高齢者によくある睡眠障害の鑑別診断
公開月:2026年10月
鈴木 圭輔(すずき けいすけ)
獨協医科大学内科学(神経)主任教授
はじめに
近年高齢化の進展に伴い、睡眠障害を有する高齢者を診療する機会は増加している。わが国では65歳以上の高齢者は約3,600万人(高齢化率29.3%)に達している1)。36か国における地域在住高齢者約100万人を対象に睡眠問題の有病率を検討したシステマティックレビューでは、閉塞性睡眠時無呼吸(obstructive sleep apnea:OSA)(46.0%)が最も多く、次いで睡眠の質の低下(40.0%)、その他の睡眠障害(37.0%)、不眠症(29.0%)、日中の過度の眠気(19.0%)が高頻度に認められた2)。高齢者において入眠困難、中途覚醒、早朝覚醒などの不眠症状は高頻度にみられ、生活の質(QOL)を低下させる重要な要因である。不眠の背景には、加齢に伴う睡眠構築の変化、睡眠相(就寝時刻・起床時刻)の前進、概日リズムの脆弱化、睡眠時間の短縮に加え、多くの併存疾患(精神疾患、疼痛性疾患、代謝性疾患など)や多剤併用が睡眠に影響を及ぼすことも少なくない。さらに、OSA、レム睡眠行動障害(REM sleep behavior disorder:RBD)、レストレスレッグス症候群(restless legs syndrome:RLS)、周期性四肢運動障害(periodic limb movement disorder:PLMD)、夜間筋こむら返りなどの睡眠障害が併存していることもあり、適切な診断・治療のためにはこれらを鑑別することが重要である。
本稿では、高齢者で遭遇することの多いOSA、RBD、RLS、PLMD、夜間筋こむら返りを中心に、その特徴と鑑別診断のポイントについて概説する。
閉塞性睡眠時無呼吸(OSA)
1. 定義・病態
OSAは、高齢者で最も頻度の高い睡眠障害の一つであり、睡眠中の上気道の反復性閉塞により無呼吸・低呼吸を繰り返す疾患である。睡眠関連呼吸障害には、OSAのほか中枢性睡眠時無呼吸(central sleep apnea:CSA)があり、高齢者では加齢や併存疾患の影響を受けて有病率が上昇する3),4)。OSAでは、上気道閉塞に伴う間欠的低酸素血症、睡眠分断、交感神経活動の亢進が生じ、酸化ストレス、全身性炎症や血管内皮機能障害を介して全身に影響を及ぼす。高齢者では、加齢に伴う上気道の解剖学的・生理学的変化により、上気道の虚脱性が増大する。上気道拡張筋機能の低下や気道牽引力の減弱などにより、上気道閉塞をきたしやすくなる3),5)。
2. 症状
OSAは臨床的には、いびき、睡眠中の呼吸停止、夜間頻尿、起床時頭痛、日中の眠気、倦怠感、集中力・記憶力の低下など多彩な症状を呈する。一方、高齢者では日中の眠気を自覚しない場合もあり、疲労感、不眠、中途覚醒、認知機能低下、抑うつ、転倒などの非典型的症状が前景となることがある6),7)。これらの症状が加齢や併存疾患によるものと判断され、OSAの診断が遅れることも少なくない。
3. 高齢者OSAの臨床的意義
OSAは高血圧、心房細動、虚血性心疾患、心不全、脳卒中、糖尿病などの心血管・代謝疾患と密接に関連する。さらに、高齢者では認知機能低下や認知症との関連も注目されている。睡眠分断や徐波睡眠の減少はグリンパティックシステムによるアミロイドβやタウ蛋白の排泄を障害し、さらに間欠的低酸素血症は酸化ストレスや神経炎症を介して神経変性の進展に関与すると考えられている5)。また、夜間低酸素血症、とくに低酸素負荷は無呼吸低呼吸指数よりも認知機能低下との関連が強いことが報告されている6),7)。持続陽圧呼吸療法(continuous positive airway pressure:CPAP)は睡眠の質や日中症状を改善するだけでなく、軽度認知障害やアルツハイマー病患者における認知機能低下の進行抑制も期待されている5)。
4. 診断
