健康長寿ネット

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認知症を特別にしない社会へ(東京都町田市 HATARAKU認知症ネットワーク町田(一般社団法人Dフレンズ町田))

公開日:2026年7月13日 09時01分
更新日:2026年7月13日 09時01分

竹林では誰が認知症か一切問われない

 東京都町田市北部丘陵にある約6,600平方メートルの放置竹林で、2016年頃から、認知症のある人たちとボランティア住民が一緒に整備活動を行っている。活動の出発点は、認知症のある人たちの「仲間がほしい」「誰かの役に立ちたい」という声だった。

 毎週木曜の活動日には、認知症のある人たちが20人前後集まり、そこに数人のボランティア住民も加わる。「ノコギリの扱いに長けた人や、ウグイスを呼ぶのが上手な人もいます。道具を使う単純作業は、誰でも取り組めるのがいいです。1本の竹を切るにも声を掛け合い、みんなで力を合わせて行うことが楽しいようです」と話すのは、HATARAKU認知症ネットワーク町田代表の松本礼子(あやこ)さん。

 活動の大きな特徴は、指示や強制を一切しないことだ。「竹を切る」「タケノコを掘る」など、おおまかな作業内容は共有するが、何をするかは本人に委ねられている。「認知症だから危ない」「できない」と決めつけることはしない。危険回避も含め、本人の経験や身体知を尊重している。

 農業指導を担当するHATARAKU認知症ネットワーク町田事務局の高橋祐司さんは、「すべて本人の意思に任せています。禁止することで夢や希望を断ち切り、できることがだんだん減っていくように思います。こちらが教えてもらうことも多く、一緒に作業をしていると、"認知症"であることを意識しなくなります」と話す。同事務局の青木瑠璃さんも、「竹林にいる間は、誰が認知症であるかといったことは一切問われません」と語る。視察に訪れた林野庁の職員が、「認知症の方はどこにいるのですか?」と尋ねたというエピソードもある。

 整備を始めた当初は、倒れた竹が折り重なり足を踏み入れる隙間もないほど荒れていたが、10年以上にわたる取り組みによって、現在では風通しのよい竹林へと生まれ変わっている。

きれいに生まれ変わった放置竹林の写真。
きれいに生まれ変わった放置竹林(HATARAKU認知症ネットワーク町田提供)

山林バンクを活用し竹林再生活動を始動

 HATARAKU認知症ネットワーク町田の竹林再生活動は、一般社団法人Dフレンズ町田(DFM(外部サイト)(新しいウインドウが開きます))の「D活」の実践として位置づけられている。Dフレンズ町田は、認知症フレンドリーなまちづくりを目的にする団体で、松本さんは代表理事、青木さんは理事を務める。「D活」の"D"は「Dementia」の頭文字で、認知症のある人たちの仲間づくりと働く機会の創出を目的とした活動である。

 竹林再生活動のきっかけは、認知症のある人たちと農園活動を始めようと、松本さんが農業指導を「おおるりファーム」に依頼したことにある。この「おおるりファーム」を経営しているのが、高橋さんと青木さん夫妻だ。その後、「畑だけでなく、山林バンクを活用して竹林での活動を行ってはどうか」という青木さんの提案があり、市の農業振興課に相談し、2016年頃から竹林再生活動が始まった。その後、町田市と「竹林を活用した認知症当事者の自立支援に関する協働事業」の協定を締結し、2018年には活動グループを「HATARAKU認知症ネットワーク町田」と命名した。

※「山林バンク」は、所有者不明の森林や管理が困難な森林を市町村が引き受け、適切な管理と利活用を進める仕組み。林野庁が推進する事業である。

まつもとあやこさん、たかはしゆうじさん、あおきるりさんの写真。
左から、松本礼子さん、高橋祐司さん、青木瑠璃さん

 放置竹林を無償で整備する代わりに、タケノコや竹製品を販売し、その収益を認知症のある人たちに分配する。社会貢献と「働く」を組み合わせたこの取り組みは、2018年度NHK厚生文化事業団「認知症とともに生きるまち大賞(外部サイト)(新しいウインドウが開きます)」を受賞し、全国から注目を集めている。

デイサービスは気が進まないけれど、竹林なら行きたい

 「竹林では全身を使う作業が多いため、施設で行うリハビリよりも効果が出やすい」と松本さんは指摘する。「驚いたのは、歩くのがおぼつかなかった方が、週1回2時間ほど竹林に通うだけで歩けるようになり、山にも登れるようになったことです」と青木さんも続ける。

