第84回 老いてからの食生活
公開日:2025年11月14日 08時30分
更新日:2025年11月14日 08時30分
宮子 あずさ(みやこ あずさ)
看護師・著述業
病院の食事は、朝はパン、昼夕は米飯に副菜が基本になっている。米飯中心の食事はどちらかと言えば高齢者向きのイメージ。ところが最近は、お菓子やカップ麺に慣れ親しみ、病院食を食べない高齢者もちらほら見かけるようになった。
訪問看護で高齢者の自宅を訪ねていた時を思い出すと、これは合点がいく。いわゆる買い物難民は東京都内も例外ではない。
多摩地区には、個人商店中心の商店街がなくなり、買い物に行く先はコンビニのみ。そんな地域が少なくない。働いている人なら、仕事帰りに駅周辺で買い物ができる。しかし、足腰が弱り、自宅周辺で過ごす高齢者なら、そうはいかない。
コンビニで手に入るインスタント食品やパン、菓子類でお腹を満たす高齢者は決して珍しくない。かくいう私も、62歳。カップ麺と菓子パンはかなり好きな方だが、さすがに毎食食べたいとは思わない。
特に自宅で夫ととる夕食は、米飯、麺類、パンと主食はさまざまでも、肉や野菜、魚を使った副食を作り、食べるのが習慣になっている。いや、料理自体は手が込んだものではない。ただ、炭水化物のみに偏らないよう、可能な範囲で工夫している。
しかし、こうした食生活は、家の近くに大型スーパーがあるから可能なのだと思う。いや、個人商店でもかまわない。ただ、コンビニ1軒しかない、という環境では難しいのは確かだろう。食生活というのは、多分に環境に依存するのである。
訪問していた高齢者の中には、家賃の安い不便な地域に暮らす人がたくさんいた。近い商店はコンビニのみ。家に行くと、カップ麺の空き容器、スナック菓子の空き袋が散乱している。70代、80代でこのような食生活でいいわけがない。
実際、こうした高齢者が入院すると、病院食を喜んで召し上がる場合が多い。退院後は食生活を正そうと、宅配弁当を頼むようになる人もいた。実際、買い物が不便な地域できちんとした食事をとろうとすると、宅配弁当一択になる場合がある。
しかし、ごくわずかながら、味の濃い食べ物に慣れ親しんだ結果、病院食を拒否し、カップ麺やお菓子を希望する人もいる。病院食がおいしくないと言われればそれまでなのだが。これまでの食生活を反省し、喜んで召し上がる方と何が違うのか。非常に興味深いところである。
今はその答えは見つからないままだが、きちんと病院食がとれる人と比べると、身体的な回復は、明らかに遅いように思う。
望ましくない暮らしも慣れてしまえば、その人の暮らし。年を重ねると、どんな形であれ、変化を受け入れるのは難しいのだろう。
老いてからの食生活は、本当に大事。入院を機に食生活が改善されるよう、工夫していきたいと思う。
<近況>
5月以降週3回の勤務を4回に増やしています。電車通勤はこれまでは毎回Suicaでしたが、通勤定期を買いました。なんか、嬉しいですね。左は定期入れ。右は財布。見てください、広島カープのキャラクターなんです。今年は振るわぬ成績でしたが、来年に期待しています。

前回の近況でお知らせした、もふこの食事量低下ですが、9月半ばからかなり回復してきました。目標の3.5㎏はもはや目前。もふこの後ろにあるのがわが家の体重計。もふこを抱える前と後でこの体重計に乗ると、差分を自動で計算してくれる優れものです。

著者

- 宮子 あずさ(みやこ あずさ)
- 看護師・著述業
1963年生まれ。1983年、明治大学文学部中退。1987年、東京厚生年金看護専門学校卒業。1987~2009年、東京厚生年金病院勤務(内科、精神科、緩和ケア)。看護師長歴7年。在職中から大学通信教育で学び、短期大学1校、大学2校、大学院1校を卒業。経営情報学士(産能大学)、造形学士(武蔵野美術大学)、教育学修士(明星大学)を取得。2013年、東京女子医科大学大学院看護学研究科博士後期課程修了。博士(看護学)。
精神科病院で働きつつ、文筆活動、講演のほか、大学・大学院での学習支援を行う。
著書
「本音のコラム」の13年 2010~2023(あけび書房)、「まとめないACP 整わない現場,予測しきれない死(医学書院)、『看護師という生き方』(ちくまプリマ―新書)、『看護婦だからできること』(集英社文庫)など多数。ホームページ: