高齢期における睡眠障害の適切な対応
公開月:2026年10月
内村 直尚(うちむら なおひさ)
久留米大学理事長・学長
本邦は超高齢社会となり、いかに健康寿命を平均寿命に近づけるかが大きな目標となっている。健康寿命の延伸には、適切な睡眠が重要となる。しかし、高齢になると、睡眠障害を呈する割合が増加する。高齢者では全般的に睡眠が浅く短くなり、中途覚醒が多く、睡眠が分断され、早朝覚醒を認める。一方、生体リズムという面からみた場合には、高齢者では睡眠と覚醒からなる一日のリズムが多相性になり、日中の覚醒レベルが低下するために居眠りや昼寝が増加し、夜間にまとまった睡眠をとることが難しくなり、昼夜逆転を生じやすい。その結果、睡眠の質は低下する。
また、睡眠時無呼吸症候群、レストレスレッグス症候群、レム睡眠行動障害などの睡眠障害や認知症、うつ病の併存も考えられる。高齢者の睡眠障害は、免疫機能や高血圧、肥満などの身体面だけでなく、意欲低下や抑うつ状態など精神面にも影響し、社会生活への不適応を引き起こす要因にもなり得る。こうしたことから、適切な診療やケア、必要に応じた服薬などの対応が重要となる。
一方、不眠を訴える高齢者の中には、「8時間眠れないと不眠である」といった誤った認識を持つ人も少なくない。現役世代では睡眠不足による健康への悪影響が問題視されるが、高齢者ではむしろ長時間睡眠のリスクが指摘されている。
高齢者の不眠に対する治療としては、非薬物的アプローチが推奨されており、床上時間を8時間以内にして十分に光を浴びる、長時間の昼寝を控える、定時の食事をとる、痒み、痛みや夜間頻尿の対策を行うなど睡眠衛生を改善することで夜間睡眠を促し、日中の覚醒水準を保つことが重要である。つまり、高齢者は無理に長時間眠る必要はなく、生活習慣や睡眠環境を見直し、睡眠の質を高めることが重要である。それでも改善しない場合は、医師に相談することを推奨する。不眠症に対する薬物療法は副作用のリスクを最小限にする睡眠薬を選択し、安全性に関する十分な説明を行い投与する。
本特集では、「高齢期における睡眠障害とケア」をテーマに取り上げ、「高齢者の睡眠の特徴」、「健康づくりのための睡眠ガイド2023高齢者版」、「高齢者によくある睡眠障害の鑑別診断」、「不眠症の診断と治療」という4つのテーマごとに高齢者の睡眠に関わる新しい知見、高齢者の睡眠障害とその治療・ケアについて専門家に執筆いただいた。
筆者

- 内村 直尚 (うちむら なおひさ)
- 久留米大学理事長・学長
- 略歴
- 1982年:久留米大学医学部卒業、1986年:久留米大学大学院医学研究科生理系専攻博士課程修了、久留米大学医学部神経精神医学講座助手、1987年:米国オレゴン州Oregon Health Science Universityへ留学、1990年:久留米大学医学部脳疾患研究所助手、1992年:久留米大学医学部神経精神医学講座講師、2000年:同 助教授、2007年:同 教授(〜2020年)、2011年:久留米大学病院副院長(〜2013年)、2012年:久留米大学高次脳疾患研究所所長(〜2020年)、2013年:久留米大学医学部長(〜2019年)、2016年:久留米大学副学長、2020年より久留米大学学長、2026年より久留米大学理事長
- 専門分野
- 精神医学、睡眠医学
WEB版機関誌「Aging&Health」アンケート
WEB版機関誌「Aging&Health」のよりよい誌面作りのため、ご意見・ご感想・ご要望をお聞かせください。
お手数ではございますが、是非ともご協力いただきますようお願いいたします。
