健康長寿ネット

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高齢者の自己実現

公開日:2016年7月25日 15時00分
更新日:2022年4月15日 13時47分

自己実現とは(マズローの欲求段階説)

 自己実現とは、「人が潜在力を実感すること」をいいます。「向上心を無視したり、否認したり、抑制したりするというよりもむしろ、その気持ちが実現するまでの継続的な過程もしくはそれが実践されるまでになることを指す。」と説明されます1)

 自己実現を説明するにあたり、有名な説として「マズローの欲求段階説」をご紹介します。マズローとは、1908年ニューヨークのブルックリン生まれで、人間性心理学の生みの親といわれる人物です。

 マズローは人間の欲求の段階を以下の図のように示しています(図)。

図:マズローの欲求段階図。人間の欲求は優先順位に従って5段階に分かれる
図:マズローの欲求段階図2)

 マズローの理論によると、人間の欲求は優先順位に従って5段階に分類されており、第1段階として空気、水、食べ物といった生理的欲求、第2段階として安全、安心の欲求、第3段階として愛と所属の欲求、第4段階として自尊心の欲求となり、第5段階は自己実現の欲求となります。

 つまり、高齢者の自己実現の欲求は、衣食住が安全かつ安心できる形で確保され、他人から愛されながら自分の居場所を確保し、報酬や名誉のためではなく自身の成長の可能性を信じ活動し、1人の高齢者としての自尊心を持つことで、満たすことができるものと考えられます。

高齢者の社会活動の実態

 では、高齢者が求める、自己実現とはどのような形なのでしょうか。高齢者の自己実現の一つとして考えられるのが、社会活動への参加が挙げられます。

 近年では、国が高齢者の就業機会を確保するために設置した「シルバー人材センター」と呼ばれる団体を活用し、高齢者が子や孫にあたる世代の子育て支援(子育てサポーター、子育て支援サービス)に参加するケースが増えています。

 例えば、以下のような活動をしている高齢者がいます。

  • 乳幼児の食事や就学児童の学習などの世話
  • 高齢者劇団にて高齢の俳優になることに挑戦
  • シニアの企業として、自力で自分の仕事を創出して社会に貢献する
※シルバー人材センター:
シルバー人材センターとは、「高年齢者等の雇用の安定等に関する法律」に定められた、市町村(特別区を含む)単位ごとに設置された団体で、臨時的・短期的・軽易な業務を主に請負・委任の形態で行う公益法人等であり、60歳以上が加入条件とされる会員が自主的に運営する団体のこと。近年、草取り・襖張りといった従来の請負等業務に加え、一部のシルバー人材センターでは、労働者派遣事業、職業紹介事業のほか介護保険事業、及び会員の就業機会を 増やすため独自事業として学習教室、農作物の生産・販売、食堂の運営など様々な取組みをしています3)

 また、60歳以上の6割が、趣味などを含めたグループ活動へ参加しているという現状があります(グラフ1)。また、33.7%の人が健康やスポーツに関するグループ活動を行っていたり、21.4%の人が趣味のサークルや団体へ加入しているようです4)

 まさに、自己実現の欲求を満たすために積極的に社会活動をしている高齢者が、増えてきていることがわかります。

グラフ1:高齢者のグループ活動への参加状況。60歳以上の6割が、趣味などを含めたグループ活動へ参加しているという現状を示す
グラフ1:高齢者のグループ活動への参加状況4)

高齢者が行っている生涯学習

高齢者が求める自己実現を表す写真。1人の高齢者としての自尊心を持ち、自分の居場所を確保し、学習・成長し続けることで欲求を満たすことができるものと考えられます。

 内閣府が公表している2017年の高齢者白書によると、高齢者の4割以上が生涯学習を行っているという実態もあります(グラフ2)。その内容はさまざまで、最も多いのは音楽、美術、華道などといった、趣味的なものとなっています。この割合は、60歳代で 24.6%、70歳以上で 24.9%であり、高齢者のおよそ4人に1人は、趣味の活動に参加していることになります。

 また、高齢者は生涯活動で得た知識によって自分自身の人生を豊かにし、より健康の維持、増進へと役立てているようです。

グラフ2:高齢者が行っている生涯学習の種類を示すグラフ。高齢者の4割以上が趣味的なものや健康・スポーツなどの生涯学習を行っているという実態を表す。
グラフ2:高齢者が行っている生涯学習4)

 一方で、「生涯学習を行っていない」という高齢者の割合は、50%を超えていることがわかります。もちろん、生涯学習や社会活動を行っていなくても、自己実現の欲求を満たす高齢者はたくさんいるでしょう。

 一概に、どちらが良いのかはいえないものの、生涯学習に興じたり、社会活動に参加していくことで、日常生活にメリハリが生まれます。また、自分以外、家族以外の誰かと接することで、外の世界へ目を向けられるようになり、いわゆる「ひきこもる生活」から脱することができます。

 高齢者であるからこそ、自身の成長の可能性を信じ、社会とつながった生活を送っていくことで、生活に張りが出て、より豊かな人生を送ることができるのではないでしょうか。

参考文献

  1. Feltham,C. & Dryden,W. 北原歌子監訳2000カウンセリング辞典.ブレーン出版;東京
  2. マズローの基本的欲求の階層図への原典からの新解釈 聖路加看護大学紀要(外部サイト)(新しいウインドウが開きます)
  3. アフターサービス推進室活動報告書(vol.13:2013年9~12月) 厚生労働省アフターサービス推進室(PDF)(外部サイト)(新しいウインドウが開きます)
  4. 高齢者の社会参加活動 内閣府(PDF)(外部サイト)(新しいウインドウが開きます)

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