 「デイサービスは気が進まないけれど、竹林には行きたい」という人も多いという。「竹林の日は機嫌が良く、よく眠れる」といった声もあり、家族の介護負担の軽減にもつながっている。

 竹林で採れたタケノコや竹灯籠などの竹製品を販売し、年に数回、その売上金を認知症のある人たちに支払っている。「山林バンクの考え方では、里山再生による社会貢献が目的です。本人たちからすると『楽しく活動しているのに、なぜお金がもらえるの?』という感覚のようですが、それでもやはりうれしそうです」と松本さんは語る。

 竹林では、昼食として青木さん手製のうどんが振る舞われ、「とてもおいしい」と評判だ。おかわりは自由で、体を動かす分、食べる量も自然と増えるという。「今日はうどんだけを食べに来たという人もいるくらいです」と高橋さんは笑う。

竹を割ってつないで流しそうめんを楽しんでいる様子を表す写真。
竹を割ってつないで流しそうめんを楽しむ。器も竹を利用(HATARAKU認知症ネットワーク町田提供)

 さらに活動は、「かぐや姫工房」という介護家族(妻たち)の取り組みにも広がっている。夫を竹林へ送迎したあと、街に戻り、竹炭を使った脱臭剤などを制作し、販売する。ミシンを踏みながら会話に花を咲かせる時間は、夫のことを気にせず過ごせる貴重なひとときだ。売上金を積み立て、竹林活動の時間を利用して妻たちだけで箱根へ小旅行に出かけたこともある。認知症のある本人だけでなく、その家族も含めて「みんながハッピーになる」仕組みとなっている。

春に竹林で採れたタケノコを販売する様子を表す写真。
春には竹林で採れたタケノコを販売(HATARAKU認知症ネットワーク町田提供)
週末に竹林で開催される子どもの里山教室の様子を表す写真。
週末、竹林は子どもの里山教室になる(HATARAKU認知症ネットワーク町田提供)

網の目から一人もこぼれ落ちない社会

 松本さんは、NPO法人ひまわりの理事長、一般社団法人Dフレンズ町田代表理事、HATARAKU認知症ネットワーク町田代表と、多くの肩書を持つ。ひまわりの会で介護の仕事に携わる一方、認知症のある人たちの発信を支え、理解を広げる活動を続けてきた。その根底にあるのは、認知症のある人や家族が地域で生き生きと暮らせる社会への願いだ。

 Dフレンズ町田では、認知症当事者同士のネットワークづくりや、働く機会の創出(HATARAKU認知症ネットワーク町田など)、地域の居場所づくり、認知症啓発事業に取り組んでいる。さらに、町田市からの委託事業としてDカフェ(認知症カフェ/スターバックスコーヒー6店舗で開催)、Dサミット、ワークショップなども運営している。2021年には町田市と「認知症とともに生きるまちづくりに関する連携協定」を締結し、市の認知症施策とも連携している。

 「町田市43万人のうち、65歳以上は11万人、認知症の診断を受けている人は2万3,000人。そのうち施設入居者は1万1,000人。残る1万2,000人のうち、介護保険を利用しているのは9,000人で、3,000人は何の支援も受けていないことになります。そういう制度にたどり着けない人のためにDフレンズ町田があります。私は"まちのおばちゃん"だから大きなことはできないけれど、だからこそできることもある。人と人が知り合うヒューマンネットワークの網目が細かければ、人はこぼれ落ちず、孤独にならない。1人もこぼれ落ちない社会をつくりたい」と松本さんは言う。

認知症のある人と一緒につくった「まちだアイ・ステートメント」

 町田市では2015年から「認知症とともに生きるまちづくり」を掲げ、認知症施策を進めている。その指針として策定されたのが「まちだアイ・ステートメント(外部サイト)(新しいウインドウが開きます)」だ。2016年度、認知症のある人や家族、医療・福祉関係者、行政、民間企業、NPO、研究者など、多様な立場の人々の話し合いによって作成された。松本さんもそのメンバーの一人である。このステートメントの特長は、現在、認知症のある「私」と、これから認知症になりうる「私」の双方の視点で語られている点にある。松本さんは「2024年施行の認知症基本法よりはるか前につくられたものですが、共生社会の理念のすべてがここに盛り込まれています。これをさらに広めていきたい」と語る。

 認知症は誰にでも起こりうるものとして捉え、特別なものとせず受け入れる。認知症になってもできることはある。「共生社会」は、すでに町田市の中で形になり始めている。


公益財団法人長寿科学振興財団発行 機関誌 Aging&Health 2026年 第35巻第2号(PDF:7.5MB)(新しいウィンドウが開きます)

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