第79回 看護師になるのにいくらかかるか
公開日:2025年6月13日 08時20分
更新日:2025年6月13日 08時20分
宮子 あずさ(みやこ あずさ)
看護師・著述業
看護師になるための学校には、いくつかの種類があることをご存じだろうか。
看護師の国家試験受験者のうち、新卒看護師は現在約5万人。看護師になるには大きく分けて、准看護師を経て看護師になるコースと、そうでないコースがあり、後者が多数を占める。
中でも、今看護師になるために最も多く選ばれている学校は、四年制大学。次に三年制の専門学校が続く。
四年制の看護系大学は、1990年代初めから激増が始まった。
私が三年制の看護専門学校に入学したのは1984年。当時四年制の看護系大学は11校だった。それが現在は約300校になっている。
いわゆる少子化が指摘され、多くの大学で生き残りが話題になる中、看護についてはこれだけ大学が増えているのは、特筆すべき事態だと思う。
ひとつは、看護師養成に対する社会的ニーズ。その結果、大学が生き残る上で、人が集まる学部・学科として、看護が選ばれるという、大学側の事情もあるに違いない。
新卒の看護師の中でこそ四年制大学卒業者が多くなったものの、現場の多くはまだまだ専門学校卒業者が多数を占めている。
私が働いている職場では、この数年新卒者は大学卒業者が多いが、それ以前は専門学校卒業者が中心。准看護師も働いていて、教育背景はかなり多様である。
では働く中で学歴の違いを意識させられる場面があるかと言えば、私自身は全く経験がない。臨床においては、看護師という資格、そして経験の価値は、学歴の違いに勝るように思う。
私自身は専門学校卒業後、通信制大学で学んだ経験を持つ。学歴云々は別としても、学ぶ場としての大学には、とても価値がある。今後看護が進んでいく方向性として、大学への一本化は、望ましい形だと考えている。
ただその場合、どうしても学費の問題が気にかかる。教育費用の増大は、領域にかかわらず起きているわけだが、特に看護の場合、以前が極めて安価だっただけに、変化の度合いがあまりにも大きい。
1984年私が入学した看護専門学校は、社会保険庁の関連団体が設置した半官半民の学校で、授業料は年額25000円。3年間働けば返還免除になる奨学金が、月に25000円もらえたのだった。
当時はこうした学校は珍しくなく、公立、国立はほぼ学費が無料。はっきり言えば、経済的に豊かでない家庭に生まれても、看護師になろうと思えばなれたのである。
では今、看護師になるのにいくらかかるか。
私が卒業した専門学校も、今は授業料だけで年額40万8000円。これでも決して高い方ではない。大学はと言えば、国立でも授業料の平均が53万5800円。私学では年額100万円を超えてくる。
看護師の不足は未だ大きな問題になっている。現状では、学費の高さから、看護師を断念する人も多いのではないだろうか。看護師になりたい人への学費の支援についても、検討が必要だと思う。

<近況>
恥ずかしながら、ひとつお知らせです。2010年から2023年まで13年間連載した、新聞のコラムが単行本になりました。『本音のコラムの13年 2010~2023』(あけび書房)です。よろしければ是非、ご覧くださいませ。
もふこともども、よろしくお願い申し上げます。
著者

- 宮子 あずさ(みやこ あずさ)
- 看護師・著述業
1963年生まれ。1983年、明治大学文学部中退。1987年、東京厚生年金看護専門学校卒業。1987~2009年、東京厚生年金病院勤務(内科、精神科、緩和ケア)。看護師長歴7年。在職中から大学通信教育で学び、短期大学1校、大学2校、大学院1校を卒業。経営情報学士(産能大学)、造形学士(武蔵野美術大学)、教育学修士(明星大学)を取得。2013年、東京女子医科大学大学院看護学研究科博士後期課程修了。博士(看護学)。
精神科病院で働きつつ、文筆活動、講演のほか、大学・大学院での学習支援を行う。
著書
「本音のコラム」の13年 2010~2023(あけび書房)、「まとめないACP 整わない現場,予測しきれない死(医学書院)、『看護師という生き方』(ちくまプリマ―新書)、『看護婦だからできること』(集英社文庫)など多数。ホームページ: