認知症の人が安心して買い物ができる環境について考える
公開月:2026年7月
進藤 由美(しんどう ゆみ)
東京都健康長寿医療センター健康長寿医療研修センター副センター長
国立長寿医療研究センター企画戦略局リサーチコーディネーター
はじめに
皆様にとって、「買い物」とはどのようなものであろうか。日常生活において食料品や日用雑貨などの生活必需品の購入は頻繁に行うものであり、衣料や雑貨類など自分の好みのものや友人・知人への贈り物を選ぶことが楽しみである人も多いであろう。
買い物に関する調査研究としては、購入者の楽しみや満足度といった心理学的な視点からのアプローチの他、買い物場所への利便性といった都市計画の視点、さらに買い物先である店舗の建築やデザインに関する視点など、様々な視点から数多くの調査・研究が行われている。特に、高齢者に焦点を当てた研究では、居住地域や移動手段、自身で買い物ができるか否かといった視点から比較・分析が行われている。
本稿では、認知症の人が安心して買い物できる環境とは何かについて、筆者が2024年にUniCoプロジェクトの一環として実施した「買い物動向調査」で得られた発言を紹介し、先行研究と照らし合わせながら考察する。なお、買い物動向調査の概要は表の通りである。
| 調査対象 | 概要 |
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| 調査対象施設 |
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| 調査参加者 |
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先行研究で指摘されていること
先行研究の多くは、地域在住高齢者を対象に質問紙等で調査を行っている。そのため、調査設計も「安心」より「利便性」や「満足度」を指標としているものが多い。例えばMoukrimら1)は、店舗デザイン、従業員、雰囲気、混雑度といった店舗環境が顧客満足度に影響を与えることを報告している。
また、鎌田ら2)は、食料品に関する高齢者の買い物行動および買い物への態度について、若年者と比較し、共に買い物での不注意や衝動性が低く、混乱することが少なく、買い物を楽しいと感じているほど、買い物に充実感を感じていると報告している。さらに、高齢者は若年者よりも買い物全般に対する満足度が高い傾向が認められた一方、買い忘れが多い、商品の説明書きが見づらいといった、買い物での失敗や困難が生じやすい傾向であったことを報告している。
認知症に焦点を当てた先行研究としては、買い物・金銭管理における行動特性3)や認知機能別の財布動作能力4)、まち歩きの際の経路選択の特徴5)、認知症の人の買い物時の動作や経路検索など、心理学や工学の分野において論文がいくつか報告されている。
店舗環境における認知症の人からの意見
UniCoプロジェクトにおいては、認知症の人にやさしい環境づくりを通じ、「認知症の人が社会とのつながりを保ちながら、幸福で健康に過ごせる社会の実現」を目指しており、まずはMoukrimらの報告にある店舗側の要因に沿って認知症の人からの意見を紹介したい。
1.店舗デザイン
今回対象となった店舗は大型商業施設ということもあり、店舗の広さや動線などについて、広すぎる、店舗をさがしにくいといった意見があると想定していたが、特段の意見はなかった。その一方、(1)店舗の看板や出入口、(2)売り場内に掲示されているレジマーク、(3)トイレの案内表示において複数の意見があった。
(1)店舗の看板や出入口
今回対象になった店舗は自家用車での来場を想定されたつくりとなっているためか、店舗全体の看板等は大通りや駐車場からは見やすい位置に設置されているが、電車やバスからの動線上には看板が少なかった。そのため、「店舗の場所がわかりにくい」という声が聞かれた。また、出入口が複数あることで、「入店時に利用した出入口がわからなくなり、帰りに困る」という意見もあった。
(2)売り場内に掲示されているレジマーク
1施設では壁の色に同化する色味でレジマークが記されていたためか、同行した研究者にはレジ周辺に3つのレジマークが見えていたが、認知症の当事者からは「マークが見えない」という報告があった。
(3)トイレの案内表示
本調査で最も多く意見が寄せられたのはトイレの案内表示である。具体的には、表示が高い位置にある、売り場のイメージに合わせて色味が変わる(例:男性は青、女性は赤のピクトグラムで表示されているところと、黒のピクトグラムが使われているところがあるなど)などにより、トイレに向かう途中で案内表示を見失ってしまうとの報告があった。
