健康長寿ネット

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日本一の短命県が始めた"大逆転"の取り組み(青森県弘前市)

公開日:2018年7月 6日 13時37分
更新日:2019年2月 1日 15時22分

写真1:観光客でにぎわう青森県にある弘前公園の桜まつりの様子を表す写真。
写真1:弘前城跡がある弘前公園の桜を観に国内外からの観光客でにぎわっていた。遠くに岩木山を望む

青森県は最下位の平均寿命 働き盛りの死亡率が高い

 "津軽富士"の異名を持つ秀峰・岩木山の麓(ふもと)、青森県弘前市の旧岩木地区は、かつて青森県中津軽郡岩木町であった。2006年2月に市町村合併の流れを受けて弘前市の一部となった。弘前市の西部に位置し、西に岩木山、東に岩木川が流れる自然豊かな田園風景が広がる。

 取材に訪れた4月下旬は弘前公園で桜まつりの真っ最中で、国内外からの観光客でにぎわっていた(写真1)。北国の春はいっきにやってくる。桜と梅が同時に咲き、こいのぼりが空を泳ぐ。

 しかし、全国都道府県の平均寿命で短命県といわれる青森県の中でも岩木地区は下位に位置している。青森県は男性の平均寿命の都道府県ランキングで、1965年最下位の46位で65.32歳(沖縄本土復帰前)、1985年最下位の47位で73.05歳、その後も最下位が続き、2015年78.67歳(表1)。1位の滋賀県の81.78歳とは実に3.11歳の開きがある。これは女性でも同様で最下位を記録している。

 この差を大きいとみるか、それともわずかな差とみるかであるが、あの阪神・淡路大震災で約6,500人もの犠牲者が出て、その大半が兵庫県に住んでいる人であった。その結果、兵庫県の平均寿命は大きく落ち込んだ。それでも男性で0.5歳、女性で約1歳の短縮に過ぎなかった。それを考えると3.11歳の開きは大変な大きさであることが実感できる。

表1-1:平均寿命都道府県ランキング(男性) 青森県は男女とも日本一の短命県
順位1965年1985年2015年
1 東京
69.84歳
沖縄
76.34歳
滋賀
81.78歳
2 京都
69.18歳
長野
75.91歳
長野
81.75歳
3 神奈川
69.05歳
福井
75.64歳
京都
81.40歳
4 愛知
69.00歳
香川
75.61歳
奈良
81.36歳
9位
長野
36位
沖縄
44 岩手
65.87歳
長崎、鹿児島
74.09歳
和歌山
79.94歳
45 秋田
65.39歳
高知
74.04歳
岩手
79.86歳
46 青森
65.32歳
大阪
74.01歳
秋田
79.51歳
47 青森
73.05歳
青森
78.67歳
表1-2:平均寿命都道府県ランキング(女性) 青森県は男女とも日本一の短命県
順位1965年1985年2015年
1 東京
74.70歳
沖縄
83.70歳
長野
87.67歳
2 神奈川
74.08歳
島根
81.60歳
岡山
87.67歳
3 静岡
74.07歳
熊本
81.47歳
島根
87.64歳
4 岡山
74.03歳
静岡
81.37歳
滋賀
87.57歳
26位
長野
7位
沖縄
44 青森
71.77歳
栃木
79.98歳
秋田
86.38歳
45 岩手
71.58歳
茨城
79.97歳
茨城
86.33歳
46 秋田
71.24歳
青森
79.90歳
栃木
86.24歳
47 大阪
79.84歳
青森
85.93歳

 しかも特に働き盛りの世代の死亡率が高いのが特徴的だ。「40~44歳」の男性は、長野県の10万人あたりの死亡率が109に対して、青森県は153と実に1.4倍の開きとなっている(表2)。一家の大黒柱として成長期の子どもを育てているだろう世代が数多く亡くなっている現実には慄然とさせるものがある。

表2:青森・長野・沖縄の年代別死亡率ランキング(人口10万人当たり、2015年、男性)
10代前半までと20代後半を除いて青森県の男性は長野県と比べていずれも死亡率が高い
青森県長野県沖縄県
死亡率順位死亡率順位死亡率順位
0~4歳 45(1.0倍) 9 44 7 62 29
5~9歳 0(0倍) 1 7 9 12 31
10~14歳 3(0.3倍) 2 12 32 10 26
15~19歳 42(1.8倍) 44 24 19 36 37
20~24歳 92(1.8倍) 46 51 20 51 18
25~29歳 59(0.7倍) 21 79 37 62 24
30~34歳 58(1.2倍) 14 48 4 64 21
35~39歳 109(1.2倍) 45 92 29 119 47
40~44歳 153(1.4倍) 44 109 5 158 45
45~49歳 267(1.2倍) 46 214 31 252 45
50~54歳 447(1.6倍) 47 276 4 439 46
55~59歳 691(1.5倍) 47 460 7 638 45
60~64歳 1113(1.5倍) 47 731 4 1037 45
65~69歳 1653(1.6倍) 47 1053 2 1345 36
70~74歳 2631(1.4倍) 47 1906 3 2141 28
75~79歳 4236(1.5倍) 47 2894 1 3190 6
80~84歳 7074(1.3倍) 47 5623 2 5517 1
85歳以上 15357(1.1倍) 46 13580 3 13098 1

