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認知症高齢者の向精神薬について

認知症の方が飲むお薬の注意点について説明します。

向精神薬とは?

 世界中には膨大な種類のお薬があり、治療効果(適応症)別に細かく分類されています。向精神薬というのは、お薬の分類名の一つで、人間の精神活動に影響を与えるお薬の総称です。眠りを促す睡眠薬から、うつ病に使われる抗うつ薬、幻覚や妄想を抑える抗精神病薬まで、様々なお薬が含まれます。

認知症の方に向精神薬を使う理由は?

 向精神薬には、認知機能障害の進行を遅らせるお薬も含まれます。"認知機能障害"という言葉は専門的で難しいため、ここでは"もの忘れ"と考えましょう。もの忘れが進むのをゆっくりにしてくれるお薬のことを、認知症治療薬と言います。その名の通り、認知症の方に使われるお薬です。お薬を飲んでいる認知症の方は、飲んでいない方に比べて、もの忘れの進行が遅くなることが、質の高い医学研究で証明されています1)

 ところで認知症には、もの忘れ以外の症状が出てくることもあります。気分が落ち込み抑うつ的になったり、幻覚症状が現れて夜中に人影が見えたり、徘徊する方もいます。中には怒りっぽくなり暴力的になる方もいます。そういった症状を抑えるために、抗うつ薬や抗精神病薬が使われることがあります。こういったお薬を使った治療により、一定の効果が期待できることが医学的に証明されています2)

認知症の方に向精神薬を使う時の注意点は?

 病院を受診して何か病気が見つかると、「先ずはお薬」と考える方も多いのではないでしょうか?実はこの考え方はあまり正しくありません。もちろん、病気の種類や状態によっては、一刻も早くお薬を使うことが大切なこともあります。しかしながら、少なくとも認知症高齢者に向精神薬を使うことに関しては、「先ずはお薬」という考え方は止めましょう。「先ずはお薬を使わない治療」をやってみて、「それでも効果が乏しければお薬」という考え方をお奨めします。以下、その理由を説明していきます。

 一つ目の理由として、いかなるお薬にも副作用があることです。認知症の方の多くは高齢者です。高齢になると薬の副作用が出やすくなります。お薬を飲み始めるかどうかを決める際には、どんな副作用が出る可能性があるかを知っておくべきです。それを知った上でお薬を飲むと決めてからも、最初は少ない量から始めるべきです。その方が副作用が出にくくなります。

 二つ目の理由として、高齢者は様々な病気を抱えていることが多いことが挙げられます。認知症以外の病気のため、既にいくつもお薬を飲んでいることがあります。一つ一つのお薬は安全で副作用の少ないものであっても、多くの薬を飲むと思わぬ副作用が出ることがあります。最近の研究では、高齢者に多くのお薬を処方することを止めるよう奨めています3,4)

 三つ目の理由は、お薬を使わなくても対応の方法やちょっとした工夫で、症状が軽くなることがあるからです。先に挙げた気持ちの落ち込みや怒りっぽさなどは、お薬無しでも落ち着くことがあります。そういった対応や工夫をしても良くならない場合に、お薬の出番が回ってきます。

 最後にもう一つ、認知症はお薬だけでは良くならないことが挙げられます。現在の認知症治療薬には「もの忘れの進行を抑える効果」はありますが、残念ながら認知症そのものを治す効果はありません。軽めの運動をしたり、人と楽しく喋ったり、身体の健康管理をすることも大切な治療法です5)

まとめ

 認知症高齢者にお薬を飲んでいただく場合、「先ずはお薬」ではなく、「先ずはお薬を使わない治療」をやってみて、「それでも効果が乏しければお薬」と考えましょう。上手にお薬と付き合っていくことで、より効果的な治療が期待できます。

【参考文献】

  1. Tricco AC, Vandervaart S, Soobiah C, et al. Efficacy of cognitive enhancers for Alzheimer's disease: protocol for a systematic review and network meta-analysis. Syst Rev 2012;1:31.
  2. Maher AR, Maglione M, Bagley S, et al. Efficacy and comparative effectiveness of atypical antipsychotic medications for off-label uses in adults: a systematic review and meta-analysis. JAMA 2011;306:1359-69.
  3. Pretorius RW, Gataric G, Swedlund SK, Miller JR. Reducing the risk of adverse drug events in older adults. Am Fam Physician 2013;87:331-6.
  4. Patterson SM, Cadogan CA, Kerse N, et al. Interventions to improve the appropriate use of polypharmacy for older people. Cochrane Database Syst Rev 2014;10:CD008165.
  5. Lautenschlager NT, Cox KL, Flicker L, et al. Effect of physical activity on cognitive function in older adults at risk for Alzheimer disease: a randomized trial. JAMA 2008;300:1027-37.

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