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派遣報告書(髙橋蓮)

派遣者氏名

髙橋 蓮(たかはし れん)

所属機関・職名

医療法人偕行会偕行会城西病院技術部リハビリ課 理学療法士

専門分野

腎臓リハビリテーション

参加した国際学会等名称

63rd European Renal Association (ERA) Congress

学会主催団体名

European Renal Association

開催地

イギリス グラスゴー

開催期間

2026年6月3日から2026年6月6日まで(4日間)

発表役割

口頭発表

発表題目

Development and validation of a machine learning model to predict 2-year gait speed decline in older hemodialysis patients

高齢血液透析患者における2年間の歩行機能低下を予測する機械学習モデルの開発と検証

発表の概要

 高齢血液透析患者における歩行速度低下は、フレイルや転倒、入院、死亡といった不良転帰と密接に関連しており、早期にリスクを把握し予防的介入につなげることが重要である。しかし、2年後といった中期的な歩行速度低下を簡便に予測できるモデルは確立されていない。このようなモデルを構築できれば、将来の歩行速度低下が予測される患者を早期に抽出し、予防的な運動療法介入につなげることが可能となる。

 本研究では、高齢血液透析患者において2年後の歩行速度低下を予測する機械学習モデルを構築し、その予測性能と臨床的有用性を検証することを目的とした。偕行会グループ19施設において、2018年4月〜2021年4月に登録された60歳以上の維持血液透析患者を対象とした多施設共同コホート研究である。5m快適歩行速度をベースラインと2年後に測定し、2年後の歩行速度が1.0m/秒未満となった患者を「歩行機能低下群」と定義した。ベースラインで既に1.0m/秒未満であった症例は除外した。ベースラインで収集した32項目の候補予測因子(基本情報、血液データ、透析治療データ)からBoruta法により特徴量選択を行い、その後、ロジスティック回帰、ランダムフォレスト、LightGBMVoting Ensembleの4種類の機械学習モデルを構築した。データは学習・検証用70%とテスト用30%に無作為分割し、多重代入法による欠測値補完とクラス重み付けによるクラス不均衡の調整を行った。主要評価指標は受信者動作特性曲線下面積(area under the receiver operating characteristic curve:AUROC)と適合率-再現率曲線下面積(area under the precision-recall curve:AUPRC)とし、副次指標は再現率および陰性的中率(NPV)とした。臨床的有用性は意思決定曲線解析(decision curve analysis:DCA)により評価した。

 最終解析対象は427例であり、233例(54.6%)が2年後に歩行機能低下を認めた。特徴量選択の結果、握力、年齢、透析前クレアチニンが重要な特徴量として抽出された。これら3因子で構築した機械学習モデルのテストデータにおける性能評価では、ロジスティック回帰モデルがAUROC(0.753)、AUPRC(0.806)が最も良好な識別能を示し、NPV(0.722)も他モデルより高値であった。一方、LightGBMは再現率0.955と歩行速度低下例の拾い上げに優れていた。DCAでは、臨床的に妥当と考えられる0.30〜0.40のしきい値を含む広い範囲でロジスティック回帰モデルのNet benefitが最大であった。重要な特徴量は握力、年齢、透析前クレアチニンの順で歩行速度低下の主要な予測因子であることが示された。

派遣先学会等の開催状況、質疑応答内容等

 63rd ERA Congressは、2026年6月3日から6日の計4日間、英国グラスゴーおよびオンラインのハイブリッド形式で開催された。現地・オンラインを含めた全登録者数は10,512名にのぼり、国際的に大規模な学術集会であった。口頭発表セッションは2日目および3日目に集中して開催され、腎臓病領域における最新の研究成果が幅広く発表された。本口演発表では、「予測精度に性別の差が影響するか」という質問があった。その背景として、クレアチニンや握力といった指標は性別によって平均値が異なることが知られており、これらが予測モデルにどのような影響を及ぼすかを問う内容であった。これに対し、今回の解析においてはそもそも性別が予測因子の上位に含まれておらず、予測精度への影響は限定的である可能性をお伝えした。また、性別の差に関する感度解析はすでに実施しているものの、発表時間の都合上、今回はそのデータを提示するには至らなかったことを説明した。質問者との間で、今後さらなる感度解析の実施とその結果の公表の必要性について意見を交わすことができ、有意義な議論の場となった。