短命県の汚名返上から健康のビッグデータづくりへ

 岩木健康増進プロジェクトは2005年から始まり、今年で14年目を迎える。10年間で岩木地区住民の健康水準を上げて、平均寿命を延ばすことを目的にした健康診断だ(写真2)。毎年5月下旬から6月初旬にかけて10日間、20歳以上の岩木地区の住民約1,000人を対象に、生活習慣から遺伝子情報まで600項目以上に及ぶ健康診断を行っている。

写真2:生活習慣から遺伝子情報まで600項目以上に及ぶ健康診断を受ける岩木地区住民の様子を表す写真。
写真2:10日間で約1,000人を健診する

 このプロジェクトの発起人である中路重之(なかじしげゆき)・弘前大学大学院医学研究科社会医学講座特任教授(写真3)は、「ここまで詳細で大規模な健康調査は世界で類を見ない。病気になってからの医療ビッグデータは世界中にたくさん存在するが、健康な人が病気になっていく過程を詳細に追い求めた健康ビッグデータは他にない」と言う。

写真3:岩木地区住民の健康水準を上げて、平均寿命を伸ばす目的とした岩木健康増進プロジェクトの発起人である中路重之氏の写真。
写真3:中路重之・弘前大学特任教授

 受診者は事前に15ページの生活調査アンケートに記入し、健診当日は血液、尿、唾液、嗅覚、聴覚、記憶力、運動機能など40を超える検査ブースを回る。健診の所要時間は1人平均5~7時間と大変だが、多くはリピーターとなっている。男女比は1対1.5で女性が多い。

 医師やスタッフは朝6時から準備して、6時半から午後3時まで、毎日100人ほどを徹底的に調べる。それが10日続き、約1,000人が健診を受診する。これに医師40人、健康リーダー30人、大学スタッフ・学生80人、参画企業50人の総勢約200人で対応する。健診受診者には検査結果のほとんどが当日中に本人に伝えられるため、健診のモチベーションを高める効果があるという。

 健診内容は、問診、身体計測、血圧測定、心電図検査、骨密度検査(DXA法)、四肢血圧検査(動脈硬化の程度)、体組成検査(体脂肪、筋肉量など)、内臓脂肪測定、聴力検査、認知度(もの忘れ)検査、レントゲン検査(首、腰、膝)、超音波検査(膝)、身体機能検査、体力測定、歩行能力テストなど、希望者には膝のMRIもある。

 検査項目の目玉の1つが「血圧脈波測定」というもの。仰向けに寝て、手足4か所の血圧を同時に測定して、動脈を流れる血液の速度を測り、動脈硬化の度合いを調べるものだ。検査項目は600項目から、年々増えてきて、数え方にもよるが人によっては2,000項目にものぼるという。

健康長寿の実現には幼少期からの健康教育が必須

 2005年に10か年計画で始まった「岩木健康増進プロジェクト」では、「プロジェクト健診」「小中学生健康調査」「健康実践教室(運動教室+栄養指導)」「健康講演会」などの活動を毎年実施してきた。そこで地域の住民と弘前大学教職員、学生が密接に交流を持ちながらプロジェクトを進めるために、2010年に「岩木健康増進プロジェクト・サポーターズクラブ」を設立した。住民自らがプロジェクトに参加し運営に携わることにより、真の地域健康増進活動への発展をめざしている。

 岩木健診には毎年1,000名の住民が参加、同地区の小中学生(小学5年生以上)の約500人に対して行っている調査も含めると、健康情報2,000項目、のべ2万人以上と膨大だ。

 これまでの健診の結果、次のことが明らかになったが、検査項目の組み合わせは無尽蔵であり、続々と新知見が得られている。

  1. 男性20歳代、女性30歳代の肥満者が多い
  2. 男女とも60歳未満の体力が劣っている
  3. 男女とも50歳未満で喫煙率が高い
  4. 男性で3合以上(日本酒換算)の飲酒率が非常に高い
  5. 男女とも運動習慣を持つ者の率が非常に低い
  6. 男女とも食習慣に問題がある(朝食抜き、塩分の多い食事)
  7. 男女とも50歳以上で歯の数が少ない
  8. 男女とも抑うつ度が低い

 こうしたことから、小中学生も含めて、運動と食生活による肥満対策、喫煙対策、飲酒対策をターゲットに健康教育に取り組んでいる。青森県ではどの年代でも死亡率が全国平均に比べて高いが、特に40~60代が多く亡くなることが問題である。生活習慣病は長い年月をかけて発症するため、若い年代への健康啓発と教育が重要となる。

「岩木に行けば、健康の宝の山がある」

 いつしか医療の分野では、「岩木に行けば、健康に関する宝の山がある」と知られるようになった。ヘルスケアに力を入れる大手企業も続々と参画し、健診当日は全国から駆けつけてスタッフとして働く。健診を受ける側だった地域の人びとも「健康増進リーダー」などの形で加わっている。また弘前大学は医学部のみならず、ほぼ全学部から教職員と学生が集まり汗を流す。

