派遣報告書(柄澤紀花)
派遣者氏名
柄澤 紀花(からさわ すみか)
所属機関・職名
神奈川県立保健福祉大学大学院 ヘルスイノベーション研究科 博士課程学生
専門分野
公衆衛生学、地域保健学
参加した国際学会等名称
23rd IAGG world congress of gerontology and geriatrics
学会主催団体名
The International Association of Gerontology and Geriatrics
開催地
オランダ アムステルダム
開催期間
2026年7月5日から2026年7月8日まで(4日間)
発表役割
口頭発表
発表題目
Trajectory patterns of functional ability by physical activity levels among community-dwelling older adults:An 8-year longitudinal study
地域在住高齢者における身体活動レベル別の生活機能の変化パターン:8年間の多時点縦断研究
発表の概要
高齢期の身体活動は介護予防・フレイル予防において重要であるが、習慣的な身体活動レベルが、加齢に伴う生活機能の低下速度を遅らせるかについては十分に検討されていない。本研究では、8年間の多時点パネルデータを用いて、地域在住高齢者における身体活動初期値レベルと、その後の生活機能の経年変化との関連を検討した。
山梨県都留市に居住する65歳以上の自立高齢者を対象として、2016年、2018年、2019年、2022年および2024年に郵送調査を実施した。解析対象者は、2016年の初期調査に回答した5,255名(全対象者の78.7%)とした。生活機能は基本チェックリストを用いて各時点で評価した。身体活動量は、初期調査時に国際標準化身体活動質問票を用いて算出したMET-min/weekに基づき、0、1から599、600から1,199、1,200以上の4群に分類した。解析では、追跡調査からの脱落および欠損の影響を考慮するため、逆確率重み付け法を用いた一般化推定方程式により、身体活動レベル別の生活機能の経年変化を推定した。
追跡調査の回収率は、2018年72.4%、2019年72.3%、2022年60.0%、2024年40.1%であった。解析の結果、初期時点の生活機能は、身体活動量が多い群ほど高いことが示された。一方、生活機能はいずれの身体活動群においても8年間で低下しており、その低下速度に身体活動レベルによる明確な差は認められなかった。高齢期の身体活動量が多い者は、身体活動量が少ない者と比較して生活機能の水準が高いものの、その後の加齢に伴う生活機能の低下割合は同程度であることが示唆された。
派遣先学会等の開催状況、質疑応答内容等
本学会は、「Ageing Well in a Globalized World」をテーマに、約80か国から3,000名以上が参加し、基調講演、シンポジウム、口頭発表、ポスター発表が複数の会場で行われた。身体活動、フレイル、認知症、高齢者への医療・介護、社会参加、健康格差、デジタル技術など、老年学・老年医学に関する幅広いテーマが取り上げられ、医学、看護学、リハビリテーション、社会科学、政策研究等の多様な分野から研究者や実務者が参加していた。各国の研究成果や制度、実践について活発な情報交換が行われ、国際的かつ学際的な学術集会であった。
本発表は、加齢に伴う健康状態の変化を扱う「Health profiles and patterns with ageing」のセッションで行った。質疑応答では、身体活動レベルが低い群にはどのような特徴があり、なぜ身体活動量が少ないと考えられるのか、年齢や性別以外の要因による詳細な分析を行っているか、身体活動量を初期値のみで検討した理由は何か、身体活動量の変化を踏まえた分析をする予定があるか、といった質問を受けた。詳細な背景要因や身体活動量の経時的変化については、今後の論文化に向けて検討を進める予定であり、質疑応答を通じて今後縦断研究を発展させるうえでの重要な視点を得た。また、高齢者の生活機能の軌跡に対する参加者の関心の高さを実感するとともに、同様の研究経験を有する研究者と、今後の論文化を含む共同研究を進める機会を得ることにつながった。


本発表が今後どのように長寿科学に貢献できるか等
本研究は、地域在住高齢者の生活機能を8年間にわたり多時点で追跡し、初期の身体活動レベルと生活機能水準およびその後の変化との関連を検討したものである。その成果は、介護予防において、生活機能の低下が進行する前から身体活動を促し、高い生活機能を維持する支援の重要性を示唆している。また、生活機能の低下には身体活動量以外の要因も関与する可能性があり、今後は栄養、社会参加、心理的要因等も含めた多面的な検討が必要である。これらの知見は、効果的な介入時期や支援内容を検討するための基盤となり、高齢者の自立支援に貢献できると考える。
