長寿科学研究に関する情報を提供し、明るく活力ある長寿社会の実現に貢献します。

まちのコミュニティの真ん中にある多世代型介護付きシェアハウス(兵庫県神戸市 株式会社Happy 「はっぴーの家ろっけん」)

 

公開月:2026年10月

週200人が集う地域に開かれたシェアハウス

 神戸市長田区JR新長田駅から六間道(ろっけんみち)商店街を抜けて歩くと、「はっぴーの家ろっけん」(以下、はっぴーの家(外部サイト)(新しいウインドウが開きます))が見えてくる。ここは、株式会社Happyが運営する多世代型介護付きシェアハウスだ。入口に看板がないのは、「"家"には看板は必要ないから」とHappy代表の首藤義敬さんは言う。6階建ての建物には45の居室があり、60歳以上の人や認知症の人を含む要介護認定を受けた人が暮らし、介護福祉士や看護師らのサポートを受けながら、自分らしく自由な生活を送っている。

 はっぴーの家の大きな特長の一つが、1階にある地域に開かれたリビングだ。入居者をはじめ、地域の人や子どもたち、子育て世代、外国籍の人、障害のある人など、さまざまな人が訪れ、思い思いの時間を過ごしている。週に約200人が訪れるという。ソファが置かれた外のガレージも、学校帰りの子どもや近隣の人が集う憩いの場になっている。

多世代が集うはっぴーの家のガレージの写真。
多世代が集うはっぴーの家のガレージ(Happy提供)

 「名前もわからない地域の人も普通に出入りします。飲み会で終電に乗り遅れた人が寝に来ることもあります。基本、お接待のようなことはしません。来るほうも構われ過ぎると居心地が悪いでしょう。あちらも僕らスタッフには1ミリも興味ないですよ。なんか誰かいるな、みたいな(笑)。入居者のおじいちゃん、おばあちゃんにとっても、日常的に関わる人が多いほうがいい」と首藤さん。

 はっぴーの家は、制度上はサービス付き高齢者向け住宅(サ高住)だが、多世代が集う「シェアハウス」と呼ぶほうがしっくりくる。遠方からも入居希望者が絶えず、入居者は「はっぴーの家に馴染めそうな人」「この暮らしを面白がってくれそうな人」という観点から選んでいるという。

気兼ねなく過ごせる地域のリビング

 取材に伺ったのは金曜日の午後。1階のリビングを訪ねると、週3回開かれている「お茶会」の真っ最中だった。入居者や近隣に暮らす高齢者、さらにHappyが運営する見守り付き一人暮らし向け賃貸住宅「HANARE」の入居者など、約40人が集まっていた。

リビングで行われている体操の写真。
リビングで体操。立ち上がって踊る人も
お茶会の中で、誕生日を迎えた入居者をみんなで祝っている写真。
お茶会での一コマ。誕生日を迎えた入居者をみんなで祝う

 まずは体操から始まる。アップテンポな音楽に合わせて体を動かすと、リビングはたちまち熱気に包まれた。ストレッチと深呼吸で体操を終えると、お待ちかねのお茶会。参加者自らテーブルを移動させ、お茶を飲みながら談笑する姿は、まるで昔からの仲間同士のようだ。

 「自由なところが気に入っています」と話す入居者は、お孫さんがはっぴーの家のスタッフだという。HANAREから来ていた女性は、「はっぴーの家も私の家。気兼ねなく過ごせるので、つい長居してしまいます」と笑う。散歩の途中でいつも立ち寄るという近所の人もいた。ソファで新聞紙を一枚一枚はがしていた女性は、スタッフが使用済みの紙パンツなどを新聞紙で包みやすいよう、率先して手伝っているという。自然に役割を見つけ、この場所を支えていることが伝わってきた。

さまざまな世代のセーフティネットになりたい

 首藤さんは長田区の出身。小学3年生で阪神・淡路大震災を経験した。「震災前にあったような地域のつながりをつくりたい」と、23歳で空き家再生を手掛ける不動産業を起業した。転機となったのは、リノベーションに携わった物件に暮らす高齢者が車椅子生活となったことだった。バリアフリーでない住まいでは暮らし続けられず、施設への転居を余儀なくされた。それを目の当たりにし、首藤さんは無力感を覚えたという。「介護と住まいの両方を一緒に支えられたら、住み慣れた家で暮らし続けられたのではないか」。さらに、当時、自身も子育てと介護をしていたことから、高齢者だけでなく、子育て世代を含めた「さまざまな世代のセーフティネットになりたい」と考えるようになる。

 「やはり困っているのは高齢者と子育て世代です。僕らのような30〜40代は、子育てと介護を同時に担うダブルケアの世代。子育てと介護に時間を取られ、本当にやりたいことができない。それは、ある意味、日本の課題だと思っています。だったら、子育ても介護もコミュニティに頼れるシェアハウスがあればいい。そして、最期までここで暮らし、看取ることができたらいい」。こうして、多世代型介護付きシェアハウス構想が形になっていった。

