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第3回 存在論的コミュニティ

 

公開月:2026年10月

山崎 亮
studio-L代表、関西学院大学建築学部教授


 長寿社会とコミュニティデザインは相性がいいと思っている。キーワードはコミュニティだ。コミュニティとどんな関係を結ぶのか。そこが重要である。なお、ここでいうコミュニティには、地縁型コミュニティと興味型コミュニティがあることはすでに述べたとおりだ。同じ地域に住む人とのつながりである地縁型コミュニティと、同じ興味があるからつながる興味型コミュニティは、長寿社会を生きる我々にとってどちらも大切な存在である。

 コミュニティとのつながりは一朝一夕に入手できるものではない。文字通り、朝クリックすれば夕方にはコミュニティとつながっているなどということは、AIが高度化した未来でも実現されそうにない。人とのつながりは時間をかけて醸成されるものだ。朝から夕方までは極端としても、定年退職後に急いでコミュニティとつながろうとしてもうまくいかないことが多い。できれば若い頃から仕事以外のコミュニティとつながっていたい。そのなかで、コミュニティとの付き合い方を学ぶこともできる。きっと仕事のつながりとは違う作法が求められるだろう。

 コミュニティという概念をどこまで広げられるかという点も重要である。地縁型コミュニティと興味型コミュニティは、いずれも「生きている人間」とのつながりである。では、生きている昆虫や動物とのつながりはどうか。ペットはもちろん、人間からみて「害虫」や「害獣」と呼ばれる存在とのつながりをどう考えるのか。あるいは、生きている植物とのつながりはどうか。庭木や盆栽、観葉植物はもちろん、人間からみて「雑草」と呼ばれる存在とのつながりをどう考えるのか。何も「すべての生命体を生かせ」というわけではない。害虫や害獣や雑草を駆除する活動もまた、それらの存在とのつながりのひとつであり、その活動があなたの健康や活力を醸成してくれる可能性があるという話だ。

 さらには、土や雨や風といった存在とのつながりも、先祖や子孫といった存在とのつながりも、地域で語り継がれる民話や神話とのつながりも、あなたの活動に影響を与えるだろう。「今日は雨が降っているから、祖父が遺してくれたソファに座って、懐かしい民話が書かれた本を読もう」という活動のなかに、人間と非人間との多様なつながりが含まれている。そこまでコミュニティの概念を広げることができたとき、それは「存在論的コミュニティ」とでも呼べそうな事物の連関として、相互に絡み合う世界を示してくれるはずだ。

 こうした世界は、資本主義的近代世界とは違ったものだ。資本主義的近代世界では、つながりが単純化されがちである。田畑を耕しても、収穫物を売って手にする利益はそれほど多くない。効率的に考えれば、田畑にメガソーラーを設置したほうが多くの利益を手にすることができる。資本主義的近代世界では、こういう説明が論理的だとされ、科学的で経済的であると評価される。一方、存在論的コミュニティという視点からすれば、それは多様なつながりから自らの存在を断ち切って孤立化させる行為だと言わざるを得ない。

 田畑のままにしておけば、高齢になっても作物を育てる愉しみを味わうことができるし、さまざまな存在とのつながりを感じ続けられるし、友人に作物を贈ることもできる。日光や雨や風の存在も日々感じ続けられる。もちろん、外出する理由も存在し続ける。高齢になって外出が難しくなる頃には、信頼できる若者に田畑を譲ることもできる。その若者が定期的に収穫物を届けてくれて、そこで会話を愉しむことができるかもしれない。

 事物が「網の目」のように絡み合う関係的世界を破壊してしまうことなく、存在論的コミュニティのなかで生きていきたいものだ。長寿社会において健康で愉しく長生きするためには、若い頃から存在論的コミュニティとともに生きることが大切である。だからこそ、なるべく自宅で暮らし続けられるような社会を構築することが重要なのであり、介護施設に入居するにしても「存在論的コミュニティ」とのつながりを断ち切るような生活を強いることのないようなケアが求められるのである。どうか「存在論的コミュニティとのつながりを断ち切り、1日16時間おとなしくイスに座っていられるようにケア(管理)しよう」などと考えないようにしていただきたい。

 医療や介護の専門職からケア(管理)されるだけの空間で生き続けるのは苦しい。存在論的コミュニティとのつながりから多様なケアを感じたいし、逆に自分も他の存在をケアしたい。宮沢賢治のように、田畑のことを想いながら「日照りの時は涙を流し、寒さの夏はおろおろ歩き」たいのである。そのためには、介護施設の柔軟なマネジメントが求められるし、当事者がこれまでどう生きてきたのかが大切になるし、地域の物理的な空間がコンクリートやアスファルトやメガソーラーで覆い尽くされていないかが重要になる。つまり、1960年頃から始まった「物理的空間のコミュニティデザイン1.0」、1980年頃から始まった「公共施設の参加型設計としてのコミュニティデザイン2.0」、2000年頃から始まった「人のつながりを醸成するコミュニティデザイン3.0」が、いずれも重要になるのである。

 そして、2020年頃からは「資本主義的近代世界から抜け出すためのコミュニティデザイン4.0」が必要なのではないかと感じている。

第1回 コミュニティデザインと長寿社会

第2回 入居者、職員、地域住民

著者

やまざきりょう氏の写真。
山崎 亮(やまざき りょう)
 studio-L代表。関西学院大学建築学部教授。1973年愛知県生まれ。大阪府立大学大学院および東京大学大学院修了。博士(工学)。建築・ランドスケープ設計事務所を経て、2005年にstudio-Lを設立。地域の課題を地域に住む人たちが解決するためのコミュニティデザインに携わる。著書に『コミュニティデザインの源流』(太田出版)、『縮充する日本』(PHP新書)、『ケアするまちのデザイン』(医学書院)、『面識経済』(光文社)などがある。また2026年7月には、これまでに携わった101のプロジェクトをまとめた『前例集』(studio-L)が出版された。

公益財団法人長寿科学振興財団発行 機関誌 Aging&Health 2026年 第35巻第3号(PDF:5.7MB)(新しいウィンドウが開きます)

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