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まちぐるみで進める健幸(けんこう)まちづくり(東京都多摩市)

公開日:2021年10月13日 09時00分
更新日:2021年10月13日 09時00分

写真:多摩センター駅の階段にある健幸都市多摩市のスローガンを表す写真。
多摩市・多摩センター駅の階段には「健幸都市 多摩市」のスローガン

まちびらきから50年の多摩ニュータウン

 多摩ニュータウンは、東京都南西部の多摩丘陵に位置する稲城市・多摩市・八王子市・町田市の4市にまたがる日本最大規模のニュータウン。高度経済成長期に東京の深刻な住宅不足を背景につくられた。多摩ニュータウン最初の入居は、1971年多摩市諏訪・永山地区で始まった(写真1)。それから50年が経ち、ニュータウンには高齢化の波が押し寄せている。団塊の世代が一斉入居し、子どもが独立したあとは、高齢者世帯や独居高齢者が増えている。

写真1:高台からみた多摩ニュータウンの様子を表わす写真。
写真1:高台から見た多摩ニュータウン(永山地区)

 多摩ニュータウン初期入居エリアである多摩市は、1970年代の若い世代の一斉入居により、人口の年齢構成に偏りがあるという課題を抱えている。1989年に5.21%だった高齢化率は2021年には28.87%と、約30年間で5倍以上となった。これは日本最速の高齢化といわれている。

 一方、多摩市の要介護認定率は13.19%と、都内で最も低い。65歳健康寿命(要介護2の認定を受けるまでを基準とした場合)は男性84.16歳、女性86.68歳と、都内男性1位、女性6位と都内トップレベル。さらに、65歳以上が支払う介護保険料は月4,809円で、全国平均に比べて1,000円以上低い(すべて2019年データ)。つまり、多摩市には元気な高齢者が多いといえる。

 多摩市は2017年に「多摩市健幸(けんこう)都市宣言」を制定し、誰もが健康と幸せを実感できるまち「健幸都市」をめざし、健幸まちづくりを進めている。この「健幸まちづくり」の取り組みを中心に、元気高齢者が多い理由をみてみたい。

みどり率が高い多摩市まち全体がまるで公園

 多摩市のまちびらきは、多摩ニュータウンと同じ1971年。2021年で市制50年を迎える。市の総面積の約60%はニュータウンエリア(多摩センター駅・永山駅周辺)が占め、聖蹟(せいせき)桜ヶ丘駅周辺の桜ヶ丘住宅地などには閑静な一戸建てが建ち並ぶ。約14万8千人の人口の約66%がニュータウンエリアに住み、ニュータウンエリアには民間の分譲マンションや団地と呼ばれる公的賃貸住宅(UR都市機構、都営住宅、JKK東京)が多い。

 都心までは、私鉄の京王線と小田急線で30分強とダイレクトにアクセスできる。多摩地区を南北に縦断する多摩都市モノレールではJR中央線方面へのアクセスも便利だ。

 都心への通勤者が多い一方、約4,000もの事業所があり、昼間人口が多いことも特徴である。また、国士舘大学や多摩大学など5つの大学のキャンパスがあり、学生で賑わうまちでもある。休日になると、多摩センター駅にあるサンリオキャラクターのテーマパーク「サンリオピューロランド」には若い女性や家族連れが集まる。聖蹟桜ヶ丘駅周辺はスタジオジブリ映画『耳をすませば』のモデル地であることから、アニメ舞台の"聖地巡礼"に訪れるファンも多い。

 特筆すべきは、緑地の多さである。市内の「みどり率」は53.9%(東京都基準)で、市立公園面積は都内26市で1位(2015年、市民1人あたり)。多摩ニュータウンには、まち全体がまるで公園のように緑が配置されている。網目のように張り巡らされた遊歩道は全長41㎞に及び、歩車分離が行き届いた安全な道が整備されている(写真2)。

写真2:全長41kmに及ぶ遊歩道の様子を表わす写真。
写真2:遊歩道はマラソンコース並みの41㎞!

多摩市に元気な高齢者が多い理由は?

 「多摩市には健康への意識が高い方が多いと感じます。たとえば新型コロナウイルスワクチンの75歳以上高齢者の予約率が9割を超えていますし(2021年7月現在)、健康に関するアンケートの回収率も非常に高いです」と多摩市健幸まちづくり政策監の倉吉紘子さん(写真3)は、多摩市に元気高齢者が多い理由の1つをこう語る。

 健康福祉部健幸まちづくり推進室長の原島智子さん(写真3)は、社会参加が健康に寄与している可能性を挙げる。「NPO法人や住民主体の通いの場の数が都内トップレベルです。ニュータウンとして新しくつくられたまちなので、自分たちで新しく何かを始めないと何も始まらないという考えをお持ちの方が多いのかもしれません」

写真3:多摩市健幸まちづくり政策監の倉吉紘子さんと健康福祉健幸まちづくり推進室長の原島智子さんの写真。
写真3:多摩市健幸まちづくり政策監の倉吉紘子さん(左)と健康福祉部健幸まちづくり推進室長の原島智子さん(右)。倉吉さんは「健幸マーク」を、原島さんは多摩市オリジナルテキスト『あなたの「生き方・老い方」応援本』を手に添えて

