健康づくりのための睡眠ガイド2023高齢者版~睡眠の質を高めるには~
公開月:2026年10月
栗山 健一(くりやま けんいち)
国立精神・神経医療研究センター精神保健研究所 睡眠・覚醒障害研究部部長
国立精神・神経医療研究センター病院 睡眠診療部部長
はじめに
「健康づくりのための睡眠ガイド2023」1)は、国民の健康づくり運動である「健康日本21(第三次)」における睡眠・休養分野の推進のために作成された。「健康づくりのための睡眠ガイド2023」は3つの推奨事項と6つの参考情報から構成されており(表)、成人(推奨事項1)、こども(推奨事項2)、高齢者(推奨事項3)の3つの世代ごとに推奨事項を設けて各世代における睡眠の特徴および生じやすい課題と対策を解説している。さらに、全世代が知っておくべき要点が参考情報1~6にまとめられている。
表 「健康づくりのための睡眠ガイド2023」の構成
(出典:厚生労働省, 睡眠対策. 健康づくりのための睡眠ガイド20231)より抜粋・作成)
高齢者が健康維持・増進を目指すためには、睡眠の質を高めることが重要だが、このためには睡眠時間を適正化し睡眠環境や生活習慣を見直す必要がある。
高齢者の健康維持・増進に必要な睡眠時間
米国国立睡眠財団は、健康維持に寄与する睡眠時間として、18歳から64歳の成人は7~9時間、高齢世代は7~8時間確保することを推奨している2)。この根拠として、2004年以降の10年間に報告された300超の研究データを用いたメタ解析で3)、成人の全死亡リスクは主観的(自覚的)な睡眠時間の長さと関連し、7時間を低点としたU(J)字曲線を描き増加すると報告されている3),4)。短時間睡眠、長時間睡眠いずれも糖尿病や肥満、心血管疾患などの発症を介し全死亡リスクの増加につながることが推測されるが5),6)、Kripkeら7)による年代別の解析では、長時間睡眠が全死亡に及ぼすリスクは、60代以降年齢が上がるにつれ増加することが示されている。
Yoshiikeら8)は、より精密に睡眠時間が健康に及ぼす影響を評価するために、脳波計を用いて客観的に睡眠時間を評価した縦断コホートデータを用いて、睡眠時間が全死亡(All-cause mortality)転帰に及ぼす影響を検討した。研究データからは、主観的睡眠時間と客観的に測定した睡眠時間はしばしば乖離し、特に高齢世代では、主観的睡眠時間は客観的睡眠時間より長く見積もられることが示されている(図1)。Utsumiら9)は、高齢世代において、この主観的睡眠時間が客観的睡眠時間より長く見積もられること自体が全死亡リスクを高めることを報告している。Yoshiikeら8)による前述の研究の結果、中年成人(40歳以上65歳未満)は客観的睡眠時間が短いこと(睡眠不足)が全死亡リスクを高めるのに対し、高齢者(65歳以上)では、客観的睡眠時間の長短は健康転帰に関連せず、床上(臥床)時間が長いことが全死亡リスクを高めることがわかった(図2)。

(出典:Yoshiike, et al., Sci Rep. 20228)より作成)

(出典:Yoshiike, et al., Sci Rep. 20228)より作成)
これらより、高齢者の主観的睡眠時間は床上時間を強く反映し、客観的睡眠時間よりも床上時間の過剰が全死亡リスク上昇に関連している可能性が窺える10)。「健康づくりのための睡眠ガイド2023」では、高齢世代においては床上時間を8時間以内にとどめ長時間臥床(床上時間過剰)を抑制することと、睡眠時間の見積もりにはできる限り客観評価をとり入れ、昼寝時間をできるだけ減らし夜にまとめて眠る習慣づけを推奨している。
睡眠の質の指標となる睡眠休養感
