健康長寿ネット

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第31回 得手不得手を知ろう

公開日:2021年6月 4日 09時00分
更新日:2021年6月 4日 09時00分

宮子 あずさ(みやこ あずさ)
看護師・著述業


 歳を重ねて活力が落ちてくると、多くの人に、得手不得手の変化が起きる。たいていの場合、得意だったことがうまくできなくなり、不得意なことは不得意なまま。結局のところ、得意なことが減ってしまうようだ。

 以前訪問看護で関わった80代の女性は、若い頃から料理が好きで、歳を重ねてからも親族や友人を招いてはホームパーティーを開いていた。ところが、体力が落ちると伴に、人を招くのが億劫になり、やがて料理をすることもしなくなっていった。

 こうした変化の背景には、加齢と伴に配偶者の死、子どもの独立など、さまざまな変化があった。人によっては、ひとり暮らしになったからこそ、人を招き、楽しい時間を作れるだろう。

 だが、実際には、それだけのエネルギーを持つ人はそうそういない。彼女のように、加齢による変化と喪失体験から、これまで楽しくやってきたことができなくなってしまう。そうした人の方が多いように見える。

 訪問看護に伺うきっかけは、気力の低下が一線を越え、うつが目立つようになったからだ。抗うつ剤や眠剤の効果で悪化は止まった。けれども、加齢や喪失といううつの引き金自体は、変わらない。折り合うには時間がかかり、その分回復も時間を要した。

 ゆっくりながらも状態は上向きで、最低限の家事も自分でできていた。特に得意だった料理は、自分でやりたいという気持ちが強く、インスタントものに頼らず、自炊を続けていた。

 ある日、前日の夕食のメニューを聞くと「ご飯、納豆、焼き魚、ほうれん草のおひたし、なすの味噌汁」との答えが返ってきた。私からすれば、完璧な夕食である。しかし彼女は納得できない。「本当に粗末で.....。うつになってから何も作れない」と嘆くのである。

 「それだけ召し上がっていれば、お身体には十分ですよ。今は無理せず、簡単メニューでいきましょう。それだって、私の家なら十分凝ったメニューです」。私の返答に、彼女は「そんなことないわ」というように首を振っていた。

 得意なことについては、自分に求めるゴールが高い。これは誰にでも当てはまるのではないか。彼女は料理が得意で、楽しんで作っていた。だから、凝った料理が億劫で作れない状況が不満で仕方がない。

 一方、決して料理が得意ではない私の場合、「ご飯、納豆、焼き魚、ほうれん草のおひたし、なすの味噌汁」の夕食は、かなり凝ったメニューになる。恐らく私なら、ほうれん草のおひたしがあれば、味噌汁はインスタントで済ますだろう。それで何ら恥じることはない。

 しかし、できる・できないの基準は、人からどう見えるかではなく、自分がどう感じるか。特に得意なことであれば、求めるゴールは高い。周囲からいくら賞賛されても、自尊心は高くならない。ここが本当に難しいところである。

 そして、料理については自分に甘い私であるが、書いた文章については、やはり不得意と感じる人より高いレベルを自分に求める。そして、納得できるように表現できないととてもつらい。元気なうちから、自分の得手不得手を意識しておくと、ちょっとつまづいた時の力になるかもしれない。

写真:筆者が作成したポストカードにレシピを書いてラミネートしたレシピカードを表す写真。
<私の近況>
今日は料理の話を書きましたが、私は料理が苦手。よく作る料理はレシピカードを作り、ささっと作れるようにしています。ポストカードにレシピを書き、水に濡れても良いように、ラミネート。ラミネーターはわが家の必需品です。

著者

筆者_宮子あずさ氏
宮子 あずさ(みやこ あずさ)
看護師・著述業
1963年生まれ。1983年、明治大学文学部中退。1987年、東京厚生年金看護専門学校卒業。1987~2009年、東京厚生年金病院勤務(内科、精神科、緩和ケア)。看護師長歴7年。在職中から大学通信教育で学び、短期大学1校、大学2校、大学院1校を卒業。経営情報学士(産能大学)、造形学士(武蔵野美術大学)、教育学修士(明星大学)を取得。2013年、東京女子医科大学大学院看護学研究科博士後期課程修了。博士(看護学)。
精神科病院で働きつつ、文筆活動、講演のほか、大学・大学院での学習支援を行う。

著書

『宮子式シンプル思考─主任看護師の役割・判断・行動1,600人の悩み解決の指針』(日総研)、『両親の送り方─死にゆく親とどうつきあうか』(さくら舎)など多数。ホームページ:ほんわか博士生活(外部サイト)(新しいウインドウが開きます)

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