 「坂の多さ」と「歩きやすい環境」も理由として挙げられる。多摩丘陵を切り開いてつくられたまちには坂や階段が多く、自然と運動量が増えて筋力が付く(写真4)。

写真4:多摩市に元気な高齢者が多い理由にあげられる自然に筋トレになる坂の様子を表わす写真。
写真4:坂のあるまちのメリットは、自然に筋トレができること

 介護予防事業では、元気シニアが介護予防リーダーや健康づくり推進員として多く活躍している。社会的な役割を持つことも健康の要因に関わっているだろう。

 介護予防事業も充実している。2017年からフレイル予防普及啓発事業「TAMAフレイル予防プロジェクト(TFPP)」を市民、大学、地域包括支援センターと連携して行っている。市独自のフレイル予防チェックリストを開発し、「指輪っかテスト」「片足立ちテスト」「5m通常歩行テスト」の測定会を実施。測定会は国士舘大学の学生や介護予防リーダーが担当している。TFPPは支援が必要な高齢者を見出し、適切な介護予防事業へつなぐだけでなく、参加した高齢者が自分の状態に気づき、行動変容するきっかけづくりとなっている。

健康と幸せを実感できるまちスマートウェルネスシティ

 多摩市では2017年に「多摩市健幸都市宣言」(図)を行い、子どもから高齢者まで、子育て中でも障害があっても、誰もが健康で幸せを実感できるまち「健幸都市(スマートウェルネスシティ)」をめざしている。この「健幸まちづくり」の取り組みは、行政だけでなく、市民、NPO、団体、事業者、大学など、さまざまな主体とまちぐるみで実施している。

図:多摩市健幸都市宣言の内容を表す図。
図:「多摩市健幸都市宣言」

 「スマートウェルネスシティ」とは、筑波大学の久野譜也教授が提唱する概念で、2009年には「Smart Wellness City首長研究会」を発足させた。その理念は、「ウェルネス(健幸)をこれからのまちづくりの中核とし、健康に関心のある層だけではなく、市民の誰もが参加し、生活習慣病予防やフレイル予防を可能とするまちづくり、健幸都市をめざす」というもの。2021年7月現在、113市区町村が研究会に加盟。多摩市は研究会発足初期の2013年から加盟している。

 本誌『Aging&Health』2017年1月号では、「Smart Wellness City(SWC)」をテーマに久野譜也教授に執筆いただいた。この中でSWC実現に特に強調したのが、「歩いて暮らせるまちづくり」である。過度な車依存が糖尿病患者の増加につながる可能性を挙げ、自然と歩いて暮らせるまちをつくることで、健幸が実現できるとしている。

「楽しい! 面白い! やってみたい!」全世代型の健幸まちづくり事業

 「健幸まちづくりは、行政だけで行ってもなかなか効果につながりません。市民の皆さんと協働して、まちぐるみで健幸都市をめざすことで、より大きな効果を生み出すことができます」と倉吉さんは「市民協働」を強調する。

 原島さんは、「健幸都市宣言の前から、ご自身でウォーキングをしている方が多かったです。すでに市民の皆さんが取り組んでいたところに『健幸まちづくり』の冠が付いたということだと思います」と住民の健康意識の高さの上に取り組みが成り立っていると指摘する。

 健幸まちづくり事業をみてみよう。取り組みの主となるのは、「歩く」「老いを楽しく学ぶ」「働き盛り世代への健幸啓発」である。

 「歩く」を促進する事業では、「ぶらてくCity多摩」とキャッチコピーを付け、歩くことを楽しみながら健康づくりにつなげようと呼びかけている。市内には安全に歩ける遊歩道が整備され、ウォーキングに最適な環境だ。健康づくり推進員が厳選した市内3駅を起点としたウォーキングコースのマップを作成し、公共施設などで配布している。

 健康づくり推進員は、月3回の月例ウォーキングなどを企画・運営している。コロナ禍で中止が多かった2020年には、「withコロナ時代のウォーキング」に健康づくり推進員自らが出演して、多摩市公式のYouTubeで配信した。

 「老いを楽しく学ぶ」事業として、桜美林大学大学院の鈴木隆雄教授(本誌編集委員)の監修のもと「ライフウェルネス検定」を実施した。老いや病と折り合いをつけながら、住み慣れたまちでいきいきと暮らし続けるために役立つ知識を学べる、市独自の検定である。「市民の皆さんは健康意識が高いので、勉強好きな方が多いだろうという発想からこの検定をつくりました。老いていくことをも、楽しく学べる機会になりました」(倉吉さん)

 検定の問題は、多摩市発行のテキスト『あなたの「生き方・老い方」応援本』(写真3)から出題している。検定を受ける人に500円でテキストを購入してもらい、「学ぶ」と「検定」をセットにして企画している。検定はこれまで3回実施し、60~70代の方が多く検定を受けている。

