、2020年以降猛威を振るった新型コロナウイルスの流行も重なり、2020年代前半の地域における多世代交流をはじめとする地域活動は大きな打撃を受けた。新型コロナウイルスの流行拡大を防ぐべく、地域住民は外出自粛による感染症予防を励行したが、同時に閉じこもりや孤立による心身の健康への悪影響も大きくなるパラドックス3)を生じさせることとなった。特に高齢者においては、日常生活における活動量の低下による身体的フレイルおよび認知機能低下リスクの増大のほか、社会的孤立がもたらす生活の質や健康への悪影響が指摘されてきた4),5)

 ではこのような状況におかれたことで、高齢者の多世代交流を含めた社会参加活動に対する熱意がすっかり失われてしまったのかといえば、決してそうではない。一例として、筆者らがコロナ禍のただ中にあった2020年9月から11月にかけて実施した「絵本読み聞かせボランティア『りぷりんと』に所属する高齢者を対象としたアンケート調査」の結果を分析した結果、高齢者が新型コロナウイルスに対する恐怖心を持ちながらも、それによってボランティア活動継続への意向が減じられることはほぼなかったことが示された6)(図1)。また、同調査における自由記述からは、対面での活動からオンラインを用いた活動へとシフトするなどの感染症対策に努めながら活動の幅を広げる試みや、対面での交流の再開に備えて自己研鑽に励むなど、個々人が試行錯誤しながら多世代交流に対するモチベーションを維持している様子がみられた。

図1、絵本読み聞かせボランティアの活動継続意向に関する共分散構造分析の結果を表す図。
図1 絵本読み聞かせボランティアの活動継続意向に関する共分散構造分析の結果
  • (1)図中の矢印は想定した影響の方向を、付与されている数値は関係の強さを示す(数値が大きいほど関係が強い)
  • (2)赤の(太い)矢印は統計的に有意な関係があることを、青の(細い)矢印は有意な関係があるとはいえないことを示す
  • (3)実線は一方が高いほどもう一方も高い傾向があることを、点線は一方が高いほどもう一方が低い傾向があることを示す

 現在はアフターコロナ局面を迎え、通いの場や地域サロンの整備など、地域における居場所づくりが再び広がりつつある。実際に、筆者らが前述の絵本読み聞かせボランティアを対象として2020年から2024年にかけて行った調査でも、アフターコロナ局面を迎えて地域でのボランティア活動を再開する高齢者が漸増している様子がみられている(図2)。

図2、2020年から2024年における絵本読み聞かせボランティア「りぷりんと」会員の活動頻度の推移を表す図。
図2 2020年~2024年における絵本読み聞かせボランティア「りぷりんと」会員の活動頻度の推移

 そこで次に問われるのは、一度大きな打撃を受けた地域活動をいかに再興し、継続可能な形で地域に根付かせるかという問題である。フレイル対策に地域ぐるみで取り組むには、地域住民が世代や性別を超えて同じ場に継続的に集い、互いの存在を自然に感じ合えるような仕掛けの構築が重要である。

多世代交流を通じたフレイル対策の例

 フレイルが身体・精神・社会と多面的な概念である以上、その対策もまた多面的であることが重要であるが、多世代交流は外出・歩行・活動量の増加、認知機能の維持向上、社会的孤立の予防とネットワーク形成に寄与し得る点で有力なフレイル対策のための多面的アプローチであるといえる。ここではフレイルの3側面について整理しつつ、多世代交流を交えたフレイル対策について具体例を挙げながら述べたい。

1.身体的フレイル

 身体的フレイルは、加齢に伴う筋肉量の減少や、運動器の痛み・機能不全、骨粗しょう症などを背景に、身体が虚弱化している状態として捉えられる。身体的フレイルが進行すると、バランス能力の低下に伴う転倒や骨折など、生活機能を大きく損なう出来事につながりやすい。一方で、運動量や食生活の改善、口腔ケアなどの適切な介入によって、身体的フレイル状態からの脱却が可能であることも明らかになってきた。

 近年、身体的フレイル対策として運動施設の利用促進のみならず、体操教室やラジオ体操などのグループ活動の形で筋力トレーニングや体操を導入する自治体が増えており、それらがもたらす効果の報告も行われ始めている7)。教室型プログラムは身体活動そのものがもたらす効果に加え、同じモチベーションを持つ地域住民が集うことによるコミュニケーションや達成目標の共有を生み、活動に対する継続意欲を高める。その点で、身体的フレイル対策においても多世代交流の要素は重要といえる。

2.精神的フレイル

 精神的フレイルは不可逆的な認知機能低下ではなく、「脳予備能が可逆性をもって低下した状態」と捉えられる8)。具体例としてしばしば取り上げられるのが軽度認知障害(MCI)である。MCIは早期の適切な介入による機能の維持・向上が期待できることが知られており、早期発見・早期介入が重要である。

 精神的フレイルは、疲れやすさや体重減少のように自身でも気づきやすい身体的フレイルと異なり、当事者に自覚が乏しいことも少なくない。そのため、通いの場サロンなどでの地域住民との交流の中で、お互いの日常の様子を緩やかに把握し合うことが早期発見・早期介入につながるケースもあり、やはり多世代交流の要素は重要といえる。また筆者らは絵本の読み聞かせや囲碁をコンテンツとする介入プログラムによる認知・身体機能の低下抑制効果についての検証を通じ、これらの有用性を示してきた9),10)。多世代交流のコンテンツとして、こうした知的活動を取り入れる試みがますます広がることを期待したい。

