不眠症の診断と治療~薬物療法と認知行動療法~
公開月:2026年10月
山寺 亘(やまでら わたる)
東京慈恵会医科大学葛飾医療センター精神神経科診療部長
東京慈恵会医科大学精神医学講座教授
はじめに
不眠症は、一般診療で最も遭遇する頻度の高い睡眠・覚醒障害である。睡眠障害国際分類第3版改訂版(International Classification of Sleep Disorders, Third Edition, Text Revision:ICSD-3-TR)1)の不眠障害は、慢性、短期、その他に分類される。主たる臨床対象は、慢性不眠障害(Chronic Insomnia Disorder)である。
診断基準と症状(表1)1)
1.基本的特徴
睡眠に適切な時間と環境を確保しても、入眠や睡眠維持の困難が週3回3か月以上持続して、不眠による苦悩、社会生活上の障害を生じる。孤発性または精神・身体疾患、物質使用に併存する。主訴は、入眠困難、睡眠維持困難、早朝覚醒などである。症状は主観的に規定される。小児~若年成人は睡眠潜時(横になってから眠りにつくまでの時間)と中途覚醒時間が20分以上、中年~高齢者では30分以上で、臨床的に有意とする。早朝覚醒は、希望起床時刻の30分以上早く覚醒し、総睡眠時間が短縮する。
2.随伴症状
不眠の結果、日中の心身機能が障害される。倦怠感、意欲・集中力・注意力・記憶力の低下、焦燥感、気分の低下、日中の眠気などである。仕事上の失敗や事故などの社会的弊害や、頭痛・胃腸症状などの身体症状が付随する。健康感を喪失して、不眠に過度にとらわれる。日中から睡眠を案じ、就床時刻が近づくにつれて不安を増強させる。
3.疫学、誘因、経過
人口の約10%に存在する。女性、低い社会経済階層に多く、高齢者で診断されることが多い。短期不眠障害の既往や精神疾患(気分障害や不安症)、身体疾患(慢性疼痛、呼吸困難、可動性低下)の併存、嗜好品の乱用・依存(アルコール、カフェイン、ニコチンなど)は、発症リスクを高める。仕事上のストレス、死別、離婚などの生活上の変化を誘因としやすい。神経質、内向的な性格は、素因となる。しばしば急性に発症するが、経過は状況依存的であり、反復性あるいは持続性である。誘因が消失しても、不眠は持続する。診断1年後も持続するのは約70%であり、50%は3年後も遷延する。
年齢層により、誘因や症状は異なる。若年者の概日リズム後退、高齢者の概日リズム前進や睡眠持続力の低下が反映されやすい。若年成人では入眠困難が最も多い一方、睡眠維持困難や早朝覚醒は、中年~高齢者に多い。高齢者では、長時間の臥床、身体疾患の症状や治療薬が悪影響を与える。
4.病態と客観的所見
生理学的覚醒の亢進に要約される。心拍数・心拍変動の増加、全身代謝率の増加、コルチゾール・副腎皮質刺激ホルモンの上昇、体温上昇、ノンレム睡眠脳波の高周波活動の増加などが指摘されている。交感神経系と視床下部―下垂体―副腎系の活動亢進が、睡眠と覚醒の機能障害を持続させる。
睡眠ポリグラフ検査(PSG)※は必須ではないが、除外診断に極めて重要である。睡眠関連呼吸障害・運動障害が観察されるか、治療を遵守しても十分な効果が得られない場合は、PSGを施行すべきである。多くは、客観的測定による睡眠よりも自身の睡眠を過小評価する。睡眠状態誤認と表現される。
※ 睡眠ポリグラフ検査とは、睡眠中の神経生理学的活動(脳波、筋電図、眼球運動)と呼吸及び循環器系活動の同時測定が可能な総合的な生理機能検査。
表1 慢性不眠障害のICSD-3-TR診断基準
(出典:米国睡眠医学会, 日本睡眠学会診断分類委員会(監訳), 睡眠障害国際分類第3版改訂版. 2025, p.31))
基準A-Fを満たす
治療
初期対応は睡眠衛生指導の徹底である。薬物療法は補助的に併用される。難治例には、認知行動療法(cognitive behavioral therapy for insomnia:CBT-I)が有効である2)。
