第88回 「まず、今どうしてほしいか教えてください」
公開日:2026年3月13日 08時40分
更新日:2026年3月13日 08時40分
宮子 あずさ(みやこ あずさ)
看護師・著述業
ある時悩みに悩んだ末、患者さんにこんなお願いをした。
「本当に申し訳ないのですが、ひとつお願いがあります。これまでにやってもらえなかったことをお話になる前に、まず、今どうしてほしいのかを教えてください。さもないと、私は何をしていいのかわかりません。そうすると、してもらいたいことをしてもらえず、また怒りがたまりますよね。患者さんがつらいのはわかりますが、いきなり怒りをぶつけられる私たちも、つらいんです。失礼なことを申し上げて本当に申し訳ありません。身体の向きは今のままでいいのですか。それとも、反対に向けますか。まず、どちらかお答えください」
きつい言い方に聞こえると思うが、ここまでいろいろないきさつがあり、私も言わずにいられなかった。
その患者さんは、身体機能がかなり低下し、ほぼ寝たきり状態。身体の向きを変えるのも、看護師の手助けが必要だった。入院前は普通に生活していたので、当然現状に戸惑いが大きい。怒りや不満が強いのは、私たちもやむを得ないと受け止めている。
とは言え、患者さんが、延々怒りや不満を語り、どのようにケアして良いのかわからない。これは本当に困った状況である。患者さんの滑舌が悪く、小声で、聞き取りにくいのも、困難さに拍車をかけていた。
この時も、ナースコールで呼ばれて、「身体の向き.......」と言うので、「反対側に向けますか?」と尋ねたところ、「前の前に来た人は、もう少しこの格好でと言って何もしてくれずに行っちゃいました。前の人は、反対の方がいいって言って。こっちを向けてくれたけど、こっちを向いていると、ものは取りやすいんですけど、廊下が見えないと人が来てもわからなくて...........」との返事。これを聞き取るのにもかなりの時間を要し、聞いたあとも、結局どちらを向ければいいのか、さっぱりわからない。
私のお願いに対して、患者さんは「はい。じゃあ、反対向けてください」と答えてくれた。厳しいことを言った後味悪さが残ったが、私の言葉にはっとした表情も印象に残った。
ケアする・ケアされるという関係は、ケアする側がより多くの気遣いをするのは当然だと考える。とは言え、今のままでは互いにストレスばかりがたまる状況もありうる。そんなとき、ケアする側からお願いをするのは、許されるのではないだろうか。
どんなに努力して気遣いをしても、相手の気持ちを想像してケアをするのは難しい。言われた所で、それが全てとは限らない。しかし、言われなければもっと難しい。話せる限りは、その場での希望をはっきり言ってもらいたい。
まず何をすればいいかわかり、ケアができれば、そのあとから話を聞く余裕ができる。お互い気持ちよく話をするためにも、やはり希望は単刀直入に教えてほしいと思う。
もちろん、そのようになるまでには、ケアする側にも不十分な点があったのだろう。その反省は、もちろんしなければならない。
とは言え、ひとたび関係がこじれると、そのままでは改善しない。陰性感情をためる前に、ケアする側の気持ちを伝えるのも、時には大切だと学んだ。
<近況>
2月15日、16日千代田区役所で「ちよだ猫まつり2026」が開かれ、立ち寄りました。運営スタッフの友人とご挨拶。保護猫団体が中心の、和気あいあいのイベントでした。

友人は最近『』という出版社を立ち上げ、「猫と幸せに暮らす」という本を出しました。著者は柴内晶子さんという獣医さん。<今いちばん新しい猫の健康管理とケアの本>というコピー通りの、分かりやすい本です。

著者

- 宮子 あずさ(みやこ あずさ)
- 看護師・著述業
1963年生まれ。1983年、明治大学文学部中退。1987年、東京厚生年金看護専門学校卒業。1987~2009年、東京厚生年金病院勤務(内科、精神科、緩和ケア)。看護師長歴7年。在職中から大学通信教育で学び、短期大学1校、大学2校、大学院1校を卒業。経営情報学士(産能大学)、造形学士(武蔵野美術大学)、教育学修士(明星大学)を取得。2013年、東京女子医科大学大学院看護学研究科博士後期課程修了。博士(看護学)。
精神科病院で働きつつ、文筆活動、講演のほか、大学・大学院での学習支援を行う。
著書
「本音のコラム」の13年 2010~2023(あけび書房)、「まとめないACP 整わない現場,予測しきれない死(医学書院)、『看護師という生き方』(ちくまプリマ―新書)、『看護婦だからできること』(集英社文庫)など多数。ホームページ: