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高齢者の睡眠の特徴〜生活習慣病、認知症およびうつ病との関連〜

 

公開月:2026年10月

鈴木 正泰(すずき まさひろ)

日本大学医学部精神医学系精神医学分野主任教授


はじめに

 睡眠は、心身の疲労を回復させるだけでなく、免疫、代謝、感情調節、記憶の固定や整理などにも関わる、生命維持に不可欠な生理現象である。良好な睡眠は、日中の活動性や生活の質(quality of life:QOL)を保ち、心身の健康を維持するための重要な基盤となる。高齢になると、「夜中に何度も目が覚める」「朝早く目が覚める」「寝た気がしない」といった変化を感じる人が増える。こうした変化には、加齢に伴う生理的変化に加えて、高齢者にみられやすいさまざまな要因が関係している。本稿では、高齢者で睡眠の問題が増える背景について述べたうえで、生活習慣病や認知症、メンタルヘルスとの関連について概説する。

なぜ加齢に伴い睡眠の問題が増えるのか

 世界36か国で行われた調査を統合し、約100万人の地域在住高齢者を対象としたメタ解析では、睡眠時無呼吸は約半数、睡眠の質の低下は約4割、不眠は約3割に認められたことが示されている1)。このように、高齢者では高い割合で睡眠の問題がみられる。その背景として、まず加齢に伴う睡眠の変化が挙げられる。

 さまざまな年代の健康者約3,500名を対象とした、睡眠時間や睡眠構造に関する研究のメタ解析では、成人期以降、睡眠時間は加齢とともに短くなり、おおむね10歳年齢を重ねるごとに約10分短縮することが示されている2)。加齢に伴う変化は、睡眠の量だけでなく、その構造にもみられる。若い頃に多くみられる深い睡眠(徐波睡眠)は加齢とともに減少し、浅い睡眠や中途覚醒が増える。そのため、高齢者では睡眠時間が短くなるだけでなく、このような質的変化から、「眠りが浅い」「夜中に何度も目が覚める」と感じやすくなる2)。

 加齢に伴い、睡眠をとる時間帯も変化する。睡眠をとりやすい時間帯は体内時計の影響を受けており、年齢によって変化する。睡眠時間帯は思春期にかけて次第に遅くなり、18〜19歳頃に最も夜型となった後、成人期以降は年齢とともに早まることが知られている3)。そのため、高齢になると若い頃より早い時間に眠くなり、朝も早く目覚める傾向が強くなる。

 このような加齢に伴う生理的変化に加えて、高齢者では身体疾患や服用薬、生活習慣の変化も睡眠に影響する。たとえば、関節や腰の痛み、心臓や呼吸器の病気による息苦しさ、皮膚疾患によるかゆみ、前立腺肥大や過活動膀胱などによる夜間頻尿は、寝つきを妨げたり、夜間の覚醒を増やしたりする原因となる。また、身体疾患の治療に用いられる薬剤の中には、ステロイドや一部の降圧薬のように眠りを妨げる可能性のあるものや、利尿薬のように夜間の排尿回数を増やすものもある。

 さらに、退職や外出機会の減少などにより、日中の活動量や光を浴びる機会が少なくなると、夜間に十分な眠気が生じにくくなる。長時間の昼寝も夜間の寝つきを悪くしたり、睡眠を途切れやすくしたりする。このように、高齢者では、加齢に伴う生理的変化に加えて、身体疾患、服用薬、生活環境の変化など、睡眠に影響を及ぼすさまざまな要因が重なるため、睡眠の問題が生じやすくなる。

睡眠と生活習慣病

 睡眠不足が続くと、食欲を調節するホルモンの分泌や糖代謝、自律神経系、血圧などに影響が及ぶ。これにより、食欲の増加やインスリンの働きの低下、血圧の上昇などが生じ、肥満、糖尿病、高血圧、心血管疾患の発症リスクが上昇する。短時間睡眠と健康との関係について、153件の研究、延べ約517万人のデータを統合したメタ解析では、標準的な睡眠時間の人と比べて、短時間睡眠の人では糖尿病の発症リスクが1.37倍、高血圧が1.17倍、心血管疾患が1.16倍、冠動脈疾患が1.26倍、肥満が1.38倍であった4)。また、睡眠時間が6時間未満では、短くなるほど死亡リスクが高まる傾向も示されている。