会場入り口、シンポジウムの様子を表す写真
会場入り口、シンポジウムの様子
口頭発表の様子を表す写真
口頭発表の様子

本発表が今後どのように長寿科学に貢献できるか等

 血液透析患者の多くは高齢者であり、フレイルやサルコペニアを背景に、身体機能低下やADL障害、入院、死亡などさまざまな不良転帰を経験する。長寿科学の領域では、平均寿命の延伸に比べて健康寿命の延伸が十分に達成されておらず、特にフレイルや歩行速度低下といった老年症候群をいかに早期に捉え、ハイリスク者を同定して介入につなげるかが大きな課題となっている。しかし、地域在住高齢者では健康状態や生活背景が多様であるがゆえに、老年症候群のリスク評価や介入のタイミングが不明瞭になりやすいという問題がある。本研究で対象とした高齢血液透析患者は、加齢に加えて末期腎不全および透析治療の影響を受けるため、地域在住高齢者と比較してフレイルや歩行速度低下が早期かつ顕著に表出する「老年症候群の高リスクモデル集団」である。このような集団を対象とすることで、長寿科学が直面している「フレイルの早期発見」と「リスクに応じた個別介入」という課題に対して、より明確な知見と実践可能な指標を提示できると考える。実際に、本研究で開発した機械学習モデルは、握力、年齢、透析前クレアチニンという透析室で日常的に取得可能な3項目のみで、2年後の歩行速度低下リスクを予測できる点に特徴がある。これにより、外来透析の場で高リスク高齢者を簡便かつ早期に抽出し、腎臓リハビリテーションや栄養介入、転倒予防対策などの多面的介入へとスムーズにつなげることが可能となる。このアプローチは、高齢透析患者という「老年症候群が顕在化しやすいモデル集団」で検証されたリスク評価と介入戦略を、将来的に地域在住高齢者へ展開しうる点において、長寿科学の発展に資するものである。すなわち、高齢透析患者を対象とした本研究は、この集団固有の問題にとどまらず、健康寿命の延伸と医療・介護負担の軽減という長寿科学の中核的課題を解決するための一つの実験場・先行モデルとして位置づけられ、長寿科学の理念と地続きの研究であると考える。

参加学会から日本の研究者に伝えたい上位3課題

発表者氏名
Ersilia Satta, Carmine Romano, Roberta Di Martino, Gioacchino Erbaggio, Rosina De Luca, Domenico Schettino, Federica Marra, M Federico ariacarla Sibilio, Antonio Bianco, Giuseppe Iadicico, Guido Iaccarino
所属機関、職名、国名
NefroCenter, Torre del Greco / II University, Italy
発表題目
Effects of Intradialytic Aerobic versus Resistance Training on Physical Performance, Hemodynamics, and Quality of Life in Hemodialysis: PEHEDAL-ESKD/血液透析患者における透析中有酸素運動対レジスタンストレーニングが身体機能・血行動態・QOLに与える影響:PEHEDAL-ESKD試験
発表の概要
 末期腎不全で血液透析を受ける患者は、タンパク質エネルギー消耗・サルコペニア・身体機能低下・QOL低下を来しやすく、透析中身体活動(IDPA)は安全な治療戦略として認識されているが、運動様式別の比較効果は十分に検討されていなかった。本研究では277名の安定した血液透析患者を対照群(n=84)・有酸素運動群(CYCLE:透析中サイクリング、n=90)・レジスタンス運動群(ELASTIC:弾性バンドによる下肢筋力トレーニング、n=93)の3群に割り付け、6か月間の介入効果を検討した。対照群では運動耐容能が低下(Δ−7.82秒)した一方、CYCLE群は最大の改善(Δ+12.38秒)を示し、QOL(SARQoL Δ+7.72、p=0.010)においても最も顕著な向上を示した。ELASTIC群は下肢筋力(Chair Test Δ+2.30)で対照群・CYCLE群を有意に上回る改善を示し、機能的歩行能力は両介入群で同様に改善した。血行動態(収縮期血圧・平均動脈圧)はCYCLE・ELASTIC両群で有意に改善した。
 本研究は、有酸素運動が運動耐容能・QOL向上に、レジスタンス運動がサルコペニア・筋力改善に優れており、両モダリティの組み合わせが透析患者への恩恵を最大化しうることを示した。