また、認知症の人やその家族より、「買い物中は視線が下側に行ってしまい、上のほうの案内には気づきにくい」という指摘があった。
2.従業員
従業員の対応は丁寧かつ親切であったとの報告が多くあった一方、認知症の人のペースとかみ合っていない場面があった。具体的には、購入したい商品の売り場を店員に確認したところ、店員が案内を申し出てくれたが、案内中の歩みが速く、認知症の人がついていけない場面があった。また、昼食購入の際の会計時に早口で箸の要不要やおしぼりの数などを聞かれ、認知症の人が何度か聞き返すといった場面があった。
3.雰囲気・混雑度
いずれの店舗においても、調査を行ったのが平日の昼間であり、店舗全体がすいていたこともあり、全体的にゆったりした雰囲気であったため、雰囲気や混雑度に関する意見は特になかった。また、昼食でフードコートを使用した際、周囲が少し騒々しかったが、それについても特に気にならないとの意見であった。
4.その他:支払い・値段表記
上記カテゴリ以外に、支払い時と値段表記について意見があった。
まず、支払いについて、買い物動向調査時は店員のいるレジにて会計をしたが、終了後の振り返りの際、日ごろの買い物にてセルフレジを使うことが難しいという意見が複数報告された。その理由として、セルフレジは機種によって操作方法が異なること、ポイントカードの有無やレジ袋の購入など、複数の質問に答えなければならない機種があること、お金の投入口の形状が異なり、紙幣の向きや硬貨の入れ方を毎回確認する必要があること、そしてその間にも「お金を投入してください」という音声が繰り返し流れるため、焦りを感じることといった意見があった。
また、値段表記について、菓子類や野菜など、1個当たりの単価が決まっているものや箱型の入れ物の値札はわかりやすいが、袋にシールで貼ってある値札は文字がゆがみ、読みにくいという意見があった。
認知症の人にとって安心して買い物できる環境について
買い物動向調査全体においてあがった意見を集約すると、看板や出入口、レジやトイレといった案内表示や値段といった「案内表示・表記のわかりやすさ」と、認知症の人のペースに合わせた支援や支払い時の混乱のなさ、つまり「従業員による適切な支援」が、認知症の人が安心して買い物ができる環境に必要な要因の一端であると考えられる。
まず、「案内表示・表記のわかりやすさ」について、吉崎ら6)によると、文字列の中から目標となる文字を探す視覚探索のスピードは、40代と比較し、70代では70%まで低下することが報告されている。また、Yamadaら7)は、アルツハイマー型認知症やレビー小体型認知症の人は、視覚的探索が低下し、全体像を探索するのではなく、より少ない位置に焦点を当てる傾向があること、また、文字や標識等の視覚提示物への注意が減少することを報告している。さらに髙橋8)によると、高齢者は空間的な広がりが大きい場面では、注意の配分を移動に影響のある足元に集中させる傾向があると紹介されている。
また、「従業員による適切な支援」について、本特集にてNPO法人やまぼうしネットワーク理事長の紺野敏昭氏より、スローショッピングの紹介があるので、詳細はそちらをご参照いただきたいが、留意したいポイントは「認知症の人のペースに合わせる」ことであろう。前述した吉崎ら6)やYamadaら7)、髙橋8)が指摘しているように、認知症の人は必要としている情報を視覚により探索する際に時間がかかる場合がある。また、歩くスピードや支払い時にお金を取り出す動作など、人によって動作にかかるペースは異なる。そのため、従業員には、認知症の人に限らず、一人ひとりの顧客のペースに合わせた支援が期待される。
2005年に認知症サポーター養成講座が開始され、大規模商業施設等では認知症サポーター養成講座を開催し、従業員の受講を促しているところもある。また、愛知県では「日ごろ認知症の人と関わる機会が多いことが想定される小売業、金融機関、公共交通機関等で働く人たちが、認知症への対応を身に付け、日常の業務でさりげなく支援できるようになること」を目指し、県が独自に開発した「ONEアクション研修」を導入している9)。
買い物動向調査にて協力をいただいた1施設は、認知症サポーター養成講座を定期的に開催しており、認知症の理解の推進に力を入れている。それを実践に活かすには、接客場面において、顧客のペースを確認しながら必要と思われる声かけや支援を行うことが重要であろう。
認知症基本法と小売業者に求められるもの
2024年1月に施行された「共生社会の実現を推進するための認知症基本法」の基本理念には、「自らの意思で日常生活・社会生活を営む権利」や「社会の一員として活動に参加する機会の確保」が明記されている。
