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派遣報告書(中村庸輝)

派遣者氏名

中村 庸輝(なかむら ようき)

所属機関・職名

広島大学 大学院医系科学研究科薬効解析科学 准教授

専門分野

中枢神経薬理学、基礎老化学

参加した国際学会等名称

23rd IAGG world congress of gerontology and geriatrics

学会主催団体名

International Association of Gerontology and Geriatrics

開催地

オランダ アムステルダム

開催期間

2026年7月5日から2026年7月8日まで(4日間)

発表役割

ポスター発表

発表題目

Mitochondrial dysfunction primes microglia for exaggerated type I interferon responses via a novel cytosolic mtDNA-IRF3 pathway

ミトコンドリア機能不全は新規細胞質mtDNA-IRF3経路を介してミクログリアの過剰なI型インターフェロン応答を誘導する

発表の概要

 近年、加齢に伴う脳内神経炎症の一因として、ミクログリアにおけるI型インターフェロン(IFN)応答の異常が注目されています。本研究では、ミクログリアのミトコンドリア機能不全がI型IFN応答に及ぼす影響を解析しました。呼吸鎖複合体I阻害剤であるロテノンを用いて、薬理学的にミクログリアのミトコンドリア機能不全を誘導した結果、ミトコンドリアDNA(mtDNA)が細胞質へ漏出することを確認しました。また、老齢マウスの脳内においても、ミクログリアでmtDNAの細胞質への漏出が生じることが報告されています。この細胞質mtDNAは、TLR4刺激によるI型IFN産生を増強しました。さらに、この増強作用は標準的なcGAS-STING経路には依存せず、mtDNAIRF3のリン酸化を直接促進する新規経路である"mtDNA-IRF3経路"を介することを明らかにしました。

派遣先学会等の開催状況、質疑応答内容等

 7月5日から8日まで、オランダ・アムステルダムにて開催された23rd IAGG World Congress of Gerontology and Geriatricsに参加し、ポスター発表を行いました。本学会には80か国以上から3,500名を超える参加者が集まり、基調講演、シンポジウム、ワークショップ、ポスターセッションなど、1,675件の発表を含む多彩なプログラムが実施されました。老化・老年学に関する幅広い研究成果が共有され、活発な国際交流と研究討議が行われました。

 発表時には、細胞質へ漏出したミトコンドリアDNA(mtDNA)が如何にしてIRF3の機能亢進に寄与するのか、その分子メカニズムについて、学会参加者と議論することができました。mtDNAの細胞内局在や自然免疫シグナルとの関連など、今後検証すべき課題を明確にすることができ、今後の研究の発展につながる実りある質疑応答となりました。

オープニングセレモニーの様子の写真
オープニングセレモニーの様子
ポスター発表の様子の写真
ポスター発表の様子

本発表が今後どのように長寿科学に貢献できるか等

 加齢に伴う脳機能の変容を理解することは、超高齢社会に直面する我が国において喫緊の課題です。脳内の免疫担当細胞であるミクログリアは、加齢に伴ってその性質や機能が変化し、神経炎症や認知機能低下、神経変性疾患の発症・進展に関与すると考えられています。本研究では、ミトコンドリアDNAIRF3シグナルに着目し、加齢に伴うミクログリアの機能変容を制御する分子機構の解明を目指しています。これらの機序を明らかにすることで、脳老化の理解が深まるとともに、加齢に伴う脳機能低下や神経疾患の予防・治療標的の提案につながる可能性があります。本発表で得られた意見や議論を今後の研究に活かし、健康寿命の延伸および長寿科学の発展に貢献することが期待されます。

参加学会から日本の研究者に伝えたい上位3課題

発表者氏名
Luigi Ferrucci
所属機関、職名、国名
National institute on Aging,Scientific Director,United States
発表題目
When Oxygen Becomes Limiting:Hypoxia as a Central Mechanism of Biological Aging/酸素が制限因子となるとき:生物学的老化の中心的機序としての低酸素
発表の概要
 低酸素を老化の結果ではなく、生物学的老化を駆動する中心的要因として捉える講演でした。加齢に関連するDNAメチル化部位が低酸素応答因子ARNTRESTの結合領域近傍に集積する知見を背景に、間欠的低酸素への曝露が老齢マウスの肺、脾臓、心臓におけるエピジェネティック年齢を加速させる一方、成体マウスでは明確な変化を示さないことが報告されました。また、この変化は正常酸素環境への復帰後に大部分が回復し、エピジェネティック時計が動的かつ可逆的な生理的ストレスを反映する可能性が示されました。さらに、炎症、低酸素、ミトコンドリア機能低下、細胞老化などが相互に増悪する老化のループも提示されました。老齢個体のみが低酸素に脆弱となる機序については未公表データのため詳細を控えますが、老化介入の新たな標的を示す非常に興味深い内容でした。

発表者氏名
Mario Kassmann
所属機関、職名、国名
University Medicine of Greifswald,Researcher,Germany
発表題目
RyR2 Drives Ca2+Sparks and Ca2+Waves in Vascular Smooth Muscle Cells:Evidence from the RyR2-R4496C Gain-of-Function Mutation MiceRyR2は血管平滑筋細胞におけるCa2+スパークおよびCa2+ウェーブを駆動する:RyR2-R4496C機能亢進型変異マウスを用いた検討
発表の概要
 血管平滑筋細胞におけるCa2+スパークおよびCa2+ウェーブの発生に、2型リアノジン受容体(RyR2)が中心的な役割を果たすことが報告されました。RyR2機能亢進型変異(R4496C)マウスでは、若齢・老齢のいずれにおいても自発的なCa2+シグナルが増加し、カフェインに対する細胞内Ca2+応答および腸間膜動脈の収縮反応も増強しました。これらの結果は、RyR2の機能変化が、加齢に伴う血管機能障害や代謝ストレス、フレイル、レジリエンスの低下に関与する可能性を示しています。遺伝子変異モデル、Ca2+イメージングおよび血管機能解析を組み合わせ、分子レベルの変化を組織機能へ結び付けた点が特に印象的でした。RyR2を標的とした血管老化の病態解明や、新たな薬物治療戦略の構築につながる重要な知見であると感じました。

発表者氏名
Melanie Gentry
所属機関、職名、国名
Mayo Clinic,Geriatrician,United States
発表題目
Electroconvulsive Therapy for Geriatric Depression/高齢期のうつ病に対する電気けいれん療法
発表の概要
 老年期うつ病は難治化しやすく、標準的な抗うつ薬への反応が不十分な症例も多い一方、ECT(電気けいれん療法)は高い奏効率・寛解率を示し、早期回復に結び付く重要な治療法であることが報告されました。近年のECTは安全性も向上し、認知機能への影響も軽減されています。さらに、5年間の追跡調査における良好な予後と安全性、治療後に残る特定の症状による再発予測、精神病性うつ病に対する高い持続効果など、個別化医療につながる知見も示されました。薬学領域で基礎研究に携わる立場として、薬物治療だけでなく、物理的刺激によるECTが高い治療効果を示すことに強く感銘を受けました。その作用機序や神経回路、分子基盤の解明は、今後の重要な研究課題であると感じました。