健康長寿ネット

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住み慣れた地域で在宅ホスピスケアを(東京都小平市 ケアタウン小平)

公開日:2018年10月19日 18時24分
更新日:2022年11月30日 09時31分

写真:NPO法人コミュニティケアリンク東京の表札の写真

多彩な地域活動の芽を宿した地域の中のホスピスケア拠点

 東京・新宿からJR中央線で約20分の武蔵小金井駅。そこから都立小金井公園へ向かってバスで約10分、玉川上水を背に北へ300メートル入った小金井カントリー倶楽部に接する緑豊かな住宅地の一角に「ケアタウン小平」がある。ケヤキの大木に囲まれた閑静な敷地は2,645m2(約800坪)、ここに地上3階の建物921.54m2(約278坪)、延床面積2,117.82m2(約640坪)が建つ(写真1、図)。

ケヤキの大木と建物の間によく整備された芝生の広場がある写真
写真1:ケヤキに囲まれた広大な敷地にあるケアタウン小平
L字型の建物と樹木で囲まれた中庭がある図
図:ケアタウン小平の1階平面図。中庭は地域の子どもたちに開放される。ボランティア室、子育て支援として「こども文庫」など"地域との呼吸"の仕掛けが工夫されている

 この中には、クリニック、訪問看護ステーション、居宅介護支援事業所、デイサービス、賃貸住宅などがあり、「地域の中のホスピスケアの拠点」として機能している。しかしそれだけではない。心理相談、子育て支援、文化スポーツ倶楽部、地域ボランティア育成──と多彩な地域活動の芽を宿している。

 この活動の軸になっているのは、「NPO法人コミュニティケアリンク東京」である。訪問看護ステーション、居宅介護支援事業所、デイサービスのほか、地域活動の主軸はこの法人が運営している。

 クリニックは、訪問診療専門の「ケアタウン小平クリニック」。在宅ホスピスのパイオニア・山崎章郎(ふみお)さん(写真2)の個人開業のクリニックだ。現在3人の医師で24時間の地域の在宅ホスピスケアを担っている。

ケアタウン小平クリニック院長の山崎章郎氏の写真
写真2:ケアタウン小平クリニック院長の山崎章郎さん

 同じ建物の2、3階にはアパート「いつぷく荘」がある。ここは高齢であったり、障害やがんなどの病気を抱えながらも1人暮らしが可能な賃貸住宅で、ケアタウン小平の大家にあたる「(株)暁記念交流基金」が運営している。1階にあるクリニックや訪問看護、訪問介護、デイサービスを利用し、外部からヘルパーを利用しながら、子どもたちやボランティアが行き来するコミュニティの中で安心して最期のときまで暮らすことができる。

 給食・配食サービスを行う「(株)みゆき亭」は、ケアタウン小平の食のサービスを一手に担う。

 NPO法人コミュニティケアリンク東京の事務局長の中川稔進(としのぶ)さんは「ケアを提供していく中で、やはり専門家だけでは限界があります。ここにボランティアで地域の方に入っていただくことによって、社会的な雰囲気を提供できています。ボランティアさんがケアタウンを支えてくれる。私たちはケアを通じて地域を応援する。ここは相互応援、相互交流の場所でもあります」と話す。

山崎章郎さんのホスピスケア進化とともに形態を変えてきた

 NPO法人コミュニティケアリンク東京の理事長であり、在宅緩和ケア充実診療所ケアタウン小平クリニック院長の山崎章郎さんは在宅ホスピスのパイオニアとして全国に名が知られている(写真2)。

 山崎さんは、国保八日市場(現・匝瑳(そうさ))市民病院消化器医長を務めた。このときの経験をもとに書いた『病院で死ぬということ』(主婦の友社、文春文庫)がベストセラーとなり、映画にもなった。

 その後、91年に東京・小平市にある聖ヨハネ会桜町病院ホスピス科部長、97年に聖ヨハネホスピスケア研究所所長を兼任した。そして2005年にケアタウン小平を立ち上げることとなった。この経緯は、近著『「在宅ホスピス」という仕組み』(新潮選書)に詳しい(写真3)。

『「在宅ホスピス」という仕組み』(山崎章郎著、新潮選書)の表紙の写真
写真3:『「在宅ホスピス」という仕組み』(山崎章郎著、新潮選書)

 「聖ヨハネホスピスで仕事をする中で、『地域の中にホスピスが必要だ』と感じていました。ホスピスケアは制度上、どうしても末期がんの患者さんが中心になります。しかし、ホスピスケアはがんの方だけでなく、人生が終わりかけた人たちが共通に直面する課題で、患者さんと家族に対して普遍性のあるケアであると気づき始めました」

