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第13回 「100万回死ぬ」ことと「100万回生きる」こと

公開日:2019年12月13日 09時00分
更新日:2019年12月13日 09時00分

宮子 あずさ(みやこ あずさ)

看護師・著述業


 佐野洋子さんが描いた『100万回生きたねこ』という絵本をご存じだろうか。

 主人公は、愛されるばかりで愛することを知らない美しいオス猫。彼は、100万回も生まれ変わるが、ある時心から1匹のメス猫を愛し、彼女の死を嘆いて息絶え、以降生まれ変わることはなかった。

 愛と死、孤独など、深いテーマが込められた名作と言って良いと思う。私はこの本が好きで、絵本とともにぬいぐるみも持っている。

 にもかかわらず、看護師として働き、いろいろな人を見送る中で、ある時期から『100万回死んだねこ』と題名の記憶がすり替わっていた。恐らくこの頃の私は、死ぬことの方が大変だと思っていたのだろう。

 看護師として働いてきたこの32年、死と生についての感覚は、大きく変わってきた。私は内科や緩和ケアでは多くの人の死を見て死ぬ大変さを思い、精神科では生きる大変さを目の当たりにしてきた。「100万回死ぬ」ことと「100万回生きる」ことはどちらが大変なのか。最近ますますわからなくなっている。

 ただ、作者の佐野さんは、「100万回生きる」ことの不幸をイメージして、この本を書いたように思う。うつ病を長年患い、がんで生涯を終えた佐野さんは、自身のがんを題材にしたエッセイ『死ぬ気まんまん』でこのように書いた。

「ガンは治る場合も大変多い。治らなければ死ねるのである。皆に優しくされながら。私はウツ病と自律神経失調症の方がずっと苦しくつらかった。ウツ病は朝から死にたいが、死んではいけない病気である。自殺は周りに迷惑をかける。」

 毒舌家としても知られた佐野さん。文面は辛辣で不愉快な気持ちになる人もいらっしゃるかも知れない。それでもこの文章をご紹介したのは、これが佐野さんの実体験を通して描かれた文章だからである。

 そして私も、佐野さんが指摘するような現実は、残念ながらあると感じてきた。精神疾患に限らず、経過が長い病気は、周囲が息切れしやすい。期限があるからやさしくできる、という人間の限界を、責めては気の毒だと思う。

 『100万回生きたねこ』を描いた時、佐野さんにとって、つらかったのは、死ぬこと以上に生きることだったのだろう。しかし、死が本当に近づいた時、人がどう思うのか。それは計り知れない。

 何より、人間は「100万回生きる」ことはできない。そして、その1回の生の中で、どのように病み、どのように死ぬかは、自分で決められないのである。

 『100万回生きたねこ』を改めて読み返しながら、1回の人生を生き、死んでいくことの大変さを改めて思った。

写真1:筆者の飼い猫もふこの写真。100万回生きた猫の主人公によく似ている。
わが家の飼い猫・もふこ(3歳メス)は、『100万回生きたねこ』の主人公に似ています。友人に言われて気がつきました。時折読み返すこの絵本が、ますます身近になりました。
写真2:絵本100万回生きた猫と絵本の主人公のぬいぐるみ。
『100万回生きたねこ』の絵本とぬいぐるみ。

著者

写真:著者宮子あずさ氏

宮子 あずさ(みやこ あずさ)
看護師・著述業
1963年生まれ。1983年、明治大学文学部中退。1987年、東京厚生年金看護専門学校卒業。1987~2009年、東京厚生年金病院勤務(内科、精神科、緩和ケア)。看護師長歴7年。在職中から大学通信教育で学び、短期大学1校、大学2校、大学院1校を卒業。経営情報学士(産能大学)、造形学士(武蔵野美術大学)、教育学修士(明星大学)を取得。2013年、東京女子医科大学大学院看護学研究科博士後期課程修了。博士(看護学)。
精神科病院で働きつつ、文筆活動、講演のほか、大学・大学院での学習支援を行う。

著書

『宮子式シンプル思考─主任看護師の役割・判断・行動1,600人の悩み解決の指針』(日総研)、『両親の送り方─死にゆく親とどうつきあうか』(さくら舎)など多数。ホームページ:ほんわか博士生活(外部サイト)(新しいウインドウが開きます)

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