 一方、長く寝れば寝るほど健康に良いわけではないことが明らかにされている。長時間睡眠と健康との関係について、137件の研究、延べ約513万人のデータを統合したメタ解析では、標準的な睡眠時間の人と比べて、長時間睡眠の人では糖尿病の発症リスクが1.26倍、心血管疾患が1.25倍、脳卒中が1.46倍、冠動脈疾患が1.24倍、肥満が1.08倍であった5)。さらに、睡眠時間が長くなるほど、死亡や心血管疾患のリスクが高まる傾向も示されている。ただし、これらの解析に包含された研究の多くでは睡眠時間と床上時間(寝床で過ごす時間)が明確に区別されておらず、身体疾患やうつ病、疲労、活動量の低下などによって長く床に就いていた時間が、長時間睡眠として申告されている可能性があることには留意が必要である。実際、中高年者を対象に、睡眠検査で測定した睡眠時間と床上時間を区別して検討した研究では、高齢者において、長い睡眠時間そのものよりも、床上時間が長く、かつ睡眠による休養感が得られていない場合に死亡リスクが高いことが示されている6)。

睡眠と認知症

 睡眠と認知症には、互いに影響を及ぼし合う双方向の関係があると考えられている。まず、睡眠時間の不足や睡眠の分断、睡眠時無呼吸などの睡眠の問題は、将来の認知機能低下や認知症の発症と関連することが報告されている。英国の約8,000人を長期間追跡した研究では、50歳および60歳の時点で睡眠時間が6時間以下であった人は、7時間眠っていた人と比べて、その後の認知症発症リスクが高かった7)。ただし、こうした研究だけでは、短時間睡眠が認知症を直接引き起こすと断定することはできない。認知症は症状が現れる以前から脳内で変化が進んでおり、その初期変化によって睡眠が短くなっている可能性も否定できない。

 睡眠の問題が認知症に関係する仕組みとしては、アルツハイマー病に関係するアミロイドβやタウなどの異常なタンパク質が脳内に蓄積しやすくなることなどが考えられている。近年注目されているのが、睡眠中に脳内の老廃物を排出する仕組みである「グリンパティックシステム」である。動物実験では、この仕組みが覚醒中より睡眠中に活発になり、アミロイドβなどの排出が促進されることが示されている8)。このため、睡眠不足や睡眠の分断によって老廃物の排出が妨げられ、アルツハイマー病の病態形成に関与する可能性が考えられている。ただし、ヒトにおける役割や、睡眠を改善することで認知症を予防できるかについては、まだ十分に明らかになっていない。

 一方、認知症を発症すると、その進行に伴って睡眠が乱れることも少なくない。認知症では、睡眠や体内時計を調節する脳の働きが障害されるため、夜間に何度も目を覚ます、昼夜が逆転する、日中の居眠りが増える、夕方から夜間に落ち着かなくなるといった変化がみられる。

 このように、睡眠の問題が認知症の発症や進行に関与する可能性がある一方で、認知症そのものも睡眠を悪化させるという、双方向性の関係があると考えられている。ただし、睡眠への介入によって認知症の発症や進行を抑えられるかについては、現時点で十分な根拠は得られておらず、今後さらなる研究が必要である。

睡眠とうつ病

 高齢者のメンタルヘルスにおいて、うつ病は重要な課題である。うつ病は成人期に発症することが多いが、高齢期に初めて発症したり、再発したりすることも少なくない。高齢者では、身体疾患や身体機能の低下、死別、社会的役割の変化など、うつ病の発症に関わる要因が重なりやすい。また、高齢者のうつ病では、気分の落ち込みよりも不安や焦燥が前面に現れたり、妄想を伴ったりするなど、重症な病像を呈することがある点にも注意が必要である。

 高齢期のうつ病は、その時点でのQOLを低下させるだけでなく、将来の認知症とも関連する可能性が示唆されている。地域在住高齢者を長期間追跡した23件の研究を統合解析した報告では、高齢期にうつ病を有する人は、うつ病のない人と比べて、認知症全体の発症リスクが1.85倍、アルツハイマー型認知症が1.65倍、血管性認知症が2.52倍であった9)。ただし、この関連には、うつ病への罹患が認知症の発症リスクを高める可能性に加えて、血管障害や炎症など、両者に共通する変化が関与している可能性も考えられる。

 睡眠とうつ病の関係もまた双方向性である。うつ病では約85%の患者に不眠症状がみられる一方10)、不眠症は将来のうつ病発症の危険因子でもあることが知られている11)。この関連は、年齢や追跡期間などが異なる研究でもおおむね一貫して認められており、不眠を早期に発見して適切に対応することが、うつ病の予防につながる可能性を示している。