 そこで、山崎さんは聖ヨハネホスピスの勤務10年を機に1年休職し、秋田県の全室個室の介護老人保健施設「ケアタウンたかのす」やデンマークの福祉などを訪れた。

 ケアタウンたかのすでは、日本一の福祉と呼ばれる施設であっても、がんの末期になると病院に移ることを余儀なくされ、施設で最期を迎えられない現実をみた。医療と介護を適切に結びつけて「生活の継続性」を担保することの大切さを再確認した。

 それと同時にひとつ大きなヒントを得た。ケアタウンたかのすの敷地内に高齢者1人暮らし用のアパートがあった。独立した個々のスペースと食堂といった共用スペースがうまく機能していた。この1人暮らし用アパートは、のちにケアタウン小平のアパート「いつぷく荘」として実現されることになる。

 デンマークでは、25%という高い消費税に支えられた手厚い福祉によって、認知症の人や重度の障がい者であっても、自分でヘルパーを雇用し、「自立と尊厳」を保ちながら生活を続けている現状を目の当たりにした。

 そこである月刊誌に「都市型ケアタウン構想」という論文を発表した。この構想の目的は、「がん・非がんを問わず、本人が望めば、『住み慣れた町で、最期まで生きて、逝く』ことができるように、在宅でホスピスケアを提供することであり、それを可能にする地域をつくる」ことである。

 これにいち早く賛同したのが、聖ヨハネホスピスでコーディネーターをしていた長谷方人(はせつねと)さんだった。長谷さんはさっそく、不動産会社(株)暁記念交流基金を立ち上げた。聖ヨハネホスピスから2キロの場所にある、銀行の運動場だった土地の一部を見つけ、ケアタウン小平の敷地を確保した。

 2005年6月、訪問看護ステーションやデイサービスなどを運営するNPO法人コミュニティケアリンク東京を設立。NPO法人であればボランティアの参加を得られやすいと考え、この法人形態を選んだ。聖ヨハネホスピスでのケアでボランティアの存在の大切さを実感していたからだ。そして同年10月、聖ヨハネホスピスの仲間を中心に20名ほどでケアタウン小平を立ち上げた。

 その中でも、訪問看護ステーション所長の蛭田(ひるた)みどりさん、デイサービスセンター管理者の錦織薫さん、中川稔進さんらは、現在もケアタウン小平のキーパーソンである。(株)暁記念交流基金の代表は、長谷方人さんから代がわりして息子の長谷公人(まさと)さんが務める。

"家で最期を迎える"を可能にするには

 ケアタウン小平の多職種チームは、半径4キロ前後の範囲で在宅ホスピスケアを提供している。多職種がチームを組む際に大切になるのは、密度の濃い切れ目のないケアだ。そこで、クリニック、訪問看護ステーション、居宅介護支援事業所を隣接した部屋のつくりにしてある(図)。いつもチームが顔を合わせて相談し合える関係性をつくることによって、ホスピス病棟と変わらないホスピスケアを在宅で提供している。

 「在宅で亡くなることは、本人の『在宅で最期を』という希望を叶えられるし、看取りに関わった家族は『家族として役割を果たせた』という思いもある。亡くなるプロセスに家族が参加できたという経験がとても大きい」

 ケアタウン小平チームは年間約80人の看取りをしている。9割はがんの患者で、残りの1割は非がんの人だ。そのうち約85%の人は在宅で看取りができているが、15%の人は介護の限界があって病院で亡くなるという。

 「その15%の人のほとんどが病状の悪化ではなく、家族の介護疲弊です。今は老老介護も多い。終末期の2〜3週間の家族の疲弊をサポートする仕組みがあれば、また独居であっても、ほとんどの場合は家で看取りができるでしょう。しかし今の介護保険制度ではカバーしきれないので、そのすき間をどう埋めるかが課題です。

 それをどうカバーしていくのか?1つの可能性は『地域ボランティアの育成』です。ただ、個別訪問のボランティアはよほどの倫理性が必要なのですぐにはむずかしいですが、ケアタウン小平にはその芽ができています。

 2つ目は『終末期の費用、介護保険のすき間を埋める費用を自力で用意すること』。がんの終末期は1か月ほどですから、夜間にヘルパーを雇って家族の負担を減らせば、また独居であっても自宅で最期を迎えることができます。

 もう1つの可能性は、『ホームホスピス』。一軒屋の平屋などの家族的な雰囲気の中で、医療や介護は外部から入れて、制度で拾いきれない人たちに対して少人数のケアを提供する取り組みです。条件が整えば、がんであれ、非がんであれ、多くの場合は独居でも、最期まで自宅で過ごせます」と穏やかに語る山崎さんの言葉に力が入る。