適正な睡眠時間を確保すると同時に、睡眠の質を高めることも高齢者の健康維持・増進に重要である。睡眠の質を評価する方法はさまざまあるが、近年「睡眠により休養がとれた」という主観(睡眠休養感)が、睡眠の質を反映した指標として有用であることがわかってきた。Yoshiikeら8)は、睡眠休養感が全死亡転帰に及ぼす影響も検討しており、床上時間が長いことに加えて睡眠休養感が低いことが全死亡リスクを高めることを明らかにした(図2)。
「健康づくりのための睡眠ガイド2023」では、睡眠休養感を向上させるために必要な、睡眠環境の整備、生活習慣の改善、睡眠に影響する嗜好品の摂り方に関して、詳細に解説している。さらに、特に高齢者においては、睡眠休養感低下・欠如の背後に潜む睡眠障害を早期に発見し治療することが重要である10),11)。
睡眠の質の向上・改善に寄与する睡眠・生活習慣
睡眠の質を向上・改善するための重要なポイントは、睡眠環境、日常生活習慣、嗜好品の摂り方の3点に集約できる。
1. 睡眠環境
睡眠の質を高めるためには、快適な寝室環境が重要である。快適な寝室の条件は、できる限り暗く、適度な温度で、静かな環境である。
ヒトの睡眠・覚醒リズムは、概日時計が生体内環境を調節する結果として、規則性を維持している。概日時計は環境光を第一の手掛かりにしていることから、日中に太陽光をできるだけ多く浴びるとともに夕方以降は照度の高い光を避けることで概日周期のメリハリが高まり睡眠が安定化する12)。高齢者は概日周期のメリハリが低下しやすく、夜間睡眠が浅くなりやすいと同時に日中に眠気が生じやすい。このため、昼間自宅に籠る、寝室でTVを視聴するなど、昼夜のメリハリを低下させる光環境は避けるべきである13)。夜中に尿意を催した際に、転倒を防止するなどの目的で寝室の照明をつけたままで就寝する習慣がある高齢者が比較的多いが、少しの照明であっても眠りは浅くなるため、できる限り暗い間接照明に留めることが推奨される。
著しく寒暖の激しい寝室環境も睡眠を悪化させる。夏季は30度以下、冬季は18度以上を目安に、夜間は寝具によって調節可能な室温帯に保つことが推奨される14)。夜間にエアコンを常時稼働させることに抵抗を感じる高齢者は比較的多いが、特に寒暖が厳しい盛夏や真冬は常時稼働が推奨される。
寝室内の騒音も浅眠化の要因となる15)。騒音にはある程度慣れが生じるため、TVやラジオをつけたまま寝付く習慣がある場合、気づかぬうちに睡眠の質が低下している可能性がある。
2. 日常生活習慣
日中の身体活動量を増加させることで、睡眠の量や持続性を増加させるのみならず、ストレスの解消にも貢献する可能性がある16)。日常生活動作に留まらず、可能な限り適量・頻回の運動習慣を取り入れることが、睡眠の質を高めることに役立つ。睡眠の質を高めるためには運動の種類は問わないが、ある程度の強度をもつ運動を、一定時間、定期的に行うことが望ましい17)。高齢者においては、太極拳、ヨガなどの適度な運動を集団で行うことで、社会的交流による相乗効果により、睡眠の質がより向上することが期待できる18)。
規則正しい食習慣も光環境と同様に、概日周期のメリハリを保つうえで有効である。高齢者においては、夕食を就寝直前に摂る、夜中に間食をする(夜食)習慣は、入眠を妨げ、浅眠化させるため避ける必要がある19)。
日常のストレスを解消する取り組みが有用である20)。ストレス状態が慢性化すると不眠症状の出現につながり、これを適切に対処しないと不眠症やうつ病の発症素地となる。ストレス解消には、適度な運動の他に、音楽鑑賞や読書など、リラックスする時間を積極的に設けることが大切である21)。逆に、床の中で頑張って眠ろうと努力する、長く床の中に留まるなどは睡眠の質を低下させ、不眠症の発症を促す。寝床に入る前に熱すぎない湯温でやや長めに入浴することも、リラックスを促すとともに末梢血管からの放熱を促すことにより入眠を促進し、睡眠を深めるために有効である22)。
