健康長寿ネット

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第55回 「気にしないことにします」

公開日:2023年6月 2日 09時00分
更新日:2023年6月 2日 09時00分

宮子 あずさ(みやこ あずさ)
看護師・著述業


 前回「受傷から2週間経つと、動き方に気を使うことがほとんどなくなった」と書いた仙骨骨折。経過は順調と思っていたところ、4月半ば以降、また痛みがぶり返してきた。

 再度受診をと思う間に連休に入り、生活にはまあまあ支障はないものの、痛みもよくならない。連休明けに再度整形外科を受診し、MRIをとることになってしまった。

 余談だが、私は軽い広場恐怖があり、CTに比べて閉塞感が強いMRIはかなり苦手である。CTで済むならCTで済ませてもらうが、明らかに診断の確度が違えば、受け入れるしかない。関節や骨は、MRIが必須な場合が多く、今回が確か3回目になる。

 恐怖を感じながらも、なんとか過換気を起こすことなく今回も無事終了した。回を重ねる度に、閉塞感を軽減する工夫がされているように感じる。これは本当にありがたいことだ。

 話し戻って今回の痛みだが、骨折部が痛んだ当初と異なり、大腿から膝までの下肢痛で、動かした瞬間ビリッと痛む。かかりつけの整形外科医によれば、痛みの質としては、座骨神経痛が疑われた。

 MRIの結果、骨折部の周囲がむくんでいるが、それ自体は骨折に伴って起こる症状で、特に異常な経過ではないとのこと。このむくみが何らかの形で神経を圧迫し、座骨神経痛が起こっていると思われるそうだ。

 医師の説明は分かりやすく、とても納得がいく内容だった。

 「......ということは先生、骨折自体の治りは問題なく、特に何かしなくても、時間でよくなっていくと考えられるんですよね?」

 「そうね。少し時間はかかるかもしれないけど、自然にむくみは引くはずだから。痛みが強ければ、痛み止めを出すけど、どうします?」

 「いりません。元々頭痛持ちでセデスハイを飲んでいるので、今はなんとなくそれでも効いているようです。これ以上は飲まなくてもいいかな。朝起き出す時が一番痛くて、日中も多少は痛いけど、生活には支障はないんです」

 「じゃあ、もし痛みが強くなったり、心配だったらいつでも来てください」

 ......こうした会話で、診察は終了。順調に経過したら、これで診察は終了となる。

 私が診察を受けた際、一番明確に知りたいのは、「放って置いても悪くならないかどうか」。これに尽きる。特に治療の必要がなく、時間がかかっても、いずれは痛みが取れるなら、普通に暮らせばよい。

 しかし、放って置いてはいけない痛みもある。痛みが悪化のサインで、痛みが出ないように生活しないと患部が悪くなるような場合である。

 今回も、骨折自体が治りきっていないなら、身体ケアの多い看護師の仕事に戻るのが早かった可能性もあると考えた。もしそうであれば、治るまで勤務を休むしかない。そんな心づもりもして、診察には臨んでいた。

 今回骨折の受診を通し、私自身が医療に求めるものが、改めて明確になったように感じている。私は、けがにせよ、病気にせよ、心身の不具合には、割と寛容で、受け入れてしまう性質だと思う。

 痛みがあっても、特に治療の必要がなければ、生活を制限せず、共存して暮らしたい。今回程度の痛みであれば、痛みが出ないように工夫しながら生活もできる。

 その代わり、いったん治った痛みが再発したり、痛みの質が変わったら、異変がないか受診して確認する。対処が必要な異変を見落とし、治療が遅れることは、避けたいと思うからだ。

 こうした私の傾向は、私の性格と共に、私が働いてきた臨床と強く関連している。私はこれまで、内科、精神科、緩和ケアの領域で働き、一言で言えば<すっきり治らない>患者さんと多く接してきた。

 その結果、どこか不具合を抱えて生活することは、当たり前と感じるようになった。ましてや、年を重ねれば、なおのことである。

 「説明を聞いて安心しました。痛くても大丈夫なら、気にしないことにします。また心配になったら来ますね。ありがとうございました」

 そう言って、今回もクリニックを後にした。できることなら、この件ではもう行かないで済むといいのだが......。

写真:岡田美佳さんが作った猫が描かれた刺繍画と画集を表す写真。

<私の近況>
 先日、知人に誘われ、岡田美佳さんという方の刺繍画展を見に行きました。岡田さんは1969年生まれ。発達障害のため、幼少期より言語が出ず、言語的コミュニケーションは極めて困難です。ある時母親が刺繍に関心が強いことに気づき、それが刺繍画を描くきっかけになりました。下絵なしに描き始める刺繍画は、独特の立体感と色彩で、ほかにない魅力を感じます。
 猫が描かれた絵を1枚購入し、家に飾っています。画集も素敵。これからも展覧会があれば行きたいと思います。
 展覧会のお知らせは、こちらのサイトに出るようです。関心のある方は、是非ご覧ください。

美佳の美術館(外部サイト)(新しいウインドウが開きます)

著者

筆者_宮子あずさ氏
宮子 あずさ(みやこ あずさ)
看護師・著述業
1963年生まれ。1983年、明治大学文学部中退。1987年、東京厚生年金看護専門学校卒業。1987~2009年、東京厚生年金病院勤務(内科、精神科、緩和ケア)。看護師長歴7年。在職中から大学通信教育で学び、短期大学1校、大学2校、大学院1校を卒業。経営情報学士(産能大学)、造形学士(武蔵野美術大学)、教育学修士(明星大学)を取得。2013年、東京女子医科大学大学院看護学研究科博士後期課程修了。博士(看護学)。
精神科病院で働きつつ、文筆活動、講演のほか、大学・大学院での学習支援を行う。

著書

「まとめないACP 整わない現場,予測しきれない死(医学書院)、『看護師という生き方』(ちくまプリマ―新書)、『看護婦だからできること』(集英社文庫)など多数。ホームページ:ほんわか博士生活(外部サイト)(新しいウインドウが開きます)

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