健康長寿ネット

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第44回 電気メーターの話

公開日:2022年7月 8日 09時00分
更新日:2022年7月 8日 09時00分

宮子 あずさ(みやこ あずさ)
看護師・著述業


 電気メーターの取り替えが少しずつ進んでいるのをご存知だろうか。電気を使用中円盤がくるくる回る機械式から、数字が表示されるだけのデジタル型(スマートメーター)へ。

 デジタル型は、計測されたデータを外部に飛ばせるため、検針が不要になる。また、細かい利用状況が分析できる、省エネになるなどのメリットもあるとされている。

 私はこうした電気メーターの切り替えは時代の趨勢(すうせい)であり、利用者へのメリットもある以上、特に反対する立場にはない。しかし、思いがけない不便を感じることがあった。

 これまで私は訪問看護の仕事でうかがった家が留守だった時、すぐに電気メーターの円盤が回っているかどうかを見ていた。

 くるくる早く回っていれば、エアコンがオンになっている可能性が高い。もちろん、室外機の音でもわかるのだが、設置位置によっては近づけない。多くがドア付近に設置されている電気メーターは、すぐに見やすく、便利だったのである。

 かれこれ10年近く前、週に1回訪問していた利用者さんのアパートに行くと、応答がなかった。これまでに一度も無断キャンセルがなかった男性。猛暑の夏で、見上げるとすぐ、ぐるぐるすごい速さで回る、電気メーターの円盤が見えた。

 彼は誇大的な妄想があり、大きな事業をする計画を立てていたようだ。お金を貯めるため極端に節約し、服はボロボロ、食べるものも見切り品の菓子パンが中心だった。

 普段はエアコンもろくに使おうとしない彼が、留守の間エアコンをつけっぱなしにするとは思えない。中にいて倒れているのではないかと、胸騒ぎがした。

 緊急事態に備え、仲間の看護師を呼んだ。もしドアや窓の鍵が開いていたとして(部屋は1階だった)、1人で入ることは禁じられている。

 仲間の到着を待って、まずドアノブを回すと、ドアの鍵は閉まっていた。次に、ちょっとしたフェンスを乗り越え、窓の側に回る。予想通り室外機は動いており、エアコンがついていることが確認できた。

 そして、窓にはカーテンが引かれていたが、真ん中が少し開いていた。そこから中を覗くと、嫌な予感は当たっていた。

 男性は、窓に並行して敷かれた布団の脇に、不自然な格好で倒れていた。窓には鍵がかかり、それ以上は確認しようがない。

 すぐに2人で手分けして警察と消防(救急車)に通報。最終的には救急隊と共にやってきた消防隊が窓を破って中に入り、状況を確認してくれた。

 すでに亡くなっているのが明らかだったため、後の対応は警察が担当。身寄りがなかったため、市役所の担当者が後の手続きその他を行ったようだ。

 以上は電気メーターから異変を察知した例だが、こうした例はもちろんまれ。エアコンがついておらず、室内にはいないと判断した例の方が、はるかに多かった。

 安否確認の第一歩は電気メーターの円盤くるくる.........。SNSを見てみたら、訪問した家の応答がないのに、円盤が回っている時は、居留守を疑う、といった内容の投稿もあった。

 確かに、確かに。訪問看護でもそうした話は山のようにあって、円盤を見る以前に、中からテレビの音がしたり、ひどい時は話し声が聞こえたこともあった。

 それでも、そうした経験はそうそう記憶に残らない。やはり、居留守を使われようがなんだろうが、その人の安否が確認できさえすれば、それでいいのだ。

 この連載で、以前にも家で亡くなった人について、書いたことがある。これはもちろん、気持ちのいいことではない。しかし、在宅で亡くなる人を見つけるのは、居宅支援の宿命とも言える。誰が悪いわけでもない。

 電気メーターの円盤という異変を察知する大きな手がかりがなくなっていくのは、やむを得ないこととはいえ、不安な支援者もいることだろう。

 もちろんこれは、メーターの目的外使用であり、デジタル化を批判するものでは決してない。ただ、ものの進化が、思いがけない変化をもたらす一例を見て、物事の複雑さを感じたのだった。

写真:著者お気に入りのiPadで使えるキーボード。七色に光る様子を表わす写真。
<私の近況>
 私はパソコンを使い出した30年以上前から、キーボードのタッチに強いこだわりがありました。キータッチがほどよく重めでカシャカシャするのが好み。打っていて気持ちのいいキーボードは仕事の必需品なんです。
 最近、iPadで使える、お気に入りキーボードを手に入れ、ものすごくハッピーです。七色に光るのは......ご愛敬。人前で使うのは、ちょっと恥ずかしいですね(笑)。

著者

筆者_宮子あずさ氏
宮子 あずさ(みやこ あずさ)
看護師・著述業
1963年生まれ。1983年、明治大学文学部中退。1987年、東京厚生年金看護専門学校卒業。1987~2009年、東京厚生年金病院勤務(内科、精神科、緩和ケア)。看護師長歴7年。在職中から大学通信教育で学び、短期大学1校、大学2校、大学院1校を卒業。経営情報学士(産能大学)、造形学士(武蔵野美術大学)、教育学修士(明星大学)を取得。2013年、東京女子医科大学大学院看護学研究科博士後期課程修了。博士(看護学)。
精神科病院で働きつつ、文筆活動、講演のほか、大学・大学院での学習支援を行う。

著書

「まとめないACP 整わない現場,予測しきれない死(医学書院)、『看護師という生き方』(ちくまプリマ―新書)、『看護婦だからできること』(集英社文庫)など多数。ホームページ:ほんわか博士生活(外部サイト)(新しいウインドウが開きます)

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