ケアタウン小平の力を底上げするボランティア・遺族の存在

 ケアタウン小平のケアの力を底上げしているのが、現在100名に及ぶ地域ボランティアの存在だ。ボランティアは完全無償で、週1回4時間と決まっている。その活動は、ケアタウン内の庭の手入れ、デイサービスでのサポート、アパート「いつぷく荘」の入居者への配膳や傾聴など、さまざまだ(写真4、5、6)。

高齢の女性が乗った車椅子をボランティアの女性が押して施設に向かう写真
写真4:朝のデイサービスの送迎車から利用者が降りるのをボランティアさんが迎える
白いテーブルを囲って3名のボランティアの女性と1名のボランティアの男性が話をしている写真
写真5:ボランティア室で和気あいあいと話を聞かせてくれたボランティアさんたち
大きな吐き出し窓がある開放的な空間に、ダイニングテーブルセットが4セット設置されている食堂の写真
写真6:アパート「いつぷく荘」の食堂。傾聴や配膳など、ボランティアさんたちの活躍の場

 ボランティアの多くは近隣の住民で、そのうち2割はケアタウン小平チームが看取りをした患者の遺族たちだ。ケアタウン小平には在宅遺族会「ケアの木」がある。聖ヨハネホスピスにあった遺族会にならい、在宅でも体験者同士の分かち合いが大切だと考え、遺族会を設立した。

 「遺族の方は大変な時間を共有した戦友のようなもの。以前は遺族がこちらに『ありがとうございます』と言っていたのが、今はこちらが『(ボランティアをしてくれて)ありがとうございます』と言う関係性です」と山崎さん。在宅で看取ることでその関係は終わらず、新たなつながりが生まれている。

 ボランティアの方に話をうかがうと、「僕はマンション住まい。友人は一戸建てで『庭の掃除に2時間もかかったよ』と話すのがうらやましくて。それでここの広大な敷地の掃除をしています。15年前にかみさんが聖ヨハネホスピスでボランティアをしていて、『自分が死ぬときには山崎先生に診てもらいたい』と言っていました。その後、ケアタウンができて、山崎先生に訪問診療に来てもらって、かみさんはこの間亡くなりました」

 遺族がボランティアとしてここにつながっている。

 「報酬がないことでかえって気軽に活動ができています。いい人たちに出会えて充実感があります。お金では得られない"報酬"があります。ここへ来てから、介護や看取りのニュースに目が行くようになり、自分がどんな最期を迎えるかを考えるようになりました」と話すのは、デイサービスの送迎車に同乗するボランティアの女性。

 アパート「いつぷく荘」で配膳と傾聴のボランティアをする女性は、「配膳はもちろんですが、傾聴やコミュニケーションが大切になります。ずっとお1人でお部屋にいらっしゃるので、食堂でおしゃべりするだけでも気分がよくなるようです。『外の空気を入れること』が私たちの役目。うまくいかないこともありますが、自分を成長させることができるのが傾聴です」と目を輝かせる。

誰もが"家"で最期を迎えられるホームホスピスという取り組み

 終末期のがんの人や認知症などで1人暮らしがむずかしくなった人5人ほどが「終の棲家(ついのすみか)」として共同生活する取り組み「ホームホスピス」が、1990年代後半に宮崎市の「かあさんの家」から始まり、全国30数か所に広まっている。少人数にしている理由は、家族の単位は5人くらいがちょうどよいからだ。住み慣れた地域の中のホームで、最期まで暮らせることをめざす取り組みである。ホームホスピスが一般の介護施設と異なるのは、看取りを前提に「尊厳ある生と死」の実現を目的にしている点だ。

 2014年、小平市に「ホームホスピス楪(ゆずりは)」が誕生した。聖ヨハネホスピスで看取りをした患者の遺族が始めた取り組みである。ケアタウン小平チームが医療・看護を支え、すでに14人の方が暖かなホームの中で旅立っていった。

 山崎さんの印象的な言葉があった。

 「超高齢社会を迎える今、いずれ亡くなる人が増える多死時代が来ます。死ぬということは、死ぬまで生きるということ。『死ぬまで生きる』にはどうするのか?がん、認知症、老化・老衰になったとき、どういう医療が待ち受けているのかを知ることが大切です。もし改善がむずかしいのであれば、必ずしも医療を受けなくてもいいかもしれない。『治療だけが人生の選択ではない』ことがみえてきます。治療の限界を確認することはあきらめることではなく、限界が来ても生き方がある。誰かのとの関わりの中で生きているその時間を大事にしてもらいたいと思います」

 在宅ホスピス、ホームホスピスという取り組みが、住み慣れた地域の中で、地域の人との関係性の中で"生き切る"選択肢を与えてくれている。

転載元

公益財団法人長寿科学振興財団発行 機関誌 Aging&Health No.87(PDF:4.0MB)(新しいウィンドウが開きます)

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