新時代を迎えた「認知症の治療・予防・早期発見」─Social Resource Repositioningに向けて─
公開月:2024年5月
鳥羽 研二(とば けんじ)
東京都健康長寿医療センター理事長
2023年6月14日に共生のための認知症基本法が成立し(2024年1月1日施行)、9月からは総理主催の認知症と向き合う「幸齢社会」実現会議が開催され、私も構成員として参画している。
認知症施策推進大綱でも基本法でも、共生と予防/治療は一体、車の両輪であり、予防や治療は住み慣れた地域で心地よく過ごすために必須である。
予防は発症を遅らせるだけでなく、進展予防(二次予防)、認知症短期集中リハに代表される、穏やかに過ごすための方策(三次予防)の1つである。
本特集「認知症の治療・予防・早期発見」では、疾患修飾薬レカネマブの薬事承認/保険適用(2023年9月25日/同年12月20日)というエポックメーキングな機会に、治験にも関わった東京都健康長寿医療センター脳神経内科医長の井原涼子先生に、この薬剤の有効性、限界、副作用を正しく啓発する記事をいただいた。早期発見に資する画像、髄液、血液など複合的「バイオマーカー」の開発状況、社会実装への展望を、AMED研究班の班長を務める東京都健康長寿医療センター副院長の岩田淳先生に、脳神経内科の栗原正典先生との共著で最新情報をいただいた。また、疾患修飾薬の対象外の大多数の認知症の方に有効な、予防方法の最新の複合的介入である「J-MINT」の成果概要を研究の実務責任者である国立長寿医療研究センター研究所長の櫻井孝先生に記述していただいた。注目する記事となると考える。
非薬物療法の社会実装には、簡単にリスクを測定し、運動、栄養、睡眠、会話など防御因子が日常で簡単に測定できる方法が求められている。ウェアラブルウォッチのこれらの開発状況と応用について東京都健康長寿医療センター研究所デジタル高齢社会研究部長の大渕修一先生に記述していただいた。
認知症と軽度認知障害を合わせて1,000万人の時代を迎え、介護者の不足、離職が深刻化する中、認知症施策推進大綱や基本法に記述された、医療、福祉だけでなく一次、二次、三次の防御因子に関わる多様な省庁、組織、技術の参入が必須である。
既存の薬剤効果の他の効用への検討をDrug Repositioningというが、社会生活に資するすべての生活社会資源の利活用、すなわち、「Social Resource Repositioning」が求められている。本特集がこれに向けた嚆矢となれば幸いである。
筆者
- 鳥羽 研二(とば けんじ)
- 東京都健康長寿医療センター理事長
- 略歴
- 1978年:東京大学医学部医学科卒業、1984年:東京大学医学部助手、1989年:テネシー大学生理学研究員、1996年:フリンダース大学老年:医学研究員、東京大学医学部助教授、2000年:杏林大学医学部高齢医学主任教授、2006年:杏林大学病院もの忘れセンター長(兼任)、2010年:独立行政法人国立長寿医療研究センター病院長・もの忘れセンター長(併任)、2012年:同センターバイオバンク長(併任)、2014年:同センター理事長・総長、2015年:国立研究開発法人国立長寿医療研究センター理事長、2019年:より現職、内閣官房認知症関連閣僚会議有識者会議座長、(2018年~)、国際アルツハイマー協会医療科学諮問委員会委員(2022年~)
- 専門分野
- 老年医学
- 過去の掲載記事
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