第87回 暗証番号入力はバリア
公開日:2026年2月13日 08時30分
更新日:2026年2月13日 08時30分
宮子 あずさ(みやこ あずさ)
看護師・著述業
最近クレジットカードが使える医療機関が増え、我が家も活用している。特に便利なのは、飼い猫がかかる動物病院での支払い。人間の医療と違って動物医療に公的保険はない。万単位の支払いが日常茶飯事である。
暗証番号を押せば限度額内の支払いなら、一瞬で終わる。現金を準備する手間が無くなっただけでも、クレジットカードはありがたい。
ところが最近、この便利さが思わぬバリアになる事実を痛感した。
ある日の勤務で、患者さんから「クレジットカードで入院費を払いに行きたい。車椅子で連れて行ってください」と頼まれた。
同行し、会計窓口でカードを決済端末に入れるところまではできたものの、ここからが大変だった。患者さんは頸部に障害があるため、指が震えてしまう。さらに力も入らないので、ナンバーキーが押せなかったのだ。
押した番号を見ないため横を向いていたものの、難航している様子はひしひしと伝わってくる。
「困ったな......。番号を言うから、押してください。最初の番号は......」
「わああああ、それは口で言わないでください。暗証番号を教えていただくわけにはいきません」
「教えるんじゃないわよ。押してもらいたいのよ」
「申し訳ありません、それはできません」
「上から押してくれれば、なんとか押せるのよ」
「じゃあ、押したいキーに人差し指を乗せてください。番号を見ないように、上から私が人差し指を押してあげます」
このようにして、なんとか支払いを完了したが、指の動きは残念ながら、少しずつ悪化している。今日使った方法も、いつまでできるかわからない。
暗証番号というと、番号を忘れた時のリスクがよく話題になる。しかし、身体的な問題で入力ができない人は、どうすれば良いのか。深刻なバリアだと感じた。
さらに、2025年4月1日から、サインによる確認は廃止された。「暗証番号を忘れた」「かろうじて署名はできるがキーは押せない」場合でも、原則暗証番号は必須。逃げ道はほぼ無くなったと言える。
今回の患者さんについて言えば、触れるだけのタッチパネルなら、押す圧が弱くても押せたと思う。しかし、震える指で該当する番号に辿り着くまでに、誤動作してしまうかもしれない。その意味では、各番号のキーが独立して、ある程度押さないと確定しない方が望ましい。
バリアフリー、と一言で言うが、障がいは多様で、適した道具は本当にさまざま。こうした場面に立ち会ったことで、またひとつ大きな学びを得た。
リスク管理は大事な一方、暗証番号がバリアにならぬように。金融関係企業の更なる工