健康長寿ネット

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第19回 テレビの医療情報

公開日:2020年6月12日 09時00分
更新日:2020年6月12日 09時00分

宮子 あずさ(みやこ あずさ)
看護師・著述業


 新型コロナウイルスによる感染を防ぐため、4⽉7⽇に出された緊急事態宣⾔は、5月25日ようやく全国的に解除された。とは言え、第二波の流行も警戒しなければならないとされ、人との距離を取る、マスクをつけるといった制約は、今しばらく続くことになる。また、1ヶ月以上に及ぶさまざまな行動制限は、暮らしのさまざまな面に影響を及ぼしている。

 私が勤務する精神科病院では、面会禁止など外部の人を極力入れない対策を取り、幸い感染者を出さずに経過している。ただ、これにより、疎遠になりがちな家族との関係がさらに疎遠にならないか、懸念もある。

 また、長期化した休校も、親子とも大きなストレスであったと思う。学校が再開したとはいえ、今はまだ分散登校となっている地域も多い。授業の進め方や学校生活への適応など、多くの不安があると推察する。

 このようにただでさえ不快で、不安やイライラが募りやすい状況にあって、それに拍車をかけるのが、不安を煽るだけの不確定な情報である。テレビはコロナウイルスの話題一色。中には不必要に不安を煽る情報も散見される。

 この間、体調不良で自宅療養中に急死し、死後コロナウイルス感染が明らかになった例がいくつか報じられた。これだけ見ていると、「コロナウイルスは、元気な人でも急に悪くなって死んでしまうこともある」と感じ、不安になるだろう。

 しかし、これを見て私がまず感じたのは、その人が本当にコロナウイルス感染のせいで亡くなったのかどうか。テレビの情報だけでは判断できないと考えた。なぜなら、訪問看護の仕事を通して、会った時には元気だった人が急死してしまう。そんな経験を何度もしてきたからだ。

 コロナウイルスに感染しても無症状や軽症の人が多くいることを思えば、コロナウイルスが引き起こす症状とは別に、心筋梗塞などの病気で急死する可能性もないわけではない。従って、「体調不良で自宅療養中に急死し、死後コロナウイルス感染が明らかになった」人について報じるのであれば、検視の結果、感染によって引き起こされた肺炎などの所見があったのかどうか。そこまでわかってから報じなければ、意味がないと思う。

 このほかにも、ウイルスが引き起こすと考えられる症状や、感染力、検査結果の確実度など、専門家の間でも意見が分かれていることが、さも全てわかっているかのように語られている。こうした傾向は、特に民放の情報番組にありがちに見え、不安な人を誤った方向に導きかねない。そんな懸念を強く抱いている。

 日本精神衛生学会では、現状について声明を出し、「最新の情報を確かめたいのは当然ですが、感染者数などの情報に繰り返しさらされると、心が少しずつ傷んできて、イライラや不安が生じてきます。しかも中には、不確かな情報やフェイクニュースもあります。テレビやインターネットでこれらの情報にたくさん触れている人は、使用時間を自己制限することも有益です。自治体などが公表する具体的で確かな情報は、大切にしましょう」と呼びかけている(リンク参照)。

 不安な状態で、私たちは情報を求め、不確かな情報に踊らされやすくなる。こうした傾向を自覚し、時には情報から距離を置くのも大切である。

リンク:日本精神衛生学会「新型コロナウイルス感染拡大と心の健康について」(PDF)(外部サイト)(新しいウインドウが開きます)

写真:筆者が料理した4日分の晩ごはんを表す写真。
家にいる時の気晴らしの1つは料理です。4日分の晩ごはんを撮影しました。作り置きのおかずが多いので、けっこう同じものを出しています。

著者

写真:著者宮子あずさ氏

宮子 あずさ(みやこ あずさ)
看護師・著述業
1963年生まれ。1983年、明治大学文学部中退。1987年、東京厚生年金看護専門学校卒業。1987~2009年、東京厚生年金病院勤務(内科、精神科、緩和ケア)。看護師長歴7年。在職中から大学通信教育で学び、短期大学1校、大学2校、大学院1校を卒業。経営情報学士(産能大学)、造形学士(武蔵野美術大学)、教育学修士(明星大学)を取得。2013年、東京女子医科大学大学院看護学研究科博士後期課程修了。博士(看護学)。
精神科病院で働きつつ、文筆活動、講演のほか、大学・大学院での学習支援を行う。

著書

『宮子式シンプル思考─主任看護師の役割・判断・行動1,600人の悩み解決の指針』(日総研)、『両親の送り方─死にゆく親とどうつきあうか』(さくら舎)など多数。ホームページ:ほんわか博士生活(外部サイト)(新しいウインドウが開きます)

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