福祉とデザイン、人とまちをつなぐ みんなが主役の地域づくり(宮崎県三股町 コミュニティデザインラボ(社会福祉法人三股町社会福祉協議会))
公開月:2026年10月

自分たちのまちを自分たちで楽しく!
宮崎県南西部にある三股町は、都城駅から宮崎市方面へ電車で一駅のところに位置する。三股町社会福祉協議会(以下、社協)は、2020年4月、独自の組織「」(以下、コミュラボ)を設置し、住民主体の活動で地域課題を解決する地域づくりを進めている。コンセプトは、「自分たちのまちを自分たちで楽しく」。
コミュラボでは、「2025年までに、200の地域活動と、2,025人の地域活動者(プレイヤー)を生み出す」というミッションを掲げ、2025年に達成した。2026年9月現在、地域活動は201、プレイヤーは2,123人にまで増えている。人口約2万5千人の三股町では、住民のおよそ1割の人がプレイヤーとして地域活動に関わっていることになる。
特筆すべきは、地域活動の主役は地域の人、いわゆるプレイヤーで、コミュラボ研究員(スタッフ)は、あくまでも「人をつなぎ、場をつくる」コーディネート役という点だ。
「コミュラボでは、地域課題だけではなく、住民の『やりたい』や『わくわく』といったつぶやきもすべて拾い上げます。人と人を出会わせ、場をつくることで、地域活動とプレイヤーを増やし、その人たちが次のコーディネーターになっていく。そんな循環をつくっています」
そう語るのは、社協職員でコミュラボ所長の松崎亮さん。
コミュラボは、厚生労働省が推進する「重層的支援体制整備事業」※1として取り組んでおり、2025年度と2026年度には、内閣府の「」※2(以下、内閣府の事業)に採択された。
※1 高齢者、障がい者、子ども、生活困窮者など分野を問わず、地域全体で支える仕組みを構築する事業。
※2 多世代による地域活力を掘り起こし、地域課題を解決する持続可能な仕組みづくりに取り組む事業。
今回のルポでは、コミュラボの地域活動を取材し、住民主体の地域づくりの実践を紹介する。
デザインの力で福祉を届けたい人に届ける
コミュラボの原点にあったのは、「支援を届けたい人に、ちゃんと届けたい」という思いだった。社協では当時、「子どもの貧困」の課題に向き合っていた。しかし、支援が必要な人ほど、遠慮したり、「福祉に頼りたくない」と心を閉ざしたりして、窓口に来ることがなかった。そこで、東京都文京区の「こども宅食」を参考に、2018年、「みまたん宅食どうぞ便」(以下、どうぞ便)をつくった。窓口に来てもらうのではなく、食材を玄関先まで届ける。このとき初めてデザイナーとタッグを組み、チラシやホームページを制作。公式LINEから申し込めるようにした。
「福祉っぽさをなくしたら、何件も申し込みがあり、これまでつながれなかった人にも支援を届けることができました。チラシを地域の人がどう手に取って見るのか、というところから逆算して考えるのがデザインで、それがソーシャルワークに必要だとわかりました。しんどい状況にいる人が、『誰にも相談したことがなかったのに、なんか相談してしまっていた』となる仕組みをどうデザインするか。どうぞ便は、その最初の実践でした」と松崎さんは当時を振り返る。
デザインの力で、福祉を届けたい人に届ける仕組みをつくる。社協の培ってきた実践と、デザイナーの思考プロセスを掛け合わせて生まれたのが、コミュラボだ。
「やりたい」と「必要」から生まれた地域活動
コミュラボの200以上に及ぶ地域活動から、実践例の一部を紹介する。
「コメーキングスペース コメ」(以下、コメ)は、一見すると普通のおしゃれなカフェだが、福祉の窓口の機能を持った出会いの場だ。運営するのは、傾聴ボランティア団体「すず虫の会」。活動の場を探していたところ、町内の社会福祉法人から場所の提供を受けた。スタッフは傾聴ボランティアのため、気軽な会話を交わす中で悩みを聞いたり、必要に応じて社協につないだりする。コメでの何気ない出会いをきっかけに、新たな地域活動が生まれることもある。


樺山購買部は、「令和レトロ」をコンセプトにした買い物の場であり、多世代交流が生まれる場所。「何かしたい」というプレイヤーと、「多世代の出会いの場をつくりたい」という思いがマッチし、実現した。80歳になる公子さんと40代のDJパブリンさんが交代でお店を切り盛りしている。公子さんの「恋みくじ」は大人気。巫女姿の公子さんが祈祷した後、恋みくじを読み上げてくれる。
「ここには子どもたちもたくさん来ます。子どもたちが成長して高校生になり、大人になっていく姿を見るのがうれしいですね」と公子さんは顔をほころばせた。


