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第62回 皆逝ってしまった

公開日:2022年11月 4日 09時00分
更新日:2022年11月 4日 09時00分

井口 昭久(いぐち あきひさ)
愛知淑徳大学健康医療科学部教授


2022年10月の初めの夕方である。
窓から見える雑木林がかすかに揺れているのが見えるので風があるのだろう。
私は書斎でエッセイを書いて、行き詰まると本を読んで頭を休める。
今読んでいるのは「工学部ヒラノ教授の傘寿でも徘徊老人日記」である。
「工学部ヒラノ教授」のシリーズを愛読している。教授という人種の奇妙な行動が恥ずかしげもなく赤裸々に述べられているので、「あなたも俺と同じだね」と同感できる。
しかしこの1年の間、私はどうしてか分からぬが、ヒラノ教授の本を手にすることはなかった。
久しぶりに彼の新刊が出ていないかと思って調べてみた。
彼は大学を退職後、作家業に専念して毎年2冊ずつの著書を出版しているとどこかで読んでいたからである。
ネットで調べてみると、82歳で亡くなっていたことが分かった。
手元にある本が彼の最後の著書であるらしい。
ヒラノ教授の日課を覗いて感情移入してみようと思った私の思惑は外れた。
作家の新しい文章に出会えなくなると思うと、何とも言えぬ喪失感が湧いてくる。

作詞家のなかにし礼も私が親近感を抱いていた人である。
食道癌と闘った戦友であると勝手に思っていた。
彼は末期の食道癌を陽子線治療で完治後、10年以上生きていると聞いていた。
私も末期の食道癌で放射線治療と化学療法で一旦治癒して2年後に再発したが化学療法で治った。
今年の8月の検査でも異常はなく発症からすでに9年経った。
なかにし礼はどうなっているか知りたくなった。
彼の近況をネットで調べてみると、82歳で亡くなっていたことが分かった。
死因は心臓疾患であった。

岩見隆夫という人の名前は今でも鮮明に覚えている。
2013年の5月13日、私は女子大生と食事中に食べた日本そばが喉を通過せず、すべてを吐き出してしまった。
大学病院へ緊急入院すると末期の食道癌であった。
次々に検査を受けたがそのどれもが悲観的な結果であった。
私は病院の一階にある売店へ行って新聞や週刊誌を買ってきて病室で読んだ。その中に興味ある記事があった。
サンデー毎日に載っていた岩見隆夫という人が書いたコラムであった。
肝臓癌の末期で余命数か月を診断されたとあった。
私と同じ境遇の彼の記事に目を離せなくなった。
その中に「岩見さんはもう年だから癌の進行も遅いですから心配しなくていいですよと、私を慰めてくれる人がいる。」という記事があった。
彼はすでに78歳であった。
私はその時69歳であり私の癌の進行は彼に比べて早いだろうと思った。
彼の年まで生きるとは到底思えなかった。
彼がうらやましかった。
その後、コラムを数編は読んだと思うが、いつのまにかサンデー毎日から消えた。
今、ネットで調べてみると2014年1月18日に肺炎で亡くなっていたいたことが分かった。

皆逝ってしまった。
外では雨が降ってきたらしく雑木林にカラスが集まってきた。

図:老いをみるまなざし_第62回_皆逝ってしまった_ヒラノ教授、なかにし礼氏、岩見隆夫氏が亡くなった様子を表わす図。

(イラスト:茶畑和也)

著者

写真:筆者_井口昭久先生

井口 昭久(いぐち あきひさ)
愛知淑徳大学健康医療科学部教授

1943年生まれ。名古屋大学医学部卒業、名古屋大学医学部老年科教授、名古屋大学医学部附属病院長、日本老年医学会会長などを歴任、2007年より現職。名古屋大学名誉教授。

著書

「これからの老年学」(名古屋大学出版)、「やがて可笑しき老年期―ドクター井口のつぶやき」「"老い"のかたわらで―ドクター井口のほのぼの人生」「旅の途中でードクター井口の人生いろいろ」「誰も老人を経験していない―ドクター井口のひとりごと」「<老い>という贈り物-ドクター井口の生活と意見」(いずれも風媒社)など

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