健康長寿ネット

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高齢者における健康の社会的決定要因

 2012年に発表された健康づくりの基本方針である健康日本21(第二次)では、健康寿命を伸ばすこととともに、地域や社会経済状況の違いによる集団間の健康格差の縮小が目標とされた。この方針は、栄養、運動、休養の面での健康的な生活習慣の確立など個々の人の取り組みを重視した健康づくり政策に加えて、健康格差是正のために必要な社会環境の整備にも着目している点で画期的である。このような方針がだされる背景には、健康の社会的決定要因に関する研究への関心の高まりと研究蓄積がある。以下では、高齢者に関して、社会的決定要因の中でも大きな位置を占める「社会関係」と「社会階層」、さらに高齢期に至るまでにたどってきた「経歴」について、健康に及ぼす効果も紹介してみよう。

人との繋がりの豊かさが健康に影響を及ぼす

 「個人の社会関係」が健康に与える効果について大きく注目が集まったのは、1979年の米国のBerkmanらによる研究1)がきっかけである。この研究では、高齢者のみを対象としていないが、フォーマル、インフォーマルな組織に参加していることが死亡率の低下に貢献することが実証的に明らかにされた。その後、同じような指標を用いて、各種組織への参加が日常生活動作や認知能力の維持に対しても貢献することが明らかにされた。このような研究の流れを受けて、日本でも、高齢者を対象に各種組織への参加が死亡や日常生活動作の低下を予防するという知見が報告されるようになった。加えて、2000年前後には、欧米において、地域住民の信頼感の程度や組織参加割合などで測定される「地域の社会関係」の豊かさが住民の健康度自己評価や死亡リスクに影響することも報告されるようになった。最近、日本でも同じように、「地域の社会関係」の豊かさが健康度自己評価などの高齢者の健康度に影響することが明らかにされている。

高齢期に至るまでの「経緯」が健康に影響を及ぼす?

 「社会階層」による健康格差はどうであろうか。日本では、国民皆保険が存在し、高齢者の所得も一定水準に達していることから、高齢者の健康の階層間格差が存在していないとみる人がいるかもしれない。しかし、日本の高齢者においても「個人の社会階層」による健康格差が明らかにされている。たとえば、教育年数や所得により健康度自己評価や精神健康の指標に大きな差があることが明らかにされている。加えて、個人の社会階層だけでなく、「地域の収入格差」もそこに在住する高齢者の健康に大きな影響があることが明らかにされている。

 高齢期に至るまでの「経歴」が、高齢者の健康にどのような影響をもたらすかについては、日本ではほとんど研究事例がない。欧米の研究では2)、たとえば、35歳以前あるいは35歳以後のいずれかの時期に経済的困窮を経験したとしても、経済的困窮を経験しない人と比較して身体機能に障がいをもつ割合に大きな差がない。しかし、35歳以前と35歳以後の両時期に経済的困窮を経験した人では、いずれの時期にも経験していない人と比べて障がいをもつ割合に大きな差がみられると報告されている。

 以上のように、日本でも高齢者の健康に関する社会的決定要因に関する研究蓄積が図られつつある。

参考文献

  1. Berkman, L.F. and Syme, S.L. (1979) "Social Networks, Host Resistance and Mortality: a Nine Year Follow-up Study of Alameda County Residents", American Journal of Epidemiology, Vol.109, pp186-204.
  2. Kahn, J.R. and Pealin, I.I. (2006) "Financial strain over life course and health among older adults", Journal of Health and Social Behavior, Vol. 47, pp17-31.

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