しかし、地域在住高齢者のうち、認知症のある人は、健康な高齢者や要介護高齢者に比べて買い物の機会を含む外出そのものが減っていることが、本特集において小松亜弥音氏より報告されている。もし、「買い物」を行う際の環境に「障壁(バリア)」があり、それによって認知症の人の買い物の機会が減っているのであれば、事業者にはそれに対する「合理的な配慮」が求められる。
今回の買い物動向調査で報告のあった「案内表示・表記のわかりやすさ」と「従業員による適切な支援」は、実際の買い物場面で報告された認知症の人の声をもとに整理したものであり、「合理的配慮」を検討する際のヒントになるであろう。とはいえ、案内表示や値段の表記方法の変更には予算や時間がかかるため、改修や変更のきっかけの際に導入できるよう準備を進めておきたい。
一方で、従業員が認知症の人を含む、顧客のペースに合わせて支援を行うことについては早い段階で取り組むことができるであろう。最近、多くの業種において人手不足が指摘されており、スーパーやコンビニなどにおいてセルフレジを含む効率的なサービス提供が推進されているが、認知症の人からは「焦ってしまう」という報告があった。鎌田ら2)が指摘している通り、買い物時の混乱が少ないことが満足度を上げることを踏まえると、スローショッピングのような取り組みが普及することや、セルフレジ中心の店舗であっても従業員がわかりやすく案内をしたり、店内を案内するときには相手を見ながら案内をするといった、接客の基本的な姿勢を意識することで、認知症の人にとって買い物のしやすい環境となっていくと考えられる。
まとめ
認知症の人が安心して買い物できる環境として、「案内表示・表記がわかりやすい」ことと「従業員による適切な支援」が重要であることが、認知症の人の買い物に同行した調査によって明らかになった。今後、地域で暮らす認知症の人はさらに増加すると見込まれる。誰もが安心して買い物できる環境づくりに向け、今回の知見が取り組みの推進につながることを期待したい。
文献
- Moukrim, A, Gaber H, Diouch Y, Salami S: The Impact of Store Environment on Customer Satisfaction: An Empirical Investigation. International Journal of Trade and Management. 2024; 1(3): 19-30.
- 鎌田晶子、田中真理、秋山美栄子: 高齢者の買い物行動・態度に関する検討(1)─ 若年者との比較─. 生活科学研究 2012; 34: 15-26.
- 町田久見子、内田陽子、小谷弥生: 認知症高齢者の買い物・金銭管理ケアプログラムにおける行動特性.北関東医学 2006; 56(3): 225-230.
- 仙波梨沙、上城憲司、久保温子、村田伸: 地域在住高齢者の財布動作における認知機能別の比較. 日本臨床作業療法研究 2016; 3: 5-9.
- 二瓶美里、玉井顕、鎌田実: 軽度アルツハイマー型認知症者・軽度認知障害者のまち歩き経路支援方策に関する研究. 福祉のまちづくり研究 2017; 19(3): 9-18.
- 吉崎一人: 注意する力. 幸せな高齢者としての生活(唐沢かおり、八田武志 編著). ナカニシヤ出版, 2009, 19-35.
- Yamada Y, Shinkawa K, Kobayashi M, et al.: Frontiers in Neuroscience. 2024: 18(2026年6月23日閲覧)
- 髙橋一公: 加齢にともなう高齢者の視覚的認知機能の変化. 東洋文化研究所所報 2002; 6: 29-48.
- (2026年6月23日閲覧)
筆者

- 進藤 由美(しんどう ゆみ)
- 東京都健康長寿医療センター健康長寿医療研修センター副センター長
国立長寿医療研究センター企画戦略局リサーチコーディネーター - 略歴
- 【略歴】1994年:早稲田大学人間科学部スポーツ科学科卒業、1996年:早稲田大学大学院人間科学研究科健康科学専攻修了(人間科学修士)、社会福祉法人マザアス マザアス氷川台寮母、2005年:コロンビア大学大学院国際・公共経営研究科修了(公共経営学修士)、ニューヨーク教育審議会ニューヨーク補習授業校教員、ニューヨーク日系人会相談員、2010年:ニッセイ基礎研究所生活研究部門非常勤研究員、2013年:社会福祉法人浴風会認知症介護研究・研修東京センター主任研究主幹、2016年より国立長寿医療研究センター企画戦略局リサーチコーディネーター、2024年より東京都健康長寿医療センター健康長寿医療研修センター副センター長
- 専門分野
- 認知症施策、高齢者福祉政策
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