 実際、研究参加時にうつ病を発症していない60歳以上の不眠症患者291人を、不眠症に対する認知行動療法(cognitive behavioral therapy for insomnia:CBT-I)または睡眠教育を受ける群に分け、3年間追跡した研究では、CBT-I群は睡眠教育群と比べて、うつ病の発症・再発が有意に少なかった12)。この結果は、うつ病の発症・再発予防という観点から、不眠症に対して積極的に治療介入することの重要性を示している。

おわりに

 睡眠の問題は、生活習慣病の発症や重症化に関与するだけでなく、認知症やうつ病といった高齢期の主要な精神・神経疾患とも双方向に関連することが明らかになりつつある。したがって、高齢者の睡眠の問題を単なる一時的な症状や加齢による変化として捉えるのではなく、その背景にある身体疾患、服用薬、生活習慣などを含めて評価し、適切に対応することが重要である。こうした取り組みは、現在のQOLを保つだけでなく、将来の心身の健康を守るうえでも重要な意味をもつ。

文献

  1. Canever JB, Zurman G, Vogel F, Sutil DV, Diz JBM, Danielewicz AL, et al.:Worldwide prevalence of sleep problems in community-dwelling older adults:A systematic review and meta-analysis. Sleep Med. 2024;119:118-34.
  2. Ohayon MM, Carskadon MA, Guilleminault C, Vitiello MV.:Meta-analysis of quantitative sleep parameters from childhood to old age in healthy individuals:developing normative sleep values across the human lifespan. Sleep. 2004;27(7):1255-1273.
  3. Fischer D, Lombardi DA, Marucci-Wellman H, Roenneberg T.:Chronotypes in the US - Influence of age and sex. PLoS One. 2017;12(6):e0178782.
  4. Itani O, Jike M, Watanabe N, Kaneita Y.:Short sleep duration and health outcomes:a systematic review, meta-analysis, and meta-regression. Sleep Med. 2017;32:246-256.
  5. Jike M, Itani O, Watanabe N, Buysse DJ, Kaneita Y.:Long sleep duration and health outcomes:A systematic review, meta-analysis and meta-regression. Sleep Med Rev. 2018;39:25-36.
  6. Yoshiike T, Utsumi T, Matsui K, Nagao K, Saitoh K, Otsuki R, et al.:Mortality associated with nonrestorative short sleep or nonrestorative long time-in-bed in middle-aged and older adults. Sci Rep. 2022;12(1):189.
  7. Sabia S, Fayosse A, Dumurgier J, van Hees VT, Paquet C, Sommerlad A, et al.:Association of sleep duration in middle and old age with incidence of dementia. Nat Commun. 2021;12(1):2289.
  8. Xie L, Kang H, Xu Q, Chen MJ, Liao Y, Thiyagarajan M, et al.:Sleep drives metabolite clearance from the adult brain. Science. 2013;342(6156):373-377.
  9. Diniz BS, Butters MA, Albert SM, Dew MA, Reynolds CF 3rd.:Late-life depression and risk of vascular dementia and Alzheimer's disease:systematic review and meta-analysis of community-based cohort studies. Br J Psychiatry. 2013;202(5):329-335.
  10. Sunderajan P, Gaynes BN, Wisniewski SR, Miyahara S, Fava M, Akingbala F, et al.:Insomnia in patients with depression:a STAR*D report. CNS Spectr. 2010;15(6):394-404.
  11. Li L, Wu C, Gan Y, Qu X, Lu Z.:Insomnia and the risk of depression:a meta-analysis of prospective cohort studies. BMC Psychiatry. 2016;16(1):375.
  12. Irwin MR, Carrillo C, Sadeghi N, Bjurstrom MF, Breen EC, Olmstead R.:Prevention of Incident and Recurrent Major Depression in Older Adults With Insomnia:A Randomized Clinical Trial. JAMA Psychiatry. 2022;79(1):33-41.

筆者

すずきまさひろ氏の写真。
鈴木 正泰(すずき まさひろ)
日本大学医学部精神医学系精神医学分野主任教授
略歴
【略歴】2002年:日本大学医学部卒業、2008年:日本大学大学院医学研究科博士課程修了(医学博士)、日本大学医学部精神医学系助手、2009年:日本大学医学部精神医学系助教、2015年:サンラファエレ大学客員研究員、2018年:日本大学医学部精神医学系准教授、2020年より現職
専門分野
精神医学、睡眠医学

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