 はっぴーの家の開設に先立ち、地域の人に声をかけ、ワークショップを開催。シェアハウスをつくることは伏せたまま、「あなたならここで何をしたいですか」と問いかけ、1年半にわたり100人以上の多世代から意見を集めた。その声の一つひとつをはっぴーの家づくりに反映させていった。
 そして2017年3月、地域の人の思いを詰め込んだ、はっぴーの家がオープン。時間をかけて地域の人と関係を築いてきたことで、世代を超えて人が自然と集う場所へと育っていった。

地域の人の声が反映された個性的なフロア

 はっぴーの家の各階には、ワークショップで寄せられた「エンターテインメント性のある場所」という声が反映されている。2階は昭和レトロ、3階はアジアンリゾート、4階はラスベガスのカジノ、5階はヨーロッパの美術館をイメージした空間。

ラスベガスをイメージした4階のフリースペースの写真。
ラスベガスをイメージした4階のフリースペース

 各階にはフリースペースが設けられ、入居者の憩いの場であると同時に、訪問診療の診察室や、葬儀の会場としても使われている。卓球台が置かれているのは、入居者に元卓球指導者がいたから。パーキンソン病のあるカメラマンが監修する写真倶楽部の作品も展示されていた。持ち帰り自由の古着、チンアナゴがいる水槽もあった。ミニブタも暮らしていて(現在は首藤さんの部屋で飼育中)、予想を超える遊び心に満ちた空間だった。

 入居者の多くは、ここで最期を迎える。1階のリビングには、画像を加工した思わず笑みがこぼれるような遺影や、ユーモアあふれる戒名が飾られていた。ここでは死を隠さず、明るくオープンに受け止める。日頃から出入りしている子どもたちも、お別れ会や葬儀に参列するという。

 館内を案内してくれたのは、首藤さんの妻・美幸さん。首藤さん一家は、はっぴーの家の上階で暮らしている。「娘は入居者さんに育ててもらったようなものです」。美幸さんによると、娘さんは小学生の頃から入居者の食事を手伝い、リビングを訪れる赤ちゃんの世話をし、入居者に勉強を教わりながら育ってきたという。はっぴーの家の大家族の中で、多くの人に見守られてきた。

半径10分以内の関係人口を増やし、まちのコミュニティをつくる

 Happyの原点は、空き家を再生し、まちの価値を高める不動産業だ。はっぴーの家を中心に、徒歩圏内でさまざまな事業を展開している。元靴工場をリノベーションした「WAGOMU Climbing Gym」は、ボルダリングジムにカフェとフリースペースを併設した拠点。年齢や障害の有無を問わず、体を動かすきっかけを提供している。丸五市場内の「丸五SpiceUp」では、本格的なスパイスカレーを味わえるほか、個展などのイベントも開かれる。一人暮らしを希望する高齢者や障害のある人には、見守り付き賃貸住宅「HANARE」を提供。入居者は、自宅とはっぴーの家を自由に行き来する。

 「はっぴーの家がリビング、丸五SpiceUpがダイニング、WAGOMU Climbing Gymが運動場。半径10分以内に自分たちが望む暮らしの種がある。半径10分以内の関係人口を増やして、まちのコミュニティをつくる。『はっぴーの家があるから、まちが面白くなった』と言われたら嬉しいですね」

ワゴムクライミングジムの写真。
運動をもっと身近にするWAGOMU Climbing Gym
丸五スパイスアップのカウンターに立つはっぴー代表のしゅとうよしひろさんの写真。
Happy代表・首藤義敬さん。丸五SpiceUpのカウンターで

 首藤さんが大切にしているのは、「特定の誰かの"やりたい"を応援し、まちの強みに変えること」。一人の願いが社会のニーズにつながっていると考えている。たとえば、WAGOMU Climbing Gymは運動したくても続かない人の力になりたいという思いから、丸五SpiceUpは施設で暮らすインド人男性の「故郷のインドカレーをもう一度食べたい」という願いから生まれた。

 まもなく開設10年を迎えるはっぴーの家。首藤さんは、「今後はサ高住の枠を超え、もっと自由に使える家にしたい」と語る。DV被害を受けた人の避難先や住宅確保要配慮者の住まい、1階にはゲストハウスを設けるなど、さらに多様な人を受け入れる場所を目指すという。

 「はっぴーの家の近くで暮らしたい」と、新長田エリアに移住する若い世代や高齢者が増えている。はっぴーの家を真ん中に新たなまちのつながりが生まれている。


公益財団法人長寿科学振興財団発行 機関誌 Aging&Health 2026年 第35巻第3号(PDF:5.7MB)(新しいウィンドウが開きます)

WEB版機関誌「Aging&Health」アンケート

WEB版機関誌「Aging&Health」のよりよい誌面作りのため、ご意見・ご感想・ご要望をお聞かせください。

お手数ではございますが、是非ともご協力いただきますようお願いいたします。

WEB版機関誌「Aging&Health」アンケートGoogleフォーム(外部サイト)(新しいウインドウが開きます)