派遣報告書(横関雄司)
派遣者氏名
横関 雄司(よこぜき ゆうじ)
所属機関・職名
北里大学医学部整形外科学 助教
専門分野
整形外科
参加した国際学会等名称
Annual Meeting of the International Society for the Study of the Lumbar Spine
学会主催団体名
International Society for the Study of the Lumbar Spine
開催地
南アフリカ共和国 ケープタウン
開催期間
2026年5月11日から2026年5月15日まで(5日間)
発表役割
ポスター発表
発表題目
Bone Fusion Patterns in Lateral Lumbar Interbody Fusion for Adult Spinal Deformity
成人脊柱変形に対する側方腰椎椎体間固定術における骨癒合形態の検討
発表の概要
成人脊柱変形(ASD)手術において、良好な脊柱アライメントの獲得および長期成績の向上のためには、確実な骨癒合が極めて重要である。側方腰椎椎体間固定術(LLIF)は低侵襲で有効な手術手技として広く普及しているが、その骨癒合の形態学的特徴やケージ材質による影響については十分に解明されていない。
本研究では、ASD患者85例、230椎間レベルを対象に、術前および術後CTを用いて骨癒合形態を評価した。骨癒合はケージ内での連続した骨形成を示すcentral fusionと、ケージ外での架橋形成を示すlateral fusionに分類し、患者背景および画像パラメータとの関連を検討した。また、PEEKケージとチタン(Ti)ケージの違いについて比較解析を行った。
その結果、全体の骨癒合率は80%であり、PEEKケージではlcentral fusionが多く、Tiケージではllateral fusionが優位に認められた。さらに、術前椎間高や矢状面配列などの因子が骨癒合形態と関連していた。
これらの結果から、ケージ材質の生体力学的特性の違いが骨形成様式に影響を与える可能性が示唆され、ASD手術における骨癒合評価およびケージ選択において重要な知見となると考えられた。
派遣先学会等の開催状況、質疑応答内容等
本学会は、世界各国から脊椎疾患に関する基礎研究および臨床研究の専門家が多数参加し、非常に活発な学術交流の場となっていた。基礎研究、バイオメカニクス、臨床研究に至るまで幅広い分野の発表が行われ、それぞれのセッションにおいて活発な議論が展開されていた。
椎間板変性に関する基礎研究や再生医療、AIを用いた解析に加え、低侵襲手術や脊柱変形手術などの手術に関する発表も多数取り上げられており、基礎から臨床への応用までを包含したトランスレーショナルな研究の重要性が強く意識される内容であった。さらに、世界各国の研究者との交流を通じて、臨床研究、臨床の最新動向を把握する上で有意義な場であった。


本発表が今後どのように長寿科学に貢献できるか等
高齢化の進展に伴い、成人脊柱変形に対する外科的治療の重要性はますます高まっている。特に高齢患者においては、骨質低下や合併症の影響により骨癒合不全や再手術のリスクが増大し、術後の生活機能やQOLの低下に直結することが問題となる。
本研究は、LLIFにおける骨癒合の形態がケージ材質によって異なることを明らかにし、従来一律に評価されてきた骨癒合の概念に対して新たな視点を提示するものである。これにより、術後評価の精度向上だけでなく、患者個々の骨条件や脊柱配列に応じた最適なインプラント選択が可能となる。
その結果として、骨癒合率の向上、再手術の回避、さらには高齢患者の身体機能維持や自立度の向上に寄与することが期待される。これらは健康寿命の延伸という長寿科学の根幹的課題に直結するものであり、本研究は脊椎外科領域から長寿社会の実現に貢献する重要な知見を提供するものと考えられる。
参加学会から日本の研究者に伝えたい上位3課題
- 発表者氏名
- Hai Y
- 所属機関、職名、国名
- Department of Orthopedic Surgery, Beijing Chaoyang Hospital, Capital Medical University of China, China
- 発表題目
- Risk factors for recurrent lumbar disc herniation after unilateral bi-portal endoscopy (UBE): A retrospective study/片側二孔式内視鏡手術(UBE)後の再発性腰椎椎間板ヘルニアの危険因子に関する後ろ向き研究
