健康長寿ネット

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認知症高齢者の社会問題

公開日:2016年7月25日 14時00分
更新日:2019年11月 8日 16時04分

 認知症が原因で、生活上での混乱や周囲とのトラブル等からいくつかの社会問題が発生しています。

徘徊等により自宅に戻れない、行方不明者の増加

 認知症が原因で、外出して自宅に戻れなくなり警察等に保護されることがあります。多くの場合は身元がわかり自宅に戻られますが、けがを負ったり、亡くなられてしまう場合もあります。

 また、名前や住所が言えず、行方不明者のまま医療機関や施設で長期間過ごすことにもなりかねません。平成26年度の厚生労働省の全国調査でも身元不明者346人のうち35人が認知症の方となっています。

問題解決に向けた取り組み

 認知症の人を地域で支えるためは、
(1)地域住民を中心とした徘徊・見守りSOSネットワークを構築したり、
(2)市町村が実施している、GPSを利用した徘徊探知機の貸出サービスや携帯電話会社が行っている同じようなシステムを活用するのも一考です。

ゴミ屋敷、孤立死(孤独死)の増加

 自宅やアパートの庭やベランダ、室内にゴミが山のように積み上げられたり、散乱し、悪臭や異臭、害虫が発生する原因にもなる「ゴミ屋敷」が社会問題となってきています。周りが気にして医療や介護サービスを進めても拒んだり、家にゴミを放置したりしたままの状態は、「セルフネグレクト(自己放任)」とも呼ばれ、平成22年度の内閣府の調査では、全国で約1万人を超えると推計されています。

 また、地域や家族からも孤立しているために、自宅やアパート内で誰にも看取られることなく息を引き取り、その後、相当な期間放置されるような「孤立死(孤独死)」の事例が報道される場合もあります。平成22年東京23区内における一人暮らしで65歳以上の人の自宅での死亡者数だけでも、2,913人となっています。

問題解決に向けた取り組み

 セルフネグレクトに陥るきっかけはさまざまです。認知症や配偶者等の死亡などから喪失感が増幅し無気力に陥っている人もいます。閉ざした環境となる前に周りの人々からの声かけや挨拶ができる街づくりや気軽に相談にのれる地域包括支援センター等(リンク1参照)の活用が大切です。

 また、孤立死予防に向け、市町村が一人暮らし高齢者などに、ペンダント形の緊急通報装置を設置する福祉サービスの活用も有効です。

リンク1 「地域包括支援センター」

高齢者虐待、介護殺人

 認知症高齢者の場合には、介護者の予測や考えを超えた行為、行動が多く、対応に振り回され、介護者の身体及び精神的なストレス(介護負担)が高くなることが考えられます。平成24年度の厚生労働省の調査でも、在宅で要介護認定を受けている被虐待高齢者の約7割の方が認知症自立度2以上の方となっています。

 また、介護者が献身的な介護を続けていても、その疲れや先の見えない介護を誰にも相談できず、将来を悲観し、高齢者への殺害や無理心中に至るといった悲惨な事案も毎年20件以上発生しています。

問題の解決に向けた取り組み

 介護負担の軽減に向け、認知症への正しい理解や介護を一人で抱え込まないよう介護サービス等を積極的に利用していくことが大切です。そのためには、周りの人々の声掛けや見守り、介護サービス等の利用を促していくための情報提供も重要です。まずは、身近な相談窓口となっている地域包括支援センター(リンク1参照)につなげていきましょう。

消費者被害

 認知症の高齢者の場合、悪質な訪問販売等による対応や判断能力が低下し、消費者被害に合いやすくなっています。国民生活センターによると、60歳以上の認知症の人の消費者トラブルに関する相談は、平成25年度には、1万1,499件が寄せられ、年々増加しています。相談内容は、健康食品の送りつけ商法やふとんや住宅リフォーム工事等多岐にわたります。

問題の解決に向けた取り組み

 トラブルを防ぐためには、家族や周囲の人々による日頃の生活の変化や違い、おかしな人の出入りに気づく力と見守りへの意識の向上が大切となってきます。

 高齢者自身へは研修やパンフレット等を通して消費者被害やオレオレ詐欺への定期的な注意喚起を進めるとともに、金銭管理等が十分にできなくなってきた場合には、日常生活自立支援事業や成年後見制度(リンク2参照)の利用も検討していきましょう。

リンク2 「成年後見制度」

車の運転による事故

 高齢者による交通事故は年々増加傾向にあります。認知症高齢者では、よく道に迷ってしまう、駐車場に入れた車が分からなくなる、一方通行や高速道路を逆走してしまう、ハンドルやギアチェンジ、ブレーキペダルの操作が遅くなったり間違えて大きな事故につながってしまうことがあります。

問題の解決に向けた取り組み

 認知症の初期段階から、医療機関や警察等から本人や家族に運転のリスクとともに制限や中止、免許証の返納等ができるよう理解を求めていくことが大切です。その際には、運転中止後のいくつかの代替交通手段についても説明していきましょう。

 また、医療機関への受診や買い物が車を利用しなくてもすむような地域づくりを行政等とともに進めていくことも必要となってきています。

関連書籍

 公益財団法人長寿科学振興財団は超高齢社会における喫緊の課題として認知症の実態、診断・予防・ケアについて学術的研究成果を「認知症の予防とケア」と題して研究業績集にまとめました。研究業績集の内容を財団ホームページにて公開しております。是非ご覧ください。

公益財団法人長寿科学振興財団 「認知症の予防とケア」平成30年度 業績集

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