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第15回 肺炎に注意

公開日:2020年2月14日 09時00分
更新日:2020年2月14日 09時00分

宮子 あずさ(みやこ あずさ)
看護師・著述業


 70代の男性の家を訪問した時のこと。ベッドの上で横たわり、痰の絡んだ咳を何度もしている彼に、私はこう声をかけた。

 「〇〇さん、ずっと仰向けで寝ていると、肺炎になってしまいますよ。なるべく起きる時間を増やして。寝ている時も、左向いたり、右向いたりしてください」

 彼は「わかったよ」と言うが、動く気配はない。むしろ、タヌキ寝入りを決め込み、無視の構えである。私はさらにたたみかけた。

 「仰向けで寝ていると、痰が肺の下の方に溜まってしまうんです。そこに菌がつくと肺炎になります。それにね、仰向けでいると、今みたいに痰が上がっても、うまく吐き出せませんよね。そうすると、痰でむせて、窒息するかも知れませんよ」

 この話のもって行き方は私のクセで、どうしても理屈で攻めてしまう。相手がどうも合点がいっていないようだ、と思った時、私は<私があなたにこう言うのは、このような理由なんですよ>と説明することで、理解を得ようとする。

 このやり方は、うまくいかないことも多い。理解できない人は、ますますいら立ち、理解した上で拒否している人は、ばかにするなと怒ってしまう。それでもこのやり方をやめられないのは、きちんと話をすることが、相手を尊重することだ。そう考えているからだ。

 では男性の反応はといえば、タヌキ寝入りの継続。いら立ちも怒りも見せず、かと言って受け入れもしない。長いつきあいの中で見慣れた彼の対応なのだが、この日はいつになく腹が立ってならなかった。

 なぜなら、目の前で起きている痰がらみは、本当に命にかかわる可能性がある。高齢者の最終的な死因の多くは肺炎なのだ。2016年の人口動態調査によれば、65歳~79歳では死因の4位、80歳以上では3位に肺炎が上がっている

 「ねえねえ、〇〇さん、〇〇さん。寝ている場合じゃありませんよ。よく聞いてください。肺炎が起きるとね、命にかかわるんです。〇〇さん、〇〇さん、長生きしたいですか?」

 私は男性の肩をポンポンとたたき、さっきよりくだけた調子で声をかけた。すると彼は、タヌキ寝入りをやめ、「そりゃあ長生きしたいよ!」と大きな声で言って起き上がった。

 「だったら、〇〇さん。仰向けで寝続けていてはダメです。肺炎で死んでしまうかも知れません」

 私の断固たる言葉に、男性はうなずき、「トイレには自分で行けるんだよ」と、寝たきりではないことをアピール。私はここぞとばかりに、こうたたみかけた。

 「せっかく歩けるのなら、トイレに歩くだけではなくて、ベッドに座ったり、いろんな格好をしてすごしましょう!」

 ちょっと口は悪かったが、長生きしたい彼が、みすみす肺炎で命を落とすのは残念すぎる。そう思って、はっきり話した。訪問先の利用者さんも、確実に年をとっている。肺炎のリスクをぐんと上げる、痰がらみにはこれからも注意していこうと思う。

※本サイトにも、高齢者の死因については詳しい解説があるので、是関心のある方は、ご覧ください。

高齢者の死亡原因

写真:第15回訪問看護師から老いとみると_挿絵
今から12年前、2008年の写真です。当時45歳。病棟で看護師長をしていました。病棟での経験が、訪問看護でも生きていると感じます。

著者

写真:著者宮子あずさ氏

宮子 あずさ(みやこ あずさ)
看護師・著述業
1963年生まれ。1983年、明治大学文学部中退。1987年、東京厚生年金看護専門学校卒業。1987~2009年、東京厚生年金病院勤務(内科、精神科、緩和ケア)。看護師長歴7年。在職中から大学通信教育で学び、短期大学1校、大学2校、大学院1校を卒業。経営情報学士(産能大学)、造形学士(武蔵野美術大学)、教育学修士(明星大学)を取得。2013年、東京女子医科大学大学院看護学研究科博士後期課程修了。博士(看護学)。
精神科病院で働きつつ、文筆活動、講演のほか、大学・大学院での学習支援を行う。

著書

『宮子式シンプル思考─主任看護師の役割・判断・行動1,600人の悩み解決の指針』(日総研)、『両親の送り方─死にゆく親とどうつきあうか』(さくら舎)など多数。ホームページ:ほんわか博士生活(外部サイト)(新しいウインドウが開きます)

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