NAZOは、古着屋であり、若者がつながっていく場所でもある。ドリンクを飲みながら、ゆっくり過ごすこともできる。社協に多くの衣服の寄付が集まっていたことに加え、地域に若者向けの洋服店がなかったことから生まれた活動だ。生活困窮者への衣服の提供も行っている。

夜の学童ホールに子どもたちの声が!
真夏の水曜日の夜、町内の学童ホールを訪れると、館内や運動場から小中学生のにぎやかな声が聞こえてきた。これは、平日の夜、18時半から20時まで開かれている「」だ。
運動場では、ドッジボールで汗を流している。ベイブレードの大会では、日頃の練習の成果を発揮。思うような結果を出せず、悔し涙を流す子もいる。別の教室では、フリーソフトをインストールした古いパソコンを使って、ゲームやプログラミングを楽しんでいる。各教室には、先生役を務めるプレイヤーの姿がある。
その活動を見守っているのが、「こども未来応援団体 タテヨコナナメ」に所属するコーディネーターたち。多くは、もともとプレイヤーとして地域活動に関わり、志願してコーディネーターになったという。
よる学校は、学童ホールのほか、町内の各施設でも開かれている。DJ教室や編み物会、麻雀教室、ゆるダンスなど、プレイヤーの「やってみたい」を起点に、さまざまな活動が生まれている。
この日、会場に来ていたあるプレイヤーは、「わくわくするから、プレイヤーとして関わっている。コミュラボの地域活動には、福祉を超えた、福祉の先の魅力がある」と話していた。


よる学校から広がった次の居場所
よる学校を始めた2023年当時、日中に不登校の子どもたちの居場所をつくっても、なかなか人が来ないという課題があった。
「人が動く動機や経路は、興味とか、おいしいとか、もっと単純です。多様な人が集まって、まずは出会うことが大事だと思いました」と松崎さんは、よる学校を始めた理由をこう語る。
よる学校では、同じ会場で複数の教室が同時に開かれる。教室から教室へと人が行き交うことで自然な回遊性が生まれ、月500〜600人が訪れるほどの人気の場となった。
「気づけば、よる学校には不登校の子どもたちがたくさん来ていました。そこから、フリースクールの『ひる学校』、子どもの放課後の遊び場『ゆう学校』ができました」
さらに、2026年夏には、「あさ学校」がスタートした。テーマは、朝起きる習慣や、外に出る習慣がない子どもたちと一緒に朝ごはんを食べ、生活習慣を見直すこと。第1回のあさ学校では、みんなで朝ごはんを準備し、円座になって朝食をとり、食後には、歯科医による歯科健診も行われた。あさ学校の校長も、歯科医もプレイヤーだ。

思わずつぶやきたくなる「お節介掲示板」
地域の声や課題を拾い上げる点については、2025年に内閣府の事業を受託したことを契機に、これまで担当者の経験や工夫に頼っていた取り組みを仕組化した。その名も「お節介にもほどがある!!」プロジェクト。「お節介掲示板」を、コメや樺山購買部、NAZOをはじめ、たこ焼きえっちゃん、セブン-イレブン三股樺山店など、町内17か所に設置。「最近、どうですか?」という問いかけに、住民が自由に書き込めるようにした。「なんか"ワイワイ"したい」「うちのお米を買ってほしい」─。思わずつぶやきたくなる場をつくり、住民のニーズや「やってみたい」を見つけ出す。そして、人と人をつなぎ、新たな出番や役割を生み出していく。

地域づくりにはロマンが大事 ロマンチスト大学の開校
2026年10月には、コミュラボ主催の「」が開校する。2025年度の「お節介にもほどがある!!」プロジェクトの実践をもとに、三股式の地域コーディネートを学ぶ場だ。2026年度に受託した内閣府の事業の一環として実施する。「地域コーディネートにはロマンが必要だ」という考えから、「ロマンチスト大学」と名付けた。地元生を含め全国から30人程度募集。特待生に選ばれた5地域には、コミュラボが地域づくりの伴走支援を行う。
「ロマンチスト大学を通じて、三股町で培った手法や思想を全国に広めたい。人口減少時代においても、地域で何かを創り出せるコーディネーターを全国的に増やすことが長期的な目標です」と松崎さんは展望を語った。
今回の取材で印象に残ったのは、よる学校で出会ったプレイヤーの「福祉の先の魅力がある」という言葉。「やってみたい」「わくわくする」から人が集まり、出会いが生まれる。福祉を超えた魅力が、人をつなぎ、その先で福祉にもつながっていく。三股町ならではの地域づくりがそこにあった。
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