健康長寿ネット

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福祉が福祉で終わらないまちづくりを北の大地で開拓(北海道石狩郡当別町 社会福祉法人ゆうゆう)

公開日:2021年1月29日 09時00分
更新日:2024年2月14日 11時22分

写真:社会福祉法人ゆうゆうの本部の外観写真。
社会福祉法人ゆうゆうの本部

学生による障がい児預かりのレスパイトサービスから始まる

 札幌駅から電車で北東に約40分、石狩平野のど真ん中にある石狩当別駅。この当別町を中心に20数か所の福祉事業所を運営するのが社会福祉法人ゆうゆう。

 ゆうゆうの活動のスタートは2003年、当別町にある北海道医療大学の看護福祉学部の大学院生だった大原裕介さんが大学生らと、商店街の空き店舗で障がい児の一時預かりを始めたことに遡(さかのぼ)る(表)。きっかけは障がい児を持つ母親との出会いがあったことだ。

表 社会福祉法人ゆうゆう 年表
表:社会福祉法人ゆうゆうの年表を表す図。

 町から3年間の家賃補助を受け、1時間400円の障がい児預かりのレスパイトサービスを始めた。ただ室内で過ごすのではなく、大学生のボランティアとともに商店街の中を歩いたり遊んで過ごした。それが日常の風景となり、自然な形で住民に受け入れられた。いつしか子育てや介護に悩む住民からも相談が来るようになっていた。

 2005年にNPO法人当別町青少年活動センターゆうゆう24を設立した。その後、理事長となる大原さん25歳のときだ。

 翌2006年には当別町ノーマライゼーションセンターにょきにょきを創設、西に隣接する江別市に拠点となる放課後等デイサービスkaedeの創設という具合に次々と拠点を拡大していった。

 障がい児のレスパイトサービスをしていた当初の子どもは、10年近く経てば就職する年齢となる。2014年には北海道医療大学内にダブルトールカフェをオープン。原宿を中心に浜松町・仙台に展開するダブルトールカフェの北海道第1号店であり、障がいのある方が働く第1号店としてスタートした。大学内のカフェであることから、学生や教職員にとって常に身近にいる存在となることをめざしている。

農園でコメや野菜づくり 東大のレストランに食材を提供

 社会福祉法人の従来の枠にとどまらないこうした活動の広がりには目を見張るものがある(図)。

図:社会福祉法人ゆうゆうの組織図を表す図。
図:社会福祉法人ゆうゆう 組織図

 2015年には厚生労働省の「障害者の芸術活動支援モデル事業」に採択され、2017年東京都品川区の区立品川児童学園や障害児者総合支援施設・訪問系サービスの運営を任せられるようになった。

 さらに2019年には本部から車で20分くらいのところに8ヘクタールの野布瀬(のぶせ)農園を地域の農家の野布瀬さんから受け継ぎ、ソーシャル・ケア・ファームを始めた。ここで利用者や地域の多くの人びとでコメや野菜をつくり始めた。そこでつくられた農作物は、2020年に東京大学工学部11号館2階にオープンさせたレストラン「北海道の米と汁U-gohan東大正門」で食材として使用されている。この内装の設計は、著名な建築家の隈研吾氏が手掛けた。人の縁と社会福祉法人の理念が多くの人を動かしている。

それぞれの地域の必要性から地味な努力の結果、各拠点が誕生

 現在の組織図を見ると6つの事業部に整理される(図)。「地域子育て推進室」には、放課後等デイサービスのkaedeamaririsu、子どもの学習支援事業ゆうゆう塾が属している。

 「地域生活支援部」には、グループホームのKIYOSEマンションと共同生活援助事業所ゆうゆうのいえ、ヘルパーステーションajisaiSocial Apartment大麻(おおあさ)こばとが属する。

 「当別就労支援部」には、生活介護事業所にょきにょき、Social Care Farm野布瀬農園、ダブルトールカフェ、共生型コミュニティー農園ぺこぺこのはたけ(写真1、2)、東京大学のレストランU-gohanがある。

写真1:コミュニティー農園ぺこぺこのはたけで野菜を育てている様子を表す写真。
写真1:石狩当別駅隣の当別太美(ふとみ)駅から歩いて5分にあるコミュニティー農園ぺこぺこのはたけ
写真2:ぺこぺこのはたけのレストランでの人気メニュー小鉢御膳の写真。
写真2:ぺこぺこのはたけのレストランの人気メニュー「小鉢御膳」(1,000円・税別)

 「江別就労支援部」には、生活介護事業所よるのにじ、洋菓子店Pâtisserie Ruelleがある。

 「プロジェクト推進部」には、芸術文化推進、地域福祉ターミナル(写真3)、当別町唯一の地域包括支援センター、障がい者総合相談支援センターnanakamado、居宅介護支援事業所ハナミズキがある。

写真3:当別町共生型地域福祉ターミナルと当別町ボランティ アセンターの建物の外観写真。
写真3:当別町共生型地域福祉ターミナルと当別町ボランティアセンターが入る建物

