町民すべてが生涯現役を目指す〜支援される側も担い手に〜(秋田県藤里町 藤里町社会福祉協議会)
公開日:2025年7月18日 09時00分
更新日:2025年7月18日 09時00分
福祉の支援が必要な人も担い手になれる
秋田県の北端、世界遺産・白神山地の南側に位置する藤里町。人口2,713人、高齢化率51.64%(2025年4月現在)という、いわゆる"高齢化先進地域"である。ここ藤里町では、2015年より、福祉の立場からの地方創生事業「プラチナバンク事業」を進めている。運営主体は
だ。「高齢社会・人口減少社会のトップランナーを走る町ですから、高齢者をどう支えていくかという発想だけでは立ち行きません。プラチナバンク事業では、高齢になっても、認知症になっても、障がいを持っていても、"生涯現役"を希望するすべての人が活躍できる環境づくりを目指しています」と語るのは、藤里町社会福祉協議会会長の菊池まゆみさん。
プラチナバンクの登録会員は、町民の約7人に1人にあたる414名。毎日、数十名が町のどこかで活躍している。「地域の役に立ちたい」という気持ちがあれば、老若男女問わず誰でも登録できる。仕事内容や働き方、就業時間などは、個人の経験や希望、生活スタイルに応じて自由に選べる。仕事の種類は80以上にのぼり、農作業や軽作業、バスの運転、施設の受付など、その活躍の場は幅広い。
「プラチナバンクは、いわゆる"弱者"とされる福祉の支援が必要な方も、担い手になれる仕組みです。足腰が弱っても、手だけでできる仕事があります。手が動かなくなっても、口だけで参加できる方法を考えます」と菊池さんは話す。
全世代型活躍支援プラチナバンク事業にたどり着くまで
菊池さんは1990年、専業主婦から福祉の世界へ転身。入職当初、「支援する人」と「支援される人」に分けるという当時の福祉の常識に強い違和感を覚えたという。
「『一人の不幸も見逃さない運動』を担当する中で、たとえ障がいがあっても、地域で役割を果たそうと懸命に頑張る人たちの姿に感銘を受けました。そして、『支援が必要な人は、支援する側にもなれる』という考えにたどり着いたのです」
2005年には、支援する人とされる人を隔てない「トータルケア推進事業」に着手。「福祉でまちづくり」を合言葉に、障がいの有無にかかわらず、町民全体がまちづくりに参画する仕組みを構築した。
その後、2010年からは福祉拠点「こみっと」で若者への活躍支援を開始。引きこもりや長期不就労の状態にある113名に対し、居場所づくりと就労支援を行った。結果、5年間でそのほとんどが自立し、90名以上が一般就職を果たした。

こうした取り組みを経て、2015年にスタートしたのが、福祉の立場からの地方創生事業「プラチナバンク事業」だ。"町民すべてが生涯現役を実践できるまちづくり"を目指す、全世代型の活躍支援事業である。
力を持ち寄って活躍する「プラチナバンク」
「シルバー人材センターでは、足腰を悪くすると辞めざるを得ないという現実がありました。でも、プラチナバンクは違います。たとえ5%の力しか持っていなくても、みんなで力を持ち寄れば活躍できる。それが、プラチナバンクの考え方です」と菊池さん。
2015年度の登録者は121名だったが、2025年には414名(男性153名・女性261名)に増加。人口減少が進む中で、登録者数は右肩上がりだ。平均年齢は74歳、最高齢は103歳の女性という。
事務局長でプラチナバンク事業担当の門田真(もんだまこと)さんは、「これまでシルバー人材センターが担っていた仕事、たとえば草刈りや雪囲いなどを、プラチナバンクで請け負うようになりました。町内での評判が広まり、一般企業からの依頼も増え、活躍の場がどんどん広がっています」と語る。
山菜採りやその加工、あるいは葛やわらびの根を掘って粉をつくる「根っこビジネス」は、代表的な仕事のひとつ。「白神まいたけキッシュ」の開発・製造にもプラチナバンク会員が関わっている。これは、町長からの「特産品のまいたけを使った商品を」という提案がきっかけだった。「こみっと」の食堂の厨房で製造され、若者と高齢者が一緒に働くことで、世代を超えた協働の場となっている。



誰もが安心して参加できる仕組み
プラチナバンク事業には、誰もが安心して参加できるような工夫がちりばめられている。
1つ目は、会員一人ひとりの要望を丁寧に聞き取り、本人に合った仕事を提案すること。
2つ目は、マッチングの際に「就労的活動支援コーディネーター」という専門職を配置していること。
「たとえば『草刈りに1人お願いしたい』という依頼に対して、『障がいのある方と認知症の方で、2人で1人分の仕事ではどうでしょうか』といった提案をします。危険を伴う仕事以外は、できる限り引き受けたいという気持ちです」と門田さんは話す。
3つ目は、現場リーダーとして「プラチナバンクスタッフ」を配置していること。社協の理事や元民生委員など、人と関わるのが得意な人が選ばれ、認知症や障がいがあっても安心して作業に取り組める体制を整えている。

人生のベテランにはかなわない
プラチナバンクの現場は、笑顔と笑い声にあふれている。たとえば、手袋が破けただけでも大笑いが起こる。90代の女性が見事な手際でフキの皮をむく姿には、誰もが感嘆する。そして、皆さんが口をそろえて語るのは、「楽しく活動しています」ということである。

門田さんは「作業現場に出てみると、われわれの福祉の知識はあまり役に立ちませんでした。プラチナバンク会員の皆さんは人生のベテランばかりで、知恵と経験は到底かないません」と語る。
菊池さんも、「私たちのようなひよっこは、高齢者のパワーとエネルギーには太刀打ちできません」と笑う。
コロナ禍前に実施していた「藤里体験プログラム」では、県外から若者を呼び、里山の暮らしを体験してもらっていた。そこでもプラチナバンク会員が大活躍したという。
「山に入る経験がない若者が、普段は杖をついて歩いているおばあちゃんが山ではどんどん奥へ入っていくのを見て驚いていました。『なぜ山だと歩けるんですか?』と必死に後を追っていたそうです」と、菊池さんは笑いながら振り返る。「藤里体験プログラムを、ぜひ復活させたい」と力を込める。
"活躍支援"を全国へ
「藤里方式」を学びたいと、全国からの視察が絶えない。菊池さんの著書『「藤里方式」が止まらない』(萌書房)、『地域福祉の弱みと強み〜「藤里方式」が強みに変える〜』(全社協)にも、その名が冠されている。
「藤里方式とは、『支援する人とされる人を分けないこと』、そして『地域ぐるみ・組織ぐるみで進めること』です」と菊池さん。
門田さんも、「一方通行の矢印ではなく、支援する側とされる側の関係が入れ替わり、それを繰り返しながら地域で生活していく。それが藤里方式です」と続ける。
「福祉といえば『支援する』というイメージが強いですが、そうではなく『活躍できるように応援する』。この"活躍支援"という言葉を全国に広めたい」と、菊池さんは語った。
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