3.社会的フレイル

 社会的フレイルは、「地域社会や人との関係性が希薄化している生活状態像の総称」2)などの定義がなされている概念である。具体的には、継続的な閉じこもり、周囲からの孤立、社会的ネットワークの欠如などが該当し、死亡リスクとの関連11)などが示唆されている。

 高齢者の閉じこもりや社会的孤立への対策として、自治体や社会福祉協議会が主導しての外出支援、見守りを兼ねての居宅訪問などが進められている。しかし、客観的に必要な援助をも拒む、いわゆる「援助拒否」状態にある高齢者へのアウトリーチは容易ではない。また、筆者らの調査では「周囲からの援助が欲しい」という欲求と「周囲からの援助に頼りたくない」という抵抗感のいずれも強い、いわゆるアンビバレントな状態にある高齢者の精神的健康度が低いことが示唆された12)。以上に鑑みれば、アウトリーチが困難になる以前の段階から地域住民や専門家との緩やかなつながりを構築する場を設けるといった新たなアプローチ方法の検討が、今後さらに重要になると考えられる。

おわりに

 身体・精神・社会的フレイルを予防することは、健康寿命の延伸やウェルビーイングの向上、それらに裏打ちされた安定した生活基盤を維持するために重要である。多世代交流とフレイル予防が有機的に結びつきやすいことはすでに述べた通りであり、世代や性別を問わず地域の人々と関わり、その中に楽しみや役割を見出していくことが、結果としてフレイルへの対策にも寄与する。フレイル予防、あるいはフレイル状態からの回復には当事者による主体的な行動が必要であることは言うまでもないが、当事者だけでの取り組みには限界があり、地域ぐるみでフレイル対策を講じることが肝要である。

 加えて、自然発生的な多世代交流が生じにくくなっている現代社会において、多世代交流を持続可能なフレイル対策として根付かせるには、当事者の意欲と価値づけを引き出す誘因(インセンティブ)のほか、知識・技能の習得などによる自己効力感の充足、時流に沿ったコンテンツ選択といった要素も欠かせない。高齢者の多様なインセンティブに応えつつ、社会参加の動機を発揚し、多世代が交流し相互に支え合う関係性を育む取り組みを推進することで、地域住民全体の社会的孤立の予防やウェルビーイングの向上、社会関係資本の増大といった波及効果にも期待できよう。

文献

  1. 日本老年医学会:フレイルに関する日本老年医学会からのステートメント. (外部サイト)(新しいウインドウが開きます)2016(PDF:193KB)(2026年3月24日閲覧)
  2. 西真理子:社会的フレイルの意義. モダンフィジシャン 2015;35(7):831-835.
  3. Smith ML, Steinman LE, Casey EA.:Combatting social isolation among older adults in a time of physical distancing:the COVID-19 Social Connectivity paradox. Front Public Health 2020;8:403.
  4. Visser M, Schaap LA, Wijnhoven HAH. Self-reported impact of the COVID-19 pandemic on nutrition and physical activity behaviour in Dutch older adults living independently. Nutrients 2020;12(12):3708.
  5. Kimura M, Ojima T, Kondo K.:Implications for older people's lifestyle during the coronavirus disease(COVID-19)pandemic. The Japan Gerontological Evaluation Study(JAGES). Jpn J Health Res. 2020;41:3-13.
  6. Takahashi T, Matsunaga H, Sagara T, et al. Effects of fear of COVID-19 on older volunteers' willingness to continue their activities:REPRINTS cohort study. Geriatrics & gerontology international. 2024;24 Suppl 1:370-376.
  7. 庹進梅, 樺山舞, 黄雅 他:地域通いの場に参加する高齢者におけるフレイルの実態といきいき百歳体操効果の縦断的検討~大阪府能勢町いきいき百歳体操効果検証~. 日本老年医学会雑誌 2021;58(3):459-469.
  8. 櫻井孝:精神心理的フレイルの意義. モダンフィジシャン 2015;35(7):827-830.
  9. Suzuki H, Kuraoka M, Yasunaga M, et al.:Cognitive intervention through a training program for picture book reading in community-dwelling older adults:a randomized controlled trial. BMC Geriatr. 2014;14:122.
  10. Iizuka A, Ishii K, Wagatsuma K, et al.:Neural substrate of a cognitive intervention program using Go game:a positron emission tomography study. Aging Clin Exp Res. 2020;32(11):2349-2355.
  11. Garre-Olmo J, Calvó-Perxas L, López-Pousa S, et al.:Prevalence of frailty phenotypes and risk of mortality in a community-dwelling elderly cohort. Age Ageing. 2013;42(1):46-51.
  12. Takahashi T, Yokoyama Y, Seino S, et al.:Physical, psychological, and social factors related to help-seeking preferences among older adults living in a community. BMC public health. 2025;25(1):795.

筆者

たかはしともや氏の写真。
高橋 知也(たかはし ともや)
東京都健康長寿医療センター研究所 社会参加とヘルシーエイジング研究チーム研究員
略歴
2011年:横浜国立大学教育人間科学部卒業、2012年:東京都健康長寿医療センター研究所社会参加とヘルシーエイジング研究チーム非常勤研究員(~2021年)、2013年:横浜国立大学大学院教育学研究科修了(修士(教育学))、2017年:横浜国立大学大学院環境情報学府修了(博士(学術))、2021年より現職
専門分野
社会老年学、世代間交流学

公益財団法人長寿科学振興財団発行 機関誌 Aging&Health 2026年 第35巻第1号(PDF:5.4MB)(新しいウィンドウが開きます)

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