 そして「品川事業部」には、品川児童学園、品川区立障害児者総合支援施設・訪問系サービスがある。

福祉は地域起こしの産業 福祉を言い訳にしない

 これらの事業に串刺しのように貫いている考え方は、「支える側」と「支えられる側」の立場が入れ替わり得るという柔らかい相互関係と地域起こしに福祉が1つの産業として成り立つという発想だ。

 広報担当の事務局の近藤綾香さんは、「そのときそのときのニーズがあって地域住民の理解を得ながら進めてきた結果、このような広がりとなりました。最初からいきなりすべてがそろっていたわけではありません」という。地域住民と準備段階から話し合いを重ね、地域のお祭りや催しに協力したりの地味な活動の積み重ねの結果を強調する。この結果、福祉の制度を超えた事業展開となっている。

 「レストランやケーキ屋さんは、社会福祉法人が運営しているということを言い訳にせず、本物の味を提供しています」ときっぱり。「1つの事業所で完結せず、それぞれがつながっていく」という有機的な組織づくりだ。

次世代育成に取り組む 福祉教育に軸足を移す

 現在の職員数は正職員83人、学生を含めた準職員は178人に及ぶ。平均年齢は30歳代前半と若い。今年は東京と大阪で福祉就職フェアに出展し、211人の説明会参加者があり、30人ほどの応募の中、採用されたのは4人と、なかなかの狭き門。出身地は北海道とそれ以外が半々くらいだ。

 ゆうゆうの知名度も全国的に高まり、視察見学者は年間324人を数えた。

 最近は福祉教育にも力を入れており、大学に入る前の中学生・高校生を対象に「次世代育成」として出張講義も熱心に取り組んでいる。今年度は北海道の中学校・高校16校で講義を実施している。

 「これからを担う若者から高齢者まで、多くの人が少子高齢化や人口減少を我が事として捉え、全世代活躍型の福祉をめざしていきたい」と近藤さん。

「支え手」「受け手」を超えて地域共生社会の実現へ

 少子高齢化と人口減少による地域社会の脆弱化はここ当別町でも例外ではない。ゆうゆうは設立当初から「支え手」「受け手」の関係を超えた支え合いの仕組みづくり、地域の担い手づくりを行ってきた。そうした「地域共生型社会の実現」は国が進めている「地域包括ケアシステム」による「まちづくり」と共通している。その機能の拠点の1つが地域包括支援センターである。

 当別町唯一の地域包括支援センターは、当別町総合保健福祉センターゆとろの中にあるが、この運営もゆうゆうが行っている。中梶慎太郎センター長(写真4)は「ワンストップ相談窓口というのは、高齢者がベースですが、高齢者でなくても何となく困った人の相談をまずは受け止める。そこで必要な部署にバトンタッチする機能です」という。生活困窮者の支援につながったり、80代の母親に虐待を疑われる60代の息子に精神障害がみつかったりしたケースもあるという。

写真4:地域包括支援センターの中梶慎太郎センター長と生活支援コーディネーターの石川あゆみさんの写真。
写真4:地域包括支援センターの中梶慎太郎センター長(右)と生活支援コーディネーターの石川あゆみさん

 この地域包括支援センターには5人の職員がいて生活支援コーディネーターを置いている。職員の石川あゆみさん(写真4)は「困りごとの上位には認知症の相談があります。認知症の講座やあったかサポーターの紹介などを行います。またその担い手として、アクティブシニアの方に活躍いただく仕組みを整えています」と話す。

 「介護予防ということでは高齢者の『社会参加』が大事です。一歩手前の60代の方にどのように地域で活躍してもらうかです」と中梶さんは言う(写真5)。これからの時代、支え手を増やすことが重要と、アクティブシニアの活躍の場をつくるために、当別町主催でゆうゆうが実施主体となって「共生型ボランティア養成講座」を開き、地域住民に「福祉教育」を行っている。これを受講すると、「地域生活サポーター」「買い物御用聞きサポーター」「当別町ファミリーサポート協力会員」の3つの会員になれるという仕組みだ。これら地域の担い手の活動支援を当別町共生型地域福祉ターミナルに在籍するコーディネーターと、社会福祉協議会のボランティアセンターとで行っている。

写真5:地域の高齢者有志「サポートクラブぺこちゃん」のイベントの様子を表す写真。
写真5:地域の高齢者有志「サポートクラブぺこちゃん」が、地域の子どもたちを楽しませるイベント風景

おしゃれな福祉のイメージに北海道の開拓精神を見る

 ゆうゆうの活動を従来の福祉事業所のイメージで考えると、エッという驚きの連続だ。

 施設名には花の名やひらがなや横文字が多く、パンフレットもデザイン性が高く、おしゃれでモダンな色彩にあふれている。全国から法人理念に共感し若年層からベテランまでつどい、その仕事に誇りをもって現場を護(まも)る。大原理事長は20年足らずで、地域住民の安心を地域住民とともにつくり上げていくための基盤として、当別町、社会福祉協議会、商工会、また地域の大学との実に見事な協力体制を築き上げている。

 北の大地、北海道の開拓精神をここに見る。

(2021年1月発行エイジングアンドヘルスNo.96より転載)

転載元

公益財団法人長寿科学振興財団発行 機関誌 Aging&Health No.96(PDF:5.6MB)(新しいウィンドウが開きます)

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