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第7回 緩和ケア病棟も....

公開日:2019年6月14日 09時00分
更新日:2019年6月14日 09時00分

宮子あずさ(みやこ あずさ)

看護師・著述業


 私は、2003年から2008年までの約5年間、緩和ケア病棟で看護師長を務めていた。いわゆる「ホスピス」とも呼ばれ、進行がんの患者さんが、苦痛な症状を緩和し、穏やかに過ごせる場所であった。

 ところがこの2年ほどで制度ががらりと変わり、他の急性期病棟同様、長期入院が阻まれるようになっている。まず、入院期間が30日を越えると入院料が安くなる。さらに、平均在院日数が30日を越えると、病棟全体の料金体系が安くなってしまう。

 なお、こう書くと、料金が下がって患者さんは助かると思う方もいるかもしれない。しかし、実際は、高額医療制度によって、医療費がある額を超えると、支払額は一定になる。金額が多少変わっても、患者さんの支払いは変わらない。

 ある病院の試算によれば、この料金体系の変化により、1,600万円の減収になったそうだ。経営が楽な病院はそうそうない。なんとか平均在院日数を30日以内にして、高い料金体系を取りたいと思うのは当然だろう。

 斯くして、これまで長期入院が唯一可能だったと言える緩和ケア病棟も、30日を越える前に退院を迫られる可能性が出てきた。症状をとって自宅に戻りたい人ならそれもよい。しかし、不安や症状が強い人の場合、自宅に帰るのは無理な場合もあろう。

 さらに、死が近づいている人を追い立てるのは、医療者としても耐えがたいことであり、現場を離れる人も増えたと聞く。昔の緩和ケア病棟を知る者としてはなんとも虚しく、かける言葉も見つからない。

 精神科訪問看護で働くこの10年のうちにも、がんで何人かの方を見送った。長い年月精神疾患に苦しみ、緩和ケア病棟での日々が穏やかだったと聞いて、ほっとしたものである。もし今後長い療養が許されないとなれば、あの人たちはどのような場で最後を迎えるのだろう。

 緩和ケア病棟で働いた時、精神科病院から転院してきた女性がいた。内服さえ飲んでいれば穏やかな方で、元の病院の主治医や看護師も、時々面会に来てくれた。

 半年以上の療養で亡くなったが、ゆっくりしたペースで関わるからこそ、できる看護はあったように思う。医療費削減の流れの中では、そんなことを言っても、甘えと言われるのがオチなのかも知れない。

 回転が速くなることで、多くの人の役に立てる面があるのもわかる。でも本当に、これでいいのだろうか。いざという時入院できる場所が、ほとんどないのだ。改めて、危機感を持っている。

図:緩和ケア病棟の飾り棚
2005年。緩和ケア病棟の飾り棚。
西村幸祐,緩和ケア病棟入院料あたふた(外部サイト)(新しいウィンドウが開きます)

著者

写真:著者宮子あずさ氏

宮子 あずさ(みやこ あずさ)

看護師・著述業

1963年生まれ。1983年、明治大学文学部中退。1987年、東京厚生年金看護専門学校卒業。1987~2009年、東京厚生年金病院勤務(内科、精神科、緩和ケア)。看護師長歴7年。

在職中から大学通信教育で学び、短期大学1校、大学2校、大学院1校を卒業。経営情報学士(産能大学)、造形学士(武蔵野美術大学)、教育学修士(明星大学)を取得。2013年、東京女子医科大学大学院看護学研究科博士後期課程修了。博士(看護学)。

精神科病院で働きつつ、文筆活動、講演のほか、大学・大学院での学習支援を行う。

著書

『宮子式シンプル思考─主任看護師の役割・判断・行動1,600人の悩み解決の指針』(日総研)、『両親の送り方─死にゆく親とどうつきあうか』(さくら舎)など多数。ホームページ:ほんわか博士生活(外部サイト)(新しいウインドウが開きます)

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