1.睡眠衛生指導
正しい知識を与え、良い眠りを導く生活を実践させる。医師など施行者の傾聴、受容、共感の姿勢が重要であり、良好な治療関係を基盤として効果が発揮される。心身状況や生活環境を全人的に把握し、早期から具体的に指導することにより、薬物療法なしに治療が終結する場合もある。その概要は、(1)良い眠りの理解、(2)規則正しい睡眠覚醒スケジュールの確立、(3)快適な物理・心理的睡眠環境の整備、(4)入床前の心身の調整、(5)睡眠薬服用時の指導、(6)必要時の専門医への相談─である。睡眠衛生指導には、薬物療法を終結させるために不可欠な服薬指導が含まれる(表2)。
表2 睡眠衛生教育としての服薬指導
- 治療開始の時点で、服薬の終了までが治療であることを共有する。
- 睡眠薬への抵抗感から服用自体を不安の対象とする場合には、睡眠薬は翌日の活動に支障を失くすための道具と割り切るように指導する。
- 処方時に、睡眠薬に関する正しい知識(作用と副作用)を十分に説明する。
- 服薬時刻を遵守させ、アルコールとの併用はしない。
- 薬物療法によって不眠の軽減が得られることは、患者が主体的に自らの誤った睡眠習慣を変容させることを促す。
- 本来の日常生活を取り戻すことができると、不眠へのとらわれも軽減する。
- 軽快後には、常用期間と同程度の時間をかけて減量・中止を試みる。
2.薬物療法
睡眠衛生指導の補助に、睡眠薬を使用する。投与時には、作用と副作用、服薬法を十分に説明する。不眠症状と日中の機能障害が安定したら、必ず減量・中止を試みる。治療薬には、GABAA受容体作動薬(ベンゾジアゼピン系、非ベンゾジアゼピン系)、メラトニン受容体作動薬、オレキシン受容体拮抗薬がある(表3)3),4)。病状に応じて、適切な作用時間と作用特性から薬物を選択する。常用量単剤を原則として、アルコールとの併用はしない。GABAA受容体作動薬は、抗不安薬を含めて3剤を超えないように心掛ける。睡眠薬の多剤併用、長期連用を抑制することを目的に、過去3回(2012、2014、2018年)の診療報酬改定がなされたが、睡眠薬の1か月処方率や1日処方力価を低減させる効果は乏しかった5),6)。
(出典:薬の添付文書、睡眠障害の対応と治療ガイドライン第3版, 20193)、睡眠薬の適正使用・休薬ガイドライン,20144)より筆者作成)

3.認知行動療法(CBT-I)
不眠を慢性化させる生活や認識を修正して、良質な睡眠が得られる習慣を身につける心理療法である。主観的な睡眠評価(特に入眠潜時)の改善度が高く、施行1年後も効果が維持され、導入例の70%で軽快する。精神・身体疾患併存例について、不眠だけでなく原疾患の症状も軽減させる。個人CBT-Iの減薬効果は明らかである。
以下の治療技法(構成要素)を組み合わせ、個人あるいは集団療法として施行される。(1)睡眠衛生指導、(2)認知的介入、(3)睡眠時間制限法、(4)刺激制御法、(5)漸進的筋弛緩法。(3)と(4)は行動療法的技法であり、併せて睡眠スケジュール法と総称する。
CBT-Iは、欧米の第一選択的・標準的な治療である。日本睡眠学会教育委員会は、個人療法用の実施マニュアルを作成している(表4)7)。しかし、研究結果と臨床実践の間には、大きな隔たりがある。施行者の属性や習熟度、患者の重症度や併存障害、構成要素などの介入手段を組み合わせ、情報提供から簡易版や集団療法、個人療法を振り分ける段階的ケア・モデル(stepped care model)が提唱されている。
表4 『不眠症に対する認知行動療法マニュアル改訂版』の内容
(出典:日本睡眠学会教育委員会編, 不眠症に対する認知行動療法マニュアル改訂版 . 20267)より著者作成)
