コグニサイズ-認知症予防へ向けた運動-
公開日:2016年7月26日 04時30分
更新日:2023年8月 2日 14時44分
コグニサイズとは
コグニサイズとは、国立長寿医療研究センターが開発した運動と認知課題(計算、しりとりなど)を組み合わせた、認知症予防を目的とした取り組みの総称を表した造語です1)。
コグニサイズは、どんな運動や認知課題でもよいとされていますが、以下の2点が考慮された課題であることが前提となります。
- 運動は全身を使った中強度程度の負荷(軽く息がはずむ程度)がかかるものであり、脈拍数が上昇する(身体負荷のかかる運動)1)
- 運動と同時に実施する認知課題によって、運動の方法や認知課題自体をたまに間違えてしまう程度の負荷がかかっている(難易度の高い認知課題)1)
脳トレとコグニサイズは違う?
右手をグー、チョキ、パーと動かしながらジャンケンで右手に勝つものを左手で出すなど、考えながら手を動かすような体操や、椅子に座って集団で取り組む計算やクイズなどの課題は、いわゆる脳トレと呼ばれ、これまでもデイケアなどの現場で実施されることやメディアで紹介されることもありました。
コグニサイズが脳トレと異なる点は、座ってじっくり頭を使う課題に取り組むことや体の一部を動かしながら考える課題を行うのではなく、全身を動かす運動と頭で考える課題とが組み合わさっていることです。また、課題はあまり考えなくても簡単に達成できてしまうものではなく、注意を払わなければ達成できないような課題でなければなりません。
なぜコグニサイズがよいのか
運動は高血圧症、糖尿病、脂質異常症などの生活習慣病、虚血性心疾患や脳梗塞などを予防し、認知症になるリスクを低下させると言われています2)3)。
運動自体が脳の神経成長因子を増やすこと、脳の神経細胞の炎症が抑えられてアルツハイマー病で認められるアミロイドの蓄積のペースを落とす4)ことも推測されています。運動は健康な身体のみならず、脳にも良い効果をもたらすのです。また、人は困難があるからこそ努力して成長するように、適度なストレスは脳の成長を促す4)とも言われています。
適度な負荷の運動と、思わず間違えてしまうような適度なストレスがかかる認知課題とを組み合わせたコグニサイズで楽しく脳を鍛えましょう。
コグニサイズの方法
国立長寿医療研究センターが発行しているコグニサイズのパンフレット(参照リンク1)の中でコグニサイズの例として「コグニステップ」と「コグニラダー」、3人から5人で行う「コグニサイズ」、「コグニウォーク」が紹介されています。
参照リンク1 コグニサイズ 国立長寿医療研究センター(外部サイト)(新しいウインドウが開きます)
また、YouTubeの読売新聞YomiuriOnlineチャンネルでは足踏みやステップ運動をしながら拍手や計算、ジャンケン、しりとりなどの課題を行うコグニサイズの解説動画を39種類配信しています(参照リンク2)。
参照リンク2 コグニサイズ 読売新聞Yomiuri Online Youtube(外部サイト)(新しいウインドウが開きます)
コグニステップ
両足で立った状態から、1で右足を右横に出す、2で右足を元に戻す、3で左足を左横に出す、4で左足を元に戻すステップを1セットとして繰り返しながら、3の倍数のステップの時に拍手をします。
3の倍数で間違えずにできたら、前後のステップも加えてみたり、3以外の倍数で行ってみたりなど、応用して行います。
コグニラダー
ラダーというのは、はしごのように等間隔のマス目が開いているひも状のものです。ラダーがなければ、ビニールテープなどを床に貼って横4㎝×縦65㎝のマス目をつくることでも応用できるでしょう。
一つのマス目の中で、1で右足を出す、2で右足の横に左足を出す、3で一歩右足を前に出す、4で右足の隣に左足を出すことを行います。次に5で次のマス目に右足を入れ、6で右足の隣に左足を出す、7で一歩右足を前に出す、8で右足の隣に左足を出すことを繰り返します。
マス目の中に4歩目までがおさまるように考えながらステップを行う課題です。応用として2と5をマス目の外に出す、3と6を外に出すなども行ってみましょう。
グループでコグニサイズ
5人のグループで一人ずつ順番に1.2.3.4と声に出して数えながら、ステップ運動や段差昇降、歩行などの運動を行います。4の倍数のときには声を出さずに拍手をします。
また、3人のグループでしりとりをしながら運動を行います。自分の番の言葉だけでなく、前の人と前の前の人が言った言葉も合わせて言います。
コグニウォーク
上半身を起こして大股で歩きながらしりとりや計算などを行いながら歩きます。
コグニサイズはどこでできるか
コグニサイズは国立長寿医療研究センターが発行しているコグニサイズのパンフレット(参照リンク1)で紹介されているほかにも、国立長寿医療研究センター予防老年学研究部島田裕之先生著書の本をみながら取り組むことができます。
各自治体では地域の方が参加できるコグニサイズの教室の開催やコグニサイズの普及と認知症予防活動支援のために、コグニサイズリーダーの養成講座なども開かれています。
エルゴメーター(自転車をこぐマシーン)を行いながら、モニターで認知課題に取り組むことのできるコグニバイク※を保健センターに設置し、使い方の講習会を受講した方が使用できるという自治体もあります。
地域で行われているコグニサイズ教室に参加すれば外出の機会も得られ、他の方とコミュニケーションを図る機会も増えます。グループで運動に取り組むと社会的な相互作用によって著しい脳の成長がみられるとも言われています4)。
コグニサイズのパンフレット(参照リンク1)や書籍、YouTubeなどを活用して気軽に家でコグニサイズに取り組むこともよいですが、お住いの地域の自治体のホームページをチェックしてコグニサイズ教室へ参加してみることもおすすめです。
- ※ コグニバイク:
- コグニバイクとは国立長寿医療研究センターとの共同開発で生まれた軽度認知障害(MCI)ケアを目的としたエルゴメーターです。コグニサイズの考え方をベースにしたデュアルタスク方式で、認知課題とペダルを漕ぐ運動を組み合わせることにより、脳の活動を活発化することを目指しています(参照リンク3)。
参照リンク3 コグニバイク パラマウントベッド株式会社(外部サイト)(新しいウインドウが開きます)
関連書籍
公益財団法人長寿科学振興財団は超高齢社会における喫緊の課題として認知症の実態、診断・予防・ケアについて学術的研究成果を「認知症の予防とケア」と題して研究業績集にまとめました。研究業績集の内容を財団ホームページにて公開しております。是非ご覧ください。
公益財団法人長寿科学振興財団 「認知症の予防とケア」平成30年度 業績集
参考文献
- 脳を鍛えるには運動しかない!最新科学でわかった脳細胞の増やし方 ジョンJ.レイティwithエリック・ヘイガーマン NHK出版