診断には、いびき、睡眠中の無呼吸の目撃、夜間頻尿、不眠や認知機能低下などの症状を含めた病歴聴取に加え、体格、頸囲、上気道形態などを評価する。確定診断には睡眠ポリグラフ検査(polysomnography:PSG)が標準であり、在宅簡易睡眠検査もスクリーニングとして有用である。高齢者ではRLS、睡眠中の周期性四肢運動(periodic limb movements during sleep:PLMS)、RBD、不眠症などの併存が多いため、PSGによる総合的な評価が望ましい。
5. 治療
治療は、CPAP療法が中等症以上のOSAに対する第一選択であり、睡眠の質や日中症状の改善に加え、心血管・脳血管イベントや認知機能低下の抑制も期待される。軽症例では減量、側臥位睡眠、口腔内装置なども選択肢となる。高齢者では、認知機能、ADL、フレイル、介護状況などを考慮するとともに、CPAPのアドヒアランスを維持するための支援を行うことが重要である5)。
レム睡眠行動障害(RBD)
1. 定義・病態
RBDは、本来レム睡眠中にみられる生理的な筋活動抑制が消失し、夢の内容に一致した発声や四肢の複雑な運動行動を呈する睡眠時随伴症である8),9)。病態の中核は、橋・延髄に存在するレム睡眠時の筋活動抑制を担う神経回路の機能障害であり、その結果、レム睡眠中にも骨格筋活動が残存する。RBDは、神経疾患や明らかな誘因がなく発症する孤発性RBD(isolated RBD:iRBD)と、三環系抗うつ薬や選択的セロトニン再取り込み阻害薬(SSRI)などの薬剤、ナルコレプシー、パーキンソン病、レビー小体型認知症、多系統萎縮症などに伴う二次性RBDに分類される。中高年以降に発症したiRBDは、一定の割合でその後パーキンソン病などのαシヌクレイノパチーを発症することから、その前駆段階と考えられている10)。
2. 症状
夢の内容に一致した発声、叫び声、会話、笑い声、殴る、蹴る、手足を振るなどの異常行動を呈する。夢の内容は追いかけられる、襲われるなど防御的なものが多く、受傷やベッドパートナーへの外傷を契機に受診することも少なくない。患者本人は夢を鮮明に記憶していることが多いが、自身の異常行動には気付いていない場合もある。一方、大きな運動を伴わず、寝言、笑い、歌唱、拍手、挨拶、食事動作などの複雑で非暴力的な行動のみを呈するnon-violent RBDも報告されており、高齢者では見逃されることがある11)。
3. 高齢者RBDの臨床的意義
RBDはαシヌクレイノパチーの最も重要な前駆症状の一つであり、孤発性RBD患者では長期経過中に約70%以上が神経変性疾患を発症すると報告されている10)。便秘、嗅覚低下、自律神経障害、軽度認知障害などの前駆症候や、ドパミントランスポーターシンチグラフィ(DAT-SPECT)で線条体集積低下を認めるRBD症例では、神経変性疾患への移行リスクが高く、その移行時期も早いことが報告されている10)。そのため、高齢者ではRBDを単なる睡眠時随伴症として扱うのではなく、将来の神経変性疾患を念頭に置いた継続的な神経学的評価が重要である。
4. 診断
診断には、本人だけでなく同居者やベッドパートナーから睡眠中の異常行動について詳細に病歴を聴取することが重要である。確定診断にはビデオ同時記録睡眠ポリグラフ検査(video-polysomnography:v-PSG)を行い、筋緊張消失を伴わないレム睡眠(REM sleep without atonia:RWA)を確認する。高齢者では、重症OSAに伴う夜間異常行動(pseudo-RBD)、NREM睡眠時随伴症、睡眠関連過運動てんかん、PLMDなどとの鑑別が重要である。睡眠関連過運動てんかんでは頭皮脳波が正常なこともあり、睡眠段階、脳波、筋活動、呼吸イベントおよび異常行動を同時に評価できるv-PSGが鑑別診断に有用である12)。
5. 治療
治療では、まず睡眠環境を整備し、ベッド周囲の危険物を除去するなど外傷予防を行う。薬物療法としてはメラトニンおよびクロナゼパムが有効であるが、クロナゼパムは高齢者では転倒や日中鎮静、認知機能への影響を考慮し、慎重に投与する必要がある13)。また、RBDは神経変性疾患の前駆症状である可能性を説明し、定期的な神経学的評価を継続することが重要である。
レストレスレッグス症候群 (RLS)
1. 定義・病態
RLSは、下肢の不快な異常感覚により不眠をきたす感覚運動障害である。病態には、中枢神経系における鉄代謝異常とドパミン神経機能異常が深く関与すると考えられている。脳内鉄不足はドパミン神経伝達やアデノシン系、グルタミン酸系の機能異常を介して症状の発現に関与する。RLSは原因不明の一次性RLSと、鉄欠乏性貧血、慢性腎臓病・透析、妊娠、末梢神経障害などに伴う二次性RLSに分類される。高齢者では鉄欠乏性貧血や腎機能障害、多剤併用、末梢神経障害などを背景とする二次性RLSの頻度が高い。
2. 症状
下肢の不快な異常感覚と脚を動かしたい強い欲求を特徴とする。症状は安静時に出現または増悪し、歩行やストレッチなどの運動により軽減し、夕方から夜間に強くなる日内変動を示す。異常感覚の表現は患者によって多彩で、「むずむずする」「虫がはうような」「ぴりぴりする」「焼けるような」「引っ張られる感じ」「かゆい」などさまざまであり、症状をうまく表現できない患者も少なくない14)。睡眠障害を伴うことが多く、入眠困難や中途覚醒をきたし、慢性的な睡眠不足や日中の疲労感につながる。
3. 高齢者RLSの臨床的意義
高齢者ではRLSが不眠や睡眠の質の低下の原因となるだけでなく、抑うつ、認知機能低下、QOL低下との関連も報告されている。さらに認知症患者では脚の不快感や「動かしたい」という主観的症状を十分に表現できないことが多く、RLSは見逃されやすい。また、夜間の落ち着きのなさや徘徊が認知症の行動・心理症状(BPSD)や夜間せん妄と誤認されると、ドパミン受容体遮断薬が投与され、RLS症状が増悪する可能性があるため、適切な鑑別が重要である。診断を支持する所見として、RLSの家族歴、ドパミン作動薬に対する良好な治療反応、および睡眠ポリグラフ検査で確認されるPLMSが挙げられる。RLSでは睡眠の分断や睡眠不足をきたすことが多いが、OSAとは異なり、日中の過度の眠気は一般的ではない。
4. 診断
診断は問診により、脚を動かしたい強い欲求(urge to move)を中核症状とし、(1)安静時に出現または増悪する、(2)歩行やストレッチなどの運動により軽減する、(3)夕方から夜間に増悪する、という特徴を有し、他の医学的疾患や行動、薬剤などでは十分に説明できないことを確認する9)。高齢者、とくに認知症患者では、自覚症状を十分に表現できず診断が困難なことが少なくない。そのため、本人への問診に加え、家族や介護者からの病歴聴取や、脚をさする、繰り返し下肢を動かす、落ち着きなく歩き回るなどの特徴的な行動を確認することが重要である15)。また、末梢神経障害、腰部脊柱管狭窄症、夜間筋こむら返り、アカシジア、静脈うっ滞などとの鑑別を要する。多くの患者ではPLMSを伴う。
5. 治療
原因となる鉄欠乏や基礎疾患があれば、まずその是正を行う。血清フェリチン値を測定し、鉄欠乏を認める場合には鉄補充療法を行う。薬物療法では、米国のAASM診療ガイドラインでは&alpha2δ(アルファ・ツー・デルタ)リガンド(ガバペンチン エナカルビル、プレガバリン)が第一選択として推奨されている。α2δリガンドは、ドパミン作動薬と比較してaugmentation(増強現象)のリスクが低いことも利点である。一方、ドパミン作動薬(プラミペキソール、ロチゴチンなど)はaugmentationや衝動制御障害のリスクを考慮して慎重に使用することが推奨されている16)。Augmentationとは、ドパミン作動薬による治療に伴い、RLS症状の出現時刻が治療前より早まり、症状の重症化、安静開始から症状出現までの時間の短縮、他の身体部位への症状の拡大などを認める状態である。高齢者では、眠気、ふらつき、認知機能への影響や転倒に注意し、少量から開始して慎重に増量することが重要である。また、ドパミン受容体遮断薬や抗うつ薬など、RLS症状を誘発または増悪させる可能性のある薬剤の使用状況を確認し、可能であれば中止、減量、あるいは代替薬への変更を検討する。