本邦発の根拠8)として、スマートフォンベースの認知行動療法的アプリケーションの効果が実証された。2024年に製造承認され、独立行政法人医薬品医療機器総合機構(PMDA)の新医療機器使用要件等基準策定事業は適正使用指針を公表した9)。そして、厚生労働省による令和8年度診療報酬改定において、認知療法・認知行動療法の対象疾患に不眠症が加わり、公認心理師による認知行動療法的アプローチに基づく心理支援に対して新たに評価を行うこととなった。本邦の睡眠医療においても、軽症例にはDigital CBT-I、重症・難治例には対面式個人CBT-Iが、保険診療として普及していく兆しがようやく見えてきた。今後とも、行政の動向に呼応して、CBT-Iの適正使用・実施に向けて取り組んでいきたい。
おわりに
不眠症について、慢性不眠障害(ICSD-3-TR)の診断と治療を概説した。不眠という症候から不眠症という診断を導くには、その他の睡眠・覚醒障害を鑑別したうえで、日中の機能障害を確認する必要がある。治療的初期対応は睡眠衛生指導であり、薬物療法は補助的に施行される。難治例には認知行動療法の導入を考慮する。ありふれた、しかし重要な臨床単位である不眠症の診療は、医療全体で担うべきである。
文献
- 米国睡眠医学会, 日本睡眠学会診断分類委員会(監訳): 慢性不眠障害. 睡眠障害国際分類第3版改訂版. ライフサイエンス出版, 2025, 3-18.
- 山寺亘:不眠障害(不眠症).日本睡眠学会(編),睡眠学の百科事典.丸善出版, 2024, 394397.
- 内山真 編, 睡眠障害の対応と治療ガイドライン第3版. じほう, 2019, 107.
- 三島和夫 編, 睡眠薬の適正使用・休薬ガイドライン. じほう, 2014, 40.
- 三島和夫, 竹島正浩, 榎本みのり:大規模診療報酬データを用いた向精神薬の処方実態に関する研究.令和2年度厚生労働科学研究費補助金 障害者政策総合研究事業 向精神薬の適切な継続・減量・中止等の精神科薬物療法の出口戦略の実践に資する研究班研究分担報告書, 2021, 45-68.
- Okuda S, Qureshi ZP, Yanagida Y. et al.: Hypnotic prescription trends and patterns for the treatment of insomnia in Japan:analysis of a nationwide Japanese claims database. BMC psychiatry. 2023; 23(1):278.
- 日本睡眠学会教育委員会編:不眠症に対する認知行動療法マニュアル改訂版.金剛出版,2026.
- Watanabe Y, Kuroki T, Ichikawa D, et al.:Effect of Smartphone-based Cognitive Behavioral Therapy App on Insomnia:A Randomized, Double-blind Study. Sleep. 2023;46(3):zsac270.
- サスメド不眠障害用アプリMedcle適正使用指針ワーキンググループ. サスメド不眠障害用アプリMedcle適正使用指針(第3版). 2026, 1-10.
筆者

- 山寺 亘(やまでら わたる)
- 東京慈恵会医科大学葛飾医療センター精神神経科診療部長
東京慈恵会医科大学精神医学講座教授 - 略歴
- 【略歴】1988年:東京慈恵会医科大学卒業、1995年:東京慈恵会医科大学大学院博士課程修了、医学博士、2011年:スタンフォード大学医学部精神神経・行動科学講座スタンフォード睡眠研究所客員助教、2012年より東京慈恵会医科大学葛飾医療センター精神神経科診療部長、2013年:同大学精神医学講座准教授、2021年より同大学精神医学講座教授
- 専門分野
- 精神医学、睡眠学
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