 また、テキストの要点をまとめた「ライフウェルネス教材」を製作し、希望者に貸し出しをしている。新型コロナウイルスワクチンの集団接種会場の待機スペースでも教材の動画を上映し、健幸啓発につなげている(写真5)。

写真5:新型コロナ ウイルスワクチンの集団接種会場の待機スペースで教材の動画を上映し、健幸啓発を行う様子を表わす写真。
写真5:ワクチン会場で「ライフウェルネス教材」の動画を上映

 「働き盛り世代への健幸啓発」としては、健幸啓発情報誌『for 40』を作成して40歳を迎える市民に配布している。人生80年以上の時代、40歳はほぼ人生の折り返し地点。これからのライフイベントを考えることによって、自身の身体や生活を振り返るいいタイミングである。

 また、市内6か所にある「健幸Spot」では、血圧、体重、筋肉量をセルフチェックできる。一部のスポットはショッピングセンターの一角に設置されていて、買い物ついでに気軽に利用できる(写真6)。

写真6:血圧、体重、筋肉量をセルフチェックできる市内6か所にある健幸Spotの様子を表す写真。
写真6:ショッピングセンター(ココリア多摩センター)の一角にある健幸Spot

後期高齢者急増への備えと若い世代の流入と定着の促進

 ニュータウン初期入居から50年が経過し、当時一斉入居した団塊の世代が高齢化する一方で、若い世代の流入が一定程度に留まっていることから、多摩市の高齢化率は2040年に39.9%に達すると予測されている。2021年1月には前期高齢者と後期高齢者の比率が逆転した。高齢者の半分以上を後期高齢者が占める段階となり、今までは元気高齢者が多く、介護認定率が低い水準だが、今後は変わらざるを得ない状況になると予想される。

 これからの多摩市の健幸都市の課題は、「後期高齢者急増への備え」と「若い世代の流入と定着の促進」であるという。多彩な介護予防事業、健幸まちづくり事業、充実した医療介護体制のもと高齢化への備えが進んでいる一方で、団地の老朽化やエレベーターのない5階建て団地への対応など、ハード面も課題に挙がってくるだろう。

 現在ニュータウン再生が少しずつ進められている。2013年に建て替えに成功した諏訪二丁目住宅は、「日本最大級の建て替え」といわれている。5階建て団地は14階建て高層マンションとなり、640戸から1,249戸へと倍増。増えた住戸は分譲し、新しい住民の流入があり、エリアの高齢化率が一気に下がった。一部の都営住宅の建て替えも進み、低層団地から高層住宅へと変貌している。

 市では「多摩市ニュータウン再生方針」の策定や「多摩ニュータウン再生プロジェクトシンポジウム」を行うなど、市民や関係者との情報共有や意見交換の機会をつくりながらニュータウン再生プロジェクトを推進中である。

 多世代交流の場づくりも進んでいる。2020年春、多摩ニュータウン豊ヶ丘団地の空き店舗にコミュニティスペース「健幸つながるひろば とよよん」がオープンした(写真7)。居宅介護支援事業所に併設したコミュニティスペースを地域に開放し、子どもや子育て世代も立ち寄れる場となっている。こうした場が増えることで、旧(ふる)くからの住民と新しい住民が交わり、健幸マインドが引き継がれるだろう。

写真7:多世代のコミュニティスペースである健幸つながるひろばとよよんの様子を表す写真。
写真7:多世代のコミュニティスペース「健幸つながるひろば とよよん」。UR都市機構、社会福祉法人楽友会、多摩市社協、多摩市が連携協力

 2030年、2040年の多摩市を見据えて、原島さんに伺うと、「今後、後期高齢者が増えれば、介護認定率も上がると思います。そのような中でも、若い方も高齢の方も、健幸を実感できるまちづくりを進めたい。福祉サービスはしっかり守りながら、多世代が支え合う地域共生社会も1つの柱として、いつまでも地域の中で自分らしく暮らしていけるよう支えていきたい」と話す。

 倉吉さんは、「寿命が伸びた中で、その伸びた期間をどう過ごしたらいいか誰も答えを持っていない状況だと思います。そのヒントとなるものを健幸まちづくりの理念に込めていて、『健幸の鍵』として、健康は『食』と『運動』、幸せは『学び』と『人との交流』を挙げています。これからもこの健幸を軸に市民の皆さんをサポートしていきたい」。

 多摩市は緑が豊かで、歩いて暮らせる環境が整備されている。高齢者にとっても、子育て世代にとっても、テレワークが増えたwithコロナ時代の住処(すみか)としてもいい環境だ。まもなく2025年に団塊の世代が後期高齢者になるわが国にとって、多摩市のまちの特性を活かしながら市全体で進める健幸まちづくりは、人生100年時代のまちづくりの1つのモデルとなるかもしれない。

(2021年10月発行エイジングアンドヘルスNo.99より転載)

転載元

公益財団法人長寿科学振興財団発行 機関誌 Aging&Health No.99(PDF)(新しいウィンドウが開きます)

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