周期性四肢運動障害(PLMD)
1. 定義・病態
PLMDは、一定間隔で主に下肢に反復して出現するPLMSにより、不眠や日中の眠気などの睡眠障害をきたす疾患である9)。病態は完全には解明されていないが、RLSと共通して中枢ドパミン神経系や鉄代謝異常の関与が示唆されている。
2. 症状
患者自身は睡眠中の四肢運動を自覚していないことが多く、不眠、中途覚醒、熟眠感の欠如、日中の眠気や疲労感を呈する。一方、ベッドパートナーから睡眠中の下肢の異常運動を指摘され、受診に至ることも少なくない。
3. 高齢者PLMDの臨床的意義
高齢者ではPLMSが高頻度に認められるため、PLMSを認めただけではPLMDとは診断できない。PLMSが睡眠障害や日中症状の原因となっていることを確認するとともに、RLSやOSAに伴うPLMSなど、他の原因や疾患に関連したPLMSを鑑別することが重要である。
4. 診断
診断には睡眠ポリグラフ検査(PSG)が必須であり、成人ではPLMS指数(PLM index:PLMI)15回/時以上を認めることに加え、PLMSが不眠または日中機能障害の原因となっており、他の睡眠障害や医学的・精神医学的疾患、薬剤では十分に説明できないことを確認する9)。
5. 治療
まずOSAやRLSなどの併存疾患や、PLMSを誘発・増悪させる可能性のある薬剤を評価し、これらが認められる場合には、その治療や原因薬剤の中止・変更を検討する。PLMD単独に対する薬物療法のエビデンスは限られており、治療はRLSに準じて行われる。
夜間筋こむら返り
夜間筋こむら返り(nocturnal leg cramps)は、睡眠中に生じる有痛性筋収縮により覚醒をきたす疾患であり、高齢者に多く60歳以上では約33~56%が経験するとされ、入眠困難や中途覚醒の原因になりうる。治療はストレッチ、水分補給、保温などの生活指導を基本とする9)。
おわりに
高齢者では睡眠障害が高頻度に認められる一方、症状が加齢や併存疾患による変化として見逃されることも少なくない。睡眠障害は適切な診断と治療により改善可能な疾患であり、QOLやADLの維持、さらには認知機能や心血管予後の改善につながる可能性がある。図に睡眠障害の鑑別フローチャートを示す。日常診療では、本稿で述べたOSA、RBD、RLS、PLMD、夜間筋こむら返りなどの睡眠障害を念頭に置き、適切な鑑別診断と治療介入を行うことが重要である。

文献
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筆者

- 鈴木 圭輔(すずき けいすけ)
- 獨協医科大学内科学(神経)主任教授
- 略歴
- 【略歴】2001年:獨協医科大学医学部医学科卒業、獨協医科大学神経内科臨床研修医、2003年:獨協医科大学大学院内科学(神経)専攻、2007年:獨協医科大学大学院内科学(神経)修了、医学博士取得、獨協医科大学内科学(神経)助教、獨協医科大学越谷病院内科助教、2008年:Department of Investigative Medicine, Section of Investigative Science, Imperial College London, UK、2010年:獨協医科大学内科学(神経) 助教、2012年:同 講師、2017年:同 准教授、2020年より現職
- 専門分野
- 脳神経内科
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