参加学会から日本の研究者に伝えたい上位3課題
- 発表者氏名
- Annemarie Koster
- 所属機関、職名、国名
- Maastricht University,Professor,Netherlands
- 発表題目
- Physical activity patterns and changes in health-related functioning:prospective results from The Maastricht Study/身体活動パターンと健康関連機能の変化:マーストリヒト研究による前向き研究
- 発表の概要
- 本研究は、The Maastricht Studyの参加者5,361名を対象に、身体活動パターンと身体的・精神的・社会的機能との関連を検討した。身体活動は加速度計を用いて平日・休日の時間帯別に測定し、「一貫して不活動」「一貫して低活動」「平日に活動的」「早朝型」「一貫して中等度活動」「週末型」「一貫して高活動」の7つのパターンに分類した。健康関連機能を最長11年間追跡した結果、不活動群と比較して、多くの身体活動パターンで初期時点の身体機能および社会的機能が高く、特に2型糖尿病を有する者で差が大きかった。一方、経時的な有意な変化は認められず、健康関連機能には身体活動パターンよりも身体活動の総量が強く関連する可能性があると結論づけていた。
地域住民を対象とした大規模な縦断研究である点は、自身が取り組む地域在住高齢者研究とも共通しており関心を持った。また、加速度計を用いて身体活動を客観的かつ時間帯別に評価している点は、今後身体活動と生活機能の関連を詳細に調査していく上で参考になると感じた。
- 発表者氏名
- Tim Xu
- 所属機関、職名、国名
- Singapore Institute of Technology,Associate Professor,Singapore
- 発表題目
- Clinical Effect of a Multicomponent Frailty Management Program on Fall Reduction in Singapore/シンガポールにおける多要素フレイルマネジメントプログラムの転倒減少効果
- 発表の概要
- 本研究は、シンガポールの地域在住プレフレイル・軽度フレイル高齢者107名を対象に、12週間の多要素フレイルマネジメントプログラムの転倒予防効果を検討したものである。11施設を、医療・保健専門職が実施する群、専門職以外が実施する群、通常ケア群に割り付け、1年間追跡した。プログラムは、健康教育や筋力・バランス運動等を組み合わせた集団型の内容であった。その結果、介入群では転倒率が低下し、通常ケア群と比較して転倒リスクが31%低かった。また、専門職以外が実施した群でも転倒率の低下がみられ、地域で継続的に実施できる可能性が示された。
発表者と意見交換をした際、本プログラムが他国にも展開予定であることも紹介された。複数の要素を組み合わせた介入を地域の施設で実施し、専門職以外による運営可能性も検討している点が、日本の介護予防事業や住民主体の通いの場を持続可能な形で展開するうえで参考になると感じた。
- 発表者氏名
- Eva Vangilbergen
- 所属機関、職名、国名
- Université libre de Bruxelles and Vrije Universiteit Brussel,PhD Researcher,Belgium
- 発表題目
- Mapping experienced ageism across the life span: An intersectional analysis of the Social Study 2024 in Belgium/生涯にわたるエイジズム経験の把握:ベルギーのSocial Study 2024を用いた交差性分析
- 発表の概要
- 本研究は、ベルギーのSocial Study 2024に参加した4,080名を対象に、エイジズムの経験が生涯の各段階でどのように分布し、性別、社会経済的背景、移民背景等の属性の重なりによってどのように異なるかを検討した。エイジズム経験を8項目の質問票で評価し、交差性を考慮した分析を行った結果、エイジズムは高齢者に限らず、若年層を含むすべての年齢層で認められた。また、社会経済的背景が最も強い関連要因であり、複数の属性が重なることでエイジズム経験が著しく増幅されることを示す根拠は限定的であった。
本発表を通じて、年齢や性別等の要因を個別に捉えるのではなく、複数の社会的属性の重なりから検討する交差性分析の視点を新たに学んだ。日本においても、高齢者を一様な集団として捉えず、一人ひとりの多様な社会的背景を踏まえてエイジズムや健康格差を検討することが重要であると感じた。
