健康長寿ネット

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高齢者のQOL

公開日:2019年5月31日 09時25分
更新日:2022年7月20日 13時29分

 超高齢社会の日本では、「ただ長く生きる」ということよりも「よりよく生きる」という「生活の質」=QOL (Quality Of Life)が重視されています。

高齢者におけるQOLとは

 QOLは「生命の質」「生活の質」などと訳され、「よりよく生きる」「その人らしく充実した生活を送る」という意味で用いられます。

QOLの定義

 WHOは、QOLを「個人が生活する文化や価値観のなかで、目標や期待、基準または関心に関連した自分自身の人生の状況に対する認識」と定義しています1)

WHOのQOLの定義にもあるように、QOLは生活における高齢者自身の主観的な「幸福さ」「満足さ」「充実さ」によって測られます。

QOLに関連する要素

 QOLは多くの要素が統合されたものです。「身体的・精神的な健康状態である生命の質」「生活機能である生活の質」「社会性である人生の質」の3つの側面が関連し、相互に影響し合っています(図1)2)

 「何に生きがいを見いだすか」「どのような生活を理想とするか」という個人の人生観や価値観は、個人がこれまでの人生で触れてきた文化や教育、置かれてきた社会的・経済的背景などの環境によっても異なります。また、健康に関する情報を理解し、活用する力であるヘルスリテラシーにも左右されます。人生観や価値観の違いは、実際の生活における「社会生活への参加」「健康を維持するための取り組み」の実施の有無・頻度にも影響し、QOLに大きく関わってくる要素です3)(図1)。

図1:QOLに関する要素を表す図。
図1 QOLに関連する要素

高齢者のQOLを高めるためには

 高齢者のQOLを高めるには、リハビリテーションや経済的支援、生活環境の整備など、高齢者の個人的な自立度を高めるための対策を行い、生活の快適さ、利便さを追求することが考えられます。

 QOLを個人のニーズによるものとした場合には、まずは、高齢者自身が生活に生きがいを見出すことが必要です。「生きがい」や「充実感」を高齢者は次のような時に感じています。

  • 家族と団らんする4)
  • おいしいものを食べる4)
  • 趣味に熱中する4)
  • テレビを見る、ラジオを聞く4)
  • 友人や知人と食事、雑談する4)
  • 仕事にうちこむ4)
  • ボランティア、町内会、地域行事などで社会貢献する5)

 家族や友人とのつながりや余暇活動・仕事・地域活動などの社会的な活動において、高齢者は「生きがい」「充実感」を感じています。健康状態が良い高齢者ほど生きがいを感じている割合が高いことも示されています(図2)6)

図2:高齢者の生きがいの有無と健康状態の関係を表す図。
図2 高齢者の「生きがい」の有無と健康状態の関係6)より作成

 話す、見る、聞く、食べるなどの基本的な機能や心身の健康を保ち、人との関わりを持つこと、余暇活動や社会活動に参加することなどがQOLを高めることにつながります。

高齢者のQOLを下げる要因

 高齢者のQOLを下げる要因としては次のことがあげられます。

低栄養・食生活の乱れ

 身体機能や口腔機能、認知機能の低下などで食事摂取量が低下すると低栄養になり、機能低下の悪循環が起こります。栄養状態が偏り、生活習慣病を発症すると健康が損なわれADLが低下し、結果的にQOLが低下します。

身体活動量・運動量の低下

 活動量・運動量が減ると、身体機能・認知機能の低下、生活習慣病の発症につながります。活動することへの意欲も落ちQOLが低下します。

過度の疲労とストレス

 過度の疲労やストレスによって心の健康が損なわれると生活への意欲・関心が低下し、生活を楽しみ、人生の充実を図ることができなくなります。また、過度なストレスにより不眠症などの睡眠障害が起こり、生活習慣が悪化し、抑うつ気分や不安といった症状の原因となります。心の健康が損なわれると日々の生活に充実感がなくなり、QOLの低下につながります。

加齢や疾病に伴う慢性疼痛

 高齢者は腰痛、四肢痛などに代表される骨、関節、神経、筋、血管系など各種組織の器質的、機能的障害に伴ってあらわれる慢性疼痛に悩まされております。慢性疼痛はさらに心理的不安を引き起こし、疼痛をさらに助長するとともに、要介護、フレイル状態(加齢や慢性疾患により心身が老い衰えた状態)から寝たきりに追い込まれるといった不安に悩まされます。何とか歯止めをかけようと各種医療機関を毎日訪れ、結果、服薬過多となり、消化器障害をはじめ種々の身体不調を生ずる要因に繋がり、結果、ADLやQOLはますます低下します7)

貧困

 一人暮らしの高齢者に現在どの程度幸せと感じるかという調査では、毎月の収入が多いほど幸福感が高いという結果が得られています(図1)4)。経済状態が低い水準にあると幸福感が得られにくいことが伺えます。

図3:一人暮らし高齢者の経済状態と幸福感を表す図。
図3:高齢者の幸福感と経済状態8)

フレイル

 フレイルとは「加齢や慢性疾患により心身が老い衰えた状態」のことです。フレイルの状態になると、身体能力の低下が起きます。また、何らかの病気にかかりやすくなり、入院するなど、外からのストレスに心身が抵抗できない弱い状態(脆弱な状態)になっています。フレイルの状態になっていると風邪をこじらせて肺炎を発症したり、身体機能が衰えているために、段差につまづき転倒して打撲や骨折したりする可能性があります。また、入院すると環境の変化に対応できずに、一時的に自分がどこにいるのかわからなくなり、自分の感情をコントロールできなくなることもあります。転倒による打撲や骨折、病気による入院をきっかけにフレイルから要介護状態になってしまうことがあります。

高齢者のQOLとフレイルの予防・改善

 フレイルでは、人とのつながりや社会参加が減少すると、それをきっかけに、身体活動量の低下や精神・心理機能の低下、口腔機能の低下、食・栄養状態の問題、身体機能の低下などを生じ、介護が必要となる状態に向かって進んでいきます9)

 フレイルを予防・改善するには「運動」だけでなく、「栄養(食・口腔機能)」や「社会参加」をバランスよく取り組むことが大切です9)

運動

 「運動」は運動習慣のない人にとってはなかなか実行することが難しく、実行したとしても長続きしないこともあるでしょう。しかし、日常生活そのものに運動の要素を取り入れることでプラス10分の運動も達成することができます。例えば、「出かける時はなるべく徒歩で出かける」、「階段を積極的に上り下りしてみる」ことや、「テレビを見ながら足の運動をしてみる」、「家族や友人に会いに行ったり、催し物に行ったりなど、外に出掛けるきっかけをつくる」ことなどを行い、運動する時間を増やしていきましょう。

 歩く時は、お尻と背筋を伸ばして腕を振り、歩幅を大きくして少し速く歩いてみましょう。身体をしっかり伸ばして大きく足を動かすと、全身の筋肉を効率よく使うことができます。

栄養

 「栄養」は口腔機能の管理や栄養バランスの整った食事をとるという機能的な側面だけではなく、友人や家族と食事を楽しむという社会性やご飯をおいしそうだと思える前向きな気持ち(精神面)など、広く多様な要素が含まれます10)。一人暮らしの高齢者は、一人で食事を摂る孤食となりがちです。孤食では食事の品数も減り、食べる食材も偏りがちとなります。食欲が低下すると食べる量も減り、低栄養状態に陥りやすくなります。積極的に友人や家族、地域の人などと共食の機会をつくり、低栄養を防いで心身の健康維持を保ちましょう。

社会参加

 運動習慣があり社会参加をしていない人よりも、運動は苦手だけれども趣味や友人との外出を楽しんでいる社会性の高い人の方がフレイルのリスクが低かったというケースもあります。「社会参加」は直接的な運動だけでなく「活動」につながる行動であり、フレイル予防のために維持し続けたい要素です11)

 自分が得意なこと、できることを見つけて地域のボランティアなどに社会参加することは、生きがい、やりがいを見出すことや社会的な役割を再び取り戻して自信をつけることにもつながります。社会的な活動は活気や気力も湧き、いきいきと生活することで心も体も元気になります。

図:社会とのつながりを失うことがフレイルの最初の入り口であることを示すイラスト。社会とのつながりを失うと生活範囲が狭くなり、こころ、お口、栄養、からだへとドミノ倒しのようにフレイルが進行することを表現している。
図 フレイル・ドミノ
出典:東京大学高齢社会総合研究機構・飯島勝矢:作図
東京大学 高齢社会総合研究機構 ・ 飯島勝矢ら 厚生労働科学研究費補助金(長寿科学総合研究事業)「虚弱・サルコペニアモデルを踏まえた高齢者食生活支援の枠組みと包括的介護予防プログラムの考案および検証を目的とした調査研究」(H26年度報告書より)

高齢者のQOLを維持・向上の必要条件

 高齢者のQOLの維持・向上のためには社会とのつながりを維持することが大切です。感染症の流行などで直接的に集会へ参加することや人と会うことを積極的に行えないときでも、電話や、スマートフォン・パソコンのビデオ通話などを活用して、人や社会とのつながりを途絶えさせないようにする工夫が必要です9)

そして、しっかりと食べてしっかりと動き、心身の健康状態と活動量を維持することが大切です。自分自身の健康に関心を持ち、社会参加度や栄養面、口腔機能の管理状況、運動習慣を振り返り、改善の余地がある部分は積極的に取り組んでみる姿勢が求められます。

文献

  1. World Health Organaization WHO QOL: Measuring Quality of Life(2020年11月30日閲覧)(英語)(外部サイト)(新しいウインドウが開きます)
  2. 祖父江逸郎.長寿を科学する.第一刷.岩波書店.2009年9月18日.261-66P
  3. 日本学術会議 高齢社会の多面的検討特別委員会 高齢化社会の多面的検討特別委員会報告 ―医療面、福祉面からみた高齢者のQOLと生きがい―平成9年3月31日.318P(2020年11月30日閲覧)(PDF)(外部サイト)(新しいウインドウが開きます)
  4. 内閣府平成27年度 第8回高齢者の生活と意識に関する国際比較調査結果 3.調査結果の詳細(7)社会とのかかわり、生きがい 139P(PDF形式:278KB)(PDF)(外部サイト)(新しいウインドウが開きます)
  5. 令和元年度 高齢社会白書 第2節 高齢期の暮らしの動向 3. 学習・社会参加 図1-2-3-2 社会的な活動をしていてよかったこと (2020年11月30日閲覧)(外部サイト)(新しいウインドウが開きます)
  6. 内閣府 平成29年 高齢者の健康に関する調査結果第2章 調査結果の概要 就労状況や社会的な活動に関する事項.113-114P(PDF形式:846KB)(2020年11月30日閲覧)(PDF)(外部サイト)(新しいウインドウが開きます)
  7. 祖父江逸郎. 高齢者の慢性疼痛をめぐる課題.高齢者の感覚障害:慢性疼痛を中心に Advances in Aging and Health Research 2015 公益財団法人長寿科学振興財団:P7-8
  8. 内閣府平成27年版高齢社会白書(概要版)第3節 一人暮らし高齢者に関する意識 1.幸福感、不安に関する意識(外部サイト)(新しいウインドウが開きます)
  9. 飯島勝矢.在宅時代の落とし穴 今日からできるフレイル対策.初版.株式会社KADOKAWA.2020年8月20日.62-63P
  10. 新田國夫・飯島勝矢・戸原玄・矢澤正人.老いることの意味を問い直す フレイルに立ち向かう.株式会社クリエイツかもがわ.初版.2016年7月31日.62P
  11. 飯島勝矢.健康長寿 鍵は"フレイル(虚弱)"予防 自分にとっての3つのツボ.株式会社クリエイツかもがわ.初版.2018年7月31日.58-59P

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