発表者氏名
J.E. Moedano-Atristain, J. Lara-Diaz, F. Garza-Romero, S. Santana-Velasquez, O. Yañez-Suarez, E.R. Bojorges-Valdez, J.S. López-Gil
所属機関、職名、国名
Instituto Nacional de Cardiología Ignacio Chávez / Universidad Autónoma Metropolitana / Universidad Iberoamericana Ciudad de México, México
発表題目
Impact of Intradialytic Exercise on Cognitive Function Evaluated by P300 in Hemodiafiltration Patients/血液透析濾過患者における透析中運動が認知機能(P300)に与える影響
発表の概要
 認知機能障害は血液透析患者の最大60%に認められるとされており、P300事象関連電位(潜時・振幅)はその客観的マーカーとして活用されている。また、有酸素運動はCKD患者において認知機能改善効果を示すことが報告されている。本研究では、平均年齢41±12歳の血液透析濾過(HDF)患者25名を対象に、透析中有酸素サイクリング(26.1±19.7W、HDF開始後90分以内)を実施する運動セッションと非運動コントロールセッションの2条件をランダム化クロスオーバーデザインで比較した。脳波(EEG)によるP300潜時の比較では、運動セッションにおいて透析中(INTRA)のP300潜時短縮傾向が認められ(p=0.036)、認知処理速度への急性的な好影響が示唆された。この改善はHDF中の血行動態安定化に関連する可能性が考えられた。
 EEGは透析セッション中の脳ダイナミクス評価における実行可能な客観的マーカーとなりうるが、長期的効果の検証にはさらなる大規模研究が必要である。

発表者氏名
F. Masjedi, J. Roozbeh
所属機関、職名、国名
Nephro-Urology Research Center, Shiraz University of Medical Sciences, Shiraz, Iran
発表題目
Effects of Intradialytic Exercise Program on Cardiometabolic and Inflammatory Parameters in Hemodialysis Patients: A Randomized Controlled Trial/血液透析患者における透析中運動プログラムが心代謝・炎症パラメータに与える影響:ランダム化比較試験
発表の概要
 心血管疾患と慢性炎症は血液透析患者の主要な罹患原因であるが、透析中運動の心代謝・炎症バイオマーカーへの複合的影響に関するデータは限られていた。本RCTでは、シラーズ大学医学部透析センターにおいて安定した血液透析患者80名(介入群40名・対照群40名)を対象に、ストレッチ・有酸素運動・下肢レジスタンストレーニングを組み合わせた3ヶ月間の監督下透析中運動プログラムの効果を検討した。その結果、介入群では収縮期血圧が平均−1.75mmHg(p<0.01)、拡張期血圧が−1.22mmHg(p<0.05)と有意に低下し、LDLおよび中性脂肪も有意に改善した(いずれもp<0.01)。さらに、炎症マーカーではIL-6が22%(p=0.003)、CRP<が36%(p=0.009)減少した一方、対照群には有意な変化は認められなかった。有害事象は報告されなかった。
 本研究は、構造化された透析中運動プログラムが血圧・脂質・炎症を包括的に改善する非薬理学的戦略として有効であることを示した。