 古くから地域に根を張ってきた弘前大学だからこそ可能になった。2015年文部科学省は全国の国立大学の3類型化を始めた。1つは「世界レベルの教育研究を推進する大学」、2つは「特徴的な教育研究を推進する大学」、3つ目は「地域の活性化に貢献する大学」で、弘前大学は3つ目を選択した。

 2013年に文部科学省から革新的イノベーション創出プログラムであるCOI(センター・オブ・イノベーション)の採択を受け、弘前大学が全国12の国家的プロジェクトの1つに選ばれた。そのタイトルは、「真の社会イノベーションを実現する革新的『健やか力』創造拠点」。2016年には科学技術振興機構の中間評価では医療・健康分野で唯一の「最高評価S」を獲得した。

 中路教授は「COIの柱はあくまでも青森県民の健康づくりへの意識向上と短命県の返上です。目標は、新たな『健診パッケージ』の開発です。健診技術の進歩で、近い将来、多くの検査結果がその日のうちに出るようになる。そこでそれらの検査結果に基づいて、その人の健康状態と必要な治療、生活改善をその場でデモンストレーティブ(実証的)に行うことで健康に意識を向けさせることができるはずです」と言う。「ヘルスリテラシー(健康意識)が高いとはいえず、さまざまな疾患についての問題を抱えている青森県(表3)は、いろいろな意味で東南アジアをはじめとしたアジア諸国と似ている。ならばその仕組みはアジア諸国に向けた"輸出品"になるはずです」と、短命県返上から"大逆転"の夢を語る。

表3:青森県の現状と対策

  • 日本一の短命県
  • どの年代でも死亡しやすい:特に40~60代
  • どの病気でも死亡しやすい:特に生活習慣病(がん、脳卒中、心臓病)
  • 生活習慣が悪く、健診受診率が低く、病院受診が遅い、通院もわるい
    →つまり、県民1人ひとりが負けている
  • もっと健康の知識(健康教養)をつけて、健康づくりに取り組むべき
  • 全体戦略
    1. 花火:トップの決断(健康宣言など)→システムづくり
    2. 産官学民の連携+地域・職域・学校での実施
    3. 根の張った動き:仲間づくり(リーダー育成)
    4. 経済活性化・少子化対策(町づくり、地方創生)との連携

弘前大学 中路重之

産・学・官・民の結集・連携がプロジェクトの広がりを後押し

 弘前大学COIは、産・学・官・民の強力な連携・推進体制を構築していることが一番の強みだ(図)。

産・学・官・民連携による強力な推進体制を構築

継続的、自発的に多種多様なイノベーションを生み出す『COI 拠点』をめざす
<弘前COI:「認知症・生活習慣病研究とビッグデータ解析の融合による画期的な疾患予兆発見の仕組み構築と予防法の開発」>

図:健康増進プロジェクトを進める弘前大学COIの産・学・官・民の連携による推進体制を表す図。

図:弘前大学COIの産・官・民の連携による推進体制

 「産」でいえば、名だたる企業約40社が参画企業に名を連ねている。また、青森県の商工会議所など経済5団体も「健康経営」の事業所3,000の登録をめざしている。

 「学」では、弘前大学を中心に、認知症発症後の意思決定サポートシステムの開発や「京丹後コホート」を実施する京都府立医科大学、世界的に知られる「久山町研究」を率いる九州大学医学部がサテライト拠点として加わった。2015年度からは弘前大学は九州大学が主導する「健康長寿社会の実現を目指した大規模認知症コホート研究」に加わり、弘前市と連携して高齢者健康調査「いきいき健診」を実施、ビッグデータを拡充させている。

 さらに京都大学(医)や東京大学(医)、東京大学医科学研究所、名古屋大学(医)からバイオインフォマティクスや生物統計などの一流の専門家を迎えてビッグデータの解析態勢を強化して、AI(人工知能)を応用した新たな価値創出をめざしている。

 「官」は、青森県、弘前市、青森県の37市町村が連携し、「健康宣言」を行った。青森県も独自の「健康経営認定制度」を創設して、約100事業所がすでに認定された。

 そして「民」は、先のサポーターズクラブの「健康サポーター」をはじめ、「健康リーダー」「食生活改善推進員」などがこのプロジェクトを支えている。

 岩木で始まった健康増進プロジェクトの動きは青森県全体に広がりをみせている。

 中路教授は「平均寿命の最高の県と最下位の青森県との差がわずかながら縮まったことに希望を感じるものの、ようやくスタートラインに立つことができたというところです。子どもへの健康教育がこの先30、40年後には大きな結果となって現れてくるでしょう」と将来に期待を寄せた。

転載元

公益財団法人長寿科学振興財団 機関誌 Aging&Health No.86 2018年7月発行

Aging&Health(エイジングアンドヘルス)No.86(新しいウィンドウが開きます)

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