- 発表の概要
- 本研究は、片側二孔式内視鏡手術(UBE)後の再発性腰椎椎間板ヘルニア(rLDH)の危険因子および再手術率を検討した後ろ向き研究である。2019年から2023年にかけて単椎間UBEを施行された205例を対象とし、再発による再手術の有無および関連因子について解析が行われた。
その結果、21例(10.2%)に再手術を要する再発が認められた。多変量解析の結果、肥満および空腹時血糖値(FBG)の上昇が独立した危険因子として同定され、ROC解析により再発予測のカットオフ値はBMI25.775kg/m²、FBG5.155mmol/Lと示された。 - 発表の感想
- 本研究は、UBE後の再発に関与する因子の評価を行なっており従来の局所的要因に加え全身状態の管理の重要性を示した点で臨床的意義が高いと考えられる。UBEは近年急速に普及している手術手技であり、本研究で示された知見は再発リスクを考慮した術前評価および術後管理において留意すべき重要な点であると考えられた。
- 発表者氏名
- Hallmark AP
- 所属機関、職名、国名
- Hospital for Special Surgery, New York City, NY, USA
- 発表題目
- Age-related structural, biochemical, and mechanical changes in the mouse intervertebral discs/マウス椎間板における加齢に伴う構造的・生化学的・力学的変化
- 発表の概要
- 本研究は、マウスモデルを用いて椎間板の加齢に伴う変化を構造的、生化学的および力学的側面から包括的に評価した基礎研究である。椎間板変性は加齢と密接に関連することが知られているが、その多面的変化を統合的に検討した報告は限られている。 本研究では、加齢に伴い椎間板の組織構造の変化、細胞外基質の組成変化、ならびに力学的特性の変化が生じることが示され、椎間板変性が単一の要因ではなく複合的な変化の積み重ねとして進行することが明らかとなった。
- 発表の感想
- 本研究は、マウスモデルを用いて椎間板の加齢変化を構造・生化学・力学という複数のスケールで統合的に評価している点が特に優れている。椎間板変性は単一の要因では説明できない複雑な病態であるが、本研究はその進行過程を多面的に捉え、変性が連続的かつ多因子的に進行することを示した点で重要な知見を提供している。特に、構造変化、細胞外基質の変化、力学特性の変化を一体として評価している点は、椎間板変性の理解をより包括的なものとし、従来の断片的な評価を超えたアプローチといえる。このような多階層的かつ統合的な解析手法は、椎間板変性の病態解明を深化させるとともに、今後の治療戦略や再生医療研究の発展に資する基盤的知見として重要であると考えられた。
- 発表者氏名
- Marras W
- 所属機関、職名、国名
- Spine Research Institute, The Ohio State University, Columbus, OH, USA
- 発表題目
- Deep phenotyping of chronic low back pain using multimodal biopsychosocial assessments/多面的生物・心理・社会的評価を用いた慢性腰痛のディープフェノタイピング
- 発表の概要
- 本研究は、生物学的・心理的・社会的要因を統合した多面的評価により、慢性腰痛患者のディープフェノタイピング(詳細な病態分類)を行うことを目的とした研究である。慢性腰痛は多様な要因が複雑に関与する疾患であり、従来の単一指標に基づく評価ではその病態を十分に捉えることが困難とされている。
本研究では、臨床情報、身体機能、心理的評価などの多次元データを統合的に解析することで、患者集団を特徴の異なる複数のサブグループに分類可能であることが示された。これにより、慢性腰痛が一様な病態ではなく、異なる病態背景を有する集団の集合体であることが明確に示唆された。 - 発表の感想
- このような多次元データに基づくディープフェノタイピングは、従来の画一的な診断・治療戦略を見直し、より精緻な病態理解を可能とする点で意義が大きい。特に、AIやデータ駆動型解析と親和性の高いアプローチであり、今後の個別化医療の実現に向けた基盤となる重要な研究であると考えられた。
