健康長寿ネット

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日本人の健康観の変化

公開日:2019年7月30日 09時10分
更新日:2019年7月30日 09時10分

写真:青空の下にあつまる3世代家族の写真

 健康観とは、健康というものの捉え方や価値観、概念などを指します。健康と対比するものには病気・疾病があり、昔から、人は健康に関心を持ちながら生活を営んできました。それは現在でも変わっていません。健康をどう捉えるかということは、国によっても異なり、同じ国であっても文化や歴史の影響を受け、時代背景によっても変化します。日本人の健康観は歴史の流れとともにどのように移り変わってきたのでしょうか。

日本人の健康観の歴史

縄文・弥生・古墳時代の人々の健康観

 縄文・弥生・古墳時代の人々は病気や死の訪れは自然の定めであり、健康は神によってもたらされるという考えを持っていました。そのため、健康を願うための信仰や儀式などが執り行われていました。中国との交流が始まると、病気は何らかの原因によって起こり、治すためには医術や薬が必要であるという考えが伝わり始めました。

飛鳥・奈良時代の人々の健康観

 飛鳥・奈良時代に入ると、貴族や上流階級の間では、仏教の思想により、特別な体操や呼吸法、仙薬を用いて不老長生を手に入れるという神仙思想※1が広まりました。医術や医薬を用いて病気を治す医師などの医療の専門家に混じって、呪術によって病気を治す呪禁師が地位を確立するようになります。さらに、中国から漢方や薬学の知識が伝わり、健康を保つためには何か特別なことをする必要があるという合目的的な健康観が生まれました。

 しかし、一般庶民はその日その日を生きるのに精一杯で、ひたすら神仏にすがって無事息災を願うのみで自ら進んで健康づくりに励もうというような考え方は生まれませんでした。

※1 神仙思想:
神仙思想とは、不老不死の神仙(仙人)が実在するとし、人間が神仙になることを信じる思想のこと。紀元前3世紀頃から、中国の山東半島を中心に広がったもので原始的な宗教の一種と考えられる。不老不死になるためには修行によって生を養う養生術と、丹という薬をつくって服用するという錬丹術があるとし、その過程で中国の医学や化学が発達した。神仙思想は道教思想の基礎となり、民間の説話・神話の源泉となった。

平安・鎌倉時代の人々の健康観

 平安時代には、古代中国から「秘伝」のように伝えられた漢方の医学を、日本人の体質や生活習慣に合うように再編する仕事が発展し、宮中医官を務めた鍼博士の丹波康頼により日本最古の医学書と呼ばれる「医心方(いしんほう)」(982年)ができました。

 鎌倉時代の戦乱と天災による動乱の中で武士や民衆の救いの求めから生まれた鎌倉仏教の教えに沿って、自然の流れに逆らわないことを良しとする生き方や、病気をしない身体を持つことよりも、人に優しく穏やかな思いやりのある人間性に重きと置いた方が良いという健康観が強く持たれていました。

室町時代の人々の健康観

 米の生産力が上がって、庶民も一日に三度の食事をとる兆しがみえるようになったことや、ポルトガルをはじめとする南蛮諸国との交流からカボチャ、トマト、キャベツ、ジャガイモ、サツマイモなど「南蛮わたり」の新種の野菜が日本に持ち込まれ、日本の人々の食生活の栄養面が大きく改善しました。

 とくにジャガイモ、サツマイモは飢饉に備えて米食をおぎなう食べ物として重要視され、栽培が奨励されるようになりました。食文化の発達により健康をつくるための基盤ができた時代です。

江戸時代の人々の健康観

 江戸時代の中期以降に医療に携わる職業人が増え、民衆レベルで健康を意識し始めたといわれています。江戸時代後期には食事を1日に三度定時的にとるようになり、また、灯油やロウソクの普及により夜が明るくなり学習や娯楽の機会が増え、日本人の生活様式や生活時間が近代化しつつありました。

 しかし、江戸時代における男女の平均寿命はおよそ28歳と短く、飢饉や疫病が流行した時期の平均寿命は約18歳であったという記録もみられます。江戸時代はすべてにおいて平穏無事な期間ではなく、大飢饉がおおくあったことから、人々の間では命のはかなさ、この世の無常という「浮世」の人生観が生まれました。浮世の世の中で天命に従って自然のまま生き、生涯をよりよく生きようという「養生」という考え方が支持されるようになります1)。この時代には養生書がたくさん出版され、なかでも貝原益軒の「養生訓」は有名です。養生訓についてはリンク1に具体的に解説いたします。

リンク1 養生訓

明治初期から戦前の人々の健康観

 「健康」という言葉が日本で出てきたのは明治以降といわれています。

 時代背景として明治政府は欧米列強諸国に追いつくために近代的と国力の充実を目指し「富国強兵」「殖産興業」を課題にしました。そのため、近代国家に相応しい国民に育てるため健民政策として環境衛生を整え、健康な身体をもつための取り組みを行います。日本人の体格や身体レベルを強化するために学校教育で体育を必修としたのは世界の中でも日本が先駆けといわれています。

 また、諸外国との交流が活発になったことで、海外からコレラなどの疫病が流入したことにより、たびたび疫病が流行しました。そのため、それまで許容されていた裸や裸足ですごす習わしを取り締まり、散髪や入浴の奨励、料理や調理法や栄養面の指導など、個人の健康維持を理由に環境衛生の徹底、生活様式の西欧化、近代化をはかるための規制や指導が数々行われました。

 第一次世界大戦を経て国際社会が緊張状態で突入した20世紀の初めは、日本国民に全国、国際レベルでのスポーツや競技参加を促して、政治や経済面での課題を国民全体の意識を統合して乗り切ろうという施策が行われました。その施策のなかで、昭和3年(1928年)11月1日からラジオ体操の放送が日本放送協会(NHK)の協力のもと、放送が開始されました。

 大東亜戦争が始まり国家総力戦となると、国家総動員法のもと「国家のための国民の健康づくり」として兵力と生産力の維持のため、厚生省が新設され、国民に義務として健康・体力づくりを推し進めました。

戦後の人々の健康観1)2)3)

 敗戦後、連合国最高司令官総司令部(GHQ)の主導の下に、国の非軍事化・民主化を掲げ、これによって我が国の戦時体制はすべて解体されることとなりました。昭和21年(1946)年11月には、「日本国憲法」が制定されました。日本国憲法第25条に「すべて国民は、健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を有する」、「国は、すべての生活部面について、社会福祉、社会保障及び公衆衛生の向上及び増進に努めなければならない」ことが明記され、我が国の社会保障制度の基本的理念を明らかにしました。

 敗戦後の労働の生産性を向上させ、経済発展の原動力を培い、国際社会における日本の躍進の礎を築くため、昭和39年(1964年)の東京オリンピックをきっかけとして、国民に良く働ける身体を要求した「国民健康づくり対策」が始まりました。基本方針を「健康は、他から与えられるものではなく、自らつくり出すものであるので、国民の健康を増進し、その体力の増強を図るためには、国民の自主的実践活動を促進しなければならない」とし、すべての国民が日常生活を通して積極的に健康・体力つくりに参加できるよう、保健栄養施設の整備、体育・スポーツ・レクリエーション指導者の育成、グループ活動・集団訓練の推進などさまざまな環境整備をおこないました。

 また、高度経済成長の中で都市化や人口の高齢化などが進み、健康に影響を与える要因は複雑かつ多様化しはじめました。また、ストレスということばが日常化し、豊かさの中での心身への不安感が高まりました。人々の心身への不安感から健康願望が生まれ、健康ブームに拍車がかかりました。その過程で身体だけではなく、精神的なストレスに着目した「癒し」を売りにする健康法や、さまざまな健康食品、健康器具、運動などの健康法が現れました。

 1970年以降は、日本の産業構造が重工業から情報・サービス産業へ転換しつつあったなか、国民の価値観が生産者や労働者として生産性を上げて豊かな暮らしを実現するという価値観から、消費者として豊かで充実した生活を送る価値観へと移行していきました。そのため、働くための体力づくりという健康観から、スポーツを楽しむことや美しい身体づくりを楽しむという、個人の人生を充実させるための健康観に変わってきました。

現代の日本人の健康観

 厚生労働省が平成26年(2014年)2月に実施した「健康意識に関する調査」によると、自分を「非常に健康だと思う」と答えた人は7.3%、「健康な方だと思う」と答えた人は66.4%おり、合わせて73.7%の人が自分を健康だと考えていることがわかりました。また、健康状態について判断する際に重視した事項としては「病気がないこと」が63.8%で最も多く、次いで「美味しく飲食できること」が40.6%、「身体が丈夫なこと」が40.3%でした4)

 一方、「健康に関して抱える不安」としては、自身の健康についての不安が「ある」と回答した人が61.1%おり、その内容としては「体力が衰えてきた」が49.6%と最も多く、次いで「持病がある」が39.6%、「ストレスが溜まる・精神的に疲れる」が36.3%などとなっていました。

 健康であると感じる人が多い一方、健康に関して様々な要因により不安がある人も多く、人々の健康観が多様化していると言えます4)

 今や、健康のためには適度な運動とバランスの良い食生活と休養が必要であるというのは日本人のほとんどの人が知り得ている情報です。高度化した生活環境により忙しい現代の日本人は、運動、食事、休養を見直す余裕がないなどの理由で、全ての人が適度な運動とバランスの良い食生活、休養を実行できているとはいえません。健康を求めてさまざまな健康法が生まれ、ブームになる背景には、忙しいなかでも少しでも自分が実践できそうな方法を見つけ、健康であろうという健康観の現れにも見えます。

 自分自身の健康のために、自分自身の生活を顧みて可能な限り是正していく意識と実践していく行動力を持つことが現代の忙しい日本人には必要といえるでしょう。

参考文献

  1. 日本人の健康意識と行動「健康観 」の歴史的展開 近藤義忠 仙台白百合女子大学人間学部人間生活学科(PDF)(外部サイト)(新しいウインドウが開きます)
  2. 日本人の健康観 北里大学名誉教授 立川昭二 人間ドックvol.20 No.5 2006年(PDF)(外部サイト)(新しいウインドウが開きます)
  3. 厚生労働省 平成26年版厚生労働白書 健康長寿社会の実現に向けて~健康・予防元年~第1部 第1章 我が国における健康をめぐる施策の変遷(外部サイト)(新しいウインドウが開きます)
  4. 厚生労働省 「健康意識に関する調査」の結果を公表 (外部サイト)(新しいウインドウが開きます)

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