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第11回 宅配弁当

公開日:2019年10月11日 09時00分
更新日:2019年10月11日 09時00分

宮子あずさ(みやこ あずさ)

看護師・著述業


 「宅配弁当断りました。1食600円は高い。コンビニでお弁当買います」

 ある日の訪問看護で、60代後半の男性が、行くなりこう切り出した。長く統合失調症を患い、「自分に近づいてくる人の中に殺人鬼がいる」とおびえている。そのためなかなか外出ができず、宅配弁当を週に4日昼と晩、取り始めていた。

 聞いた瞬間、私はがっくりした。表情にも出たと思う。「コンビニで買う、とおっしゃるけれど、現実的ですか?食べ物も買いに行けなくなって、衰弱して入院もしましたよね。そうならないように、宅配弁当を頼んだわけでしょう。回数を減らしてでも、ゼロにはしない方がいいと思います」とはっきり言った。

 彼には週に2回、1時間ずつヘルパー支援が入っている。1日は掃除、1日は買い物。これに訪問看護が1回30分。身体機能に異常がないため、介護度が低く、今以上の支援を受けられる見込みはない。

 宅配弁当がない時は、ヘルパーに頼んで菓子パンばかり買い込み、本当に衰弱してしまったのだった。よほどコンディションがよくないと1人で外出ができず、料理をする力もない。この状況は今も変わっていない。

 ひとたび言い出すと頑固な彼は、結局私たちのアドバイスは受け入れない。食パンを買い込み、冷蔵庫に何斤も食パンが入っている。それにマーガリンとジャムをつけるのが基本の食事。行く度やせていく彼は、入院まで秒読みに見える。

 宅配弁当については、同様の嘆きを多くの人から聞く。「まずい」「割高」「飽きてくる」などなど。しかし、主食+主菜+複数の副菜、というパターンの弁当は、自分で調達しようとすると、なかなか難しい。

 「コンビニの方がいい」と実際コンビニで買い始めた人も、意外に長くは続かない。まずは食べ物のマンネリ化。初めは目新しくいろいろ買っても、やがては飽きてしまう。結局は、毎日調理パンやおにぎりという、炭水化物一辺倒に偏りやすい。

 嫌が応にも主食+主菜+複数の副菜のパターンで出てくる弁当は、意外に貴重。自分で作ろうとすると、かなりの労力なのである。

 長らく専業主婦をやったある女性は、長年宅配弁当をとっている。「これだけの品数を少しずつ作るのは、本当に大変。やれと言われてももうできないわ。昔自分で作っていた時は、他人が作る物が本当に美味しかった。今も、なんとなくそんな気持ちが残っていて、持ってきてもらうだけでも、すごく美味しく感じるの」

 理想は、自分で調理できること。けれども、年を重ねると、それが難しい場合もある。そんな時は、宅配弁当も選択肢。悪い評判ばかりが広まりやすいのだが、実際にこのおかげで在宅にいられる人も少なくない。

 そんな効用をきちんとふまえ、有効に使ってほしいと思う。

写真:筆者のある日の昼食メニュー写真。インスタントラーメンとラタトゥイユ。
恥ずかしながら、私のある日の昼食。インスタントラーメンに作り置きのラタトゥイユ。1人だとついついいいかげんになってしまう。献立を決めて、料理を作るのは、かなりのエネルギーが必要

著者

写真:著者宮子あずさ氏

宮子 あずさ(みやこ あずさ)
看護師・著述業
1963年生まれ。1983年、明治大学文学部中退。1987年、東京厚生年金看護専門学校卒業。1987~2009年、東京厚生年金病院勤務(内科、精神科、緩和ケア)。看護師長歴7年。在職中から大学通信教育で学び、短期大学1校、大学2校、大学院1校を卒業。経営情報学士(産能大学)、造形学士(武蔵野美術大学)、教育学修士(明星大学)を取得。2013年、東京女子医科大学大学院看護学研究科博士後期課程修了。博士(看護学)。
精神科病院で働きつつ、文筆活動、講演のほか、大学・大学院での学習支援を行う。

著書

『宮子式シンプル思考─主任看護師の役割・判断・行動1,600人の悩み解決の指針』(日総研)、『両親の送り方─死にゆく親とどうつきあうか』(さくら舎)など多数。ホームページ:ほんわか博士生活(外部サイト)(新しいウインドウが開きます)

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