3. 嗜好品
カフェインの摂取は眠気を緩和し、日中の活動効率を向上させる一方で、入眠を妨げ、浅眠化を促す23)。このため、カフェインの摂取は少量に留めるとともに、夕方以降は控えることが望ましい。ニコチンもカフェインと同様に覚醒作用を有するため、眠気覚ましや気晴らしに有効であるが、連続摂取や大量摂取の際には睡眠を妨げる24)。
アルコールは鎮静作用を有するため、わが国では入眠促進を目的に眠前に摂取する(寝酒として使用する)場合が多い25)。しかし、アルコールの代謝産物は逆に覚醒作用を有するため、中途覚醒の増加、浅眠化を促し、かえって睡眠の質を低下させる26)。
これら嗜好品には共通して、リラクゼーションを促すなど、ストレスを和らげるメリットがあるが、使用量、タイミングを誤ると睡眠の質を低下させる。若年・成人期からこれらの嗜好品摂取が習慣化していると、加齢とともに代謝能が低下するにつれて嗜好品の影響が相対的に強まり、高齢世代になって睡眠の質低下が顕在化する例も多い21)。
睡眠障害と睡眠休養感
多くの睡眠障害は加齢とともに発症率が高まり、知らぬうちに睡眠の質を低下させ、さまざまな生活習慣病などの発症素因となる。高齢者が睡眠障害に気づく目安の一つとして、睡眠休養感の低下・欠如が挙げられる。
代表的な睡眠障害である不眠症では、しばしば睡眠休養感の欠如が不眠症状に伴う27)。また、不眠症と同様に有病率の高い閉塞性睡眠時無呼吸では、浅眠化や中途覚醒時間の延長に伴い、睡眠休養感の欠如や日中の強い眠気が出現することがある28)。レストレスレッグス症候群や周期性四肢運動障害も、閉塞性睡眠時無呼吸と同様に浅眠化や中途覚醒時間の延長を生じ、睡眠休養感の欠如が生じうる29)。
その他、さまざまな精神・身体疾患に伴う睡眠障害においても、睡眠の質低下のサインとして睡眠休養感の欠如が生じる30)。痛みや痒みを伴う疾患は、浅眠化や覚醒時間の延長が生じやすく、睡眠休養感が低下しやすい31)。さらに慢性疾患の治療に用いられる薬剤の副作用として浅眠化や中途覚醒時間の延長を生じた結果、睡眠休養感の低下が生じうる。
おわりに
「健康づくりのための睡眠ガイド2023」には、健康増進に資する睡眠をとるための科学的知見に基づくヒントがまとめられている。さらに、「健康づくりのための睡眠ガイド2023」に完全に準拠した、簡潔なパンフレット形式の「Good Sleepガイド(ぐっすりガイド)」も作成されており、厚生労働省のホームページから自由にダウンロード可能である1)。高齢者の睡眠の質を高めるためには、本稿だけでなく、これらの資材もぜひ活用していただきたい。
文献
- (2026年9月24日閲覧)
- (2026年9月24日閲覧)
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筆者

- 栗山 健一(くりやま けんいち)
- 国立精神・神経医療研究センター精神保健研究所 睡眠・覚醒障害研究部部長
国立精神・神経医療研究センター病院 睡眠診療部部長 - 略歴
- 【略歴】1999年:筑波大学医学専門学群卒業、東京医科歯科大学精神神経科入局、2003年:東京医科歯科大学大学院修了、Harvard Medical School 神経生理学教室留学、2007年:国立精神・神経医療研究センター精神保健研究所成人精神保健研究部室長、2015年:滋賀医科大学精神医学講座准教授(2016年より附属病院精神科科長兼任)、2019年より国立精神・神経医療研究センター精神保健研究所睡眠・覚醒障害研究部部長、2026年より国立精神・神経医療研究センター病院睡眠診療部部長(兼任)
- 専門分野
- 精神医学、睡眠医科学
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