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第10回 ダウンサイジング

公開日:2019年9月13日 09時00分
更新日:2019年9月13日 09時00分

宮子あずさ(みやこ あずさ)

看護師・著述業


 長く訪問看護でうかがっている70代の女性は、精神症状は落ち着き、身体能力の低下が主な問題になっている。年々膝関節症と腰痛がひどくなり、「とにかく歩くのがつらい」と、自宅にこもる日が増えた。

 ひとり暮らしの住まいは3階建て都営アパートの3階で、エレベータはない。間取りは3DKと広く、30年前ここに入居した時は、今は亡き夫と、すでに独立した2人の子どもの4人暮らしだったという。

 1人で住むには広すぎるその部屋には、家族が多かった時代そのままに、あふれるものが放置されている。子どもの勉強机、夫が使っていたゴルフセットや車椅子......。

 身動きがつらくなるにつれて部屋は乱雑になっていく。今や暮らしに使えるのはダイニングキッチンのみ。以前は少しものを寄せて敷いていた布団も敷けなくなった。今は寝る時も、そこに置かれたソファーにごろ寝だそうだ。

 都営住宅の場合、この例のように身体的な理由から階段昇降が難しくなれば、1階やエレベータのある物件に移る相談も可能である。しかし、すでにひとり暮らしになっている女性に提供されるのは、ひとり暮らし用の住まい。3DKから1DKへの住み替えとなるため、難色を示していたのだった。

 しかし、決断の時は突然やってくる。住んでいる都営アパートの建て替えが決まったのだ。そうと決まれば、待ったなし。やや疎遠だった子供たちにも協力を得、不要な荷物をがんがん捨て、3DKから1DKへの住み替えが実現した。

 新しい都営アパートは11階建ての新築で、エレベータ付き。完全バリアフリーではないものの、段差が少ない、高齢者向きの住居である。女性曰く......。

 「前より狭いけど、自分で使えるスペースは、広くなったのよ。前の家は、おとうさんのもので占拠されていたでしょう。あんなに狭くなるのが嫌だったのが嘘みたい。引っ越したおかげでものを捨てられた。本当にありがたかったですよ。今度の引っ越しがなかったら、片付けないままさらに何年も経っていたと思う。建て替えと言われた時は本当に泣きたい気持ちだったけど。今は本当に良かったと思います。」

 引っ越し後は、外出する機会も増えた。歩くことがリハビリとなり、歩行は以前よりスムーズ。少しずつ自信を深めている。

 今回の教訓は、住まいのダウンサイジングの必要性について。大きな器だからこそ、ものが放置されてもなんとかなる。だから、ものが放置され、環境がよくならない。そんな残念な傾向もありうるのだ。

 若い頃と老いてからでは、必要なスペースも変化する。広さにこだわらず、適正な広さを考える。そしてそこに必要なものを置いて、快適に暮らす。そんな視点も大事なのではないだろうか。

写真:女性の転居先と似たタイプの都営アパートの写真。
女性の転居先と似たタイプの都営アパート。以前は4階建て程度でエレベータのないタイプが多かったが、エレベータがある高層の建物が主流になっている。

著者

写真:著者宮子あずさ氏

宮子 あずさ(みやこ あずさ)
看護師・著述業
1963年生まれ。1983年、明治大学文学部中退。1987年、東京厚生年金看護専門学校卒業。1987~2009年、東京厚生年金病院勤務(内科、精神科、緩和ケア)。看護師長歴7年。在職中から大学通信教育で学び、短期大学1校、大学2校、大学院1校を卒業。経営情報学士(産能大学)、造形学士(武蔵野美術大学)、教育学修士(明星大学)を取得。2013年、東京女子医科大学大学院看護学研究科博士後期課程修了。博士(看護学)。
精神科病院で働きつつ、文筆活動、講演のほか、大学・大学院での学習支援を行う。

著書

『宮子式シンプル思考─主任看護師の役割・判断・行動1,600人の悩み解決の指針』(日総研)、『両親の送り方─死にゆく親とどうつきあうか』(さくら舎)など多数。ホームページ:ほんわか博士生活(外部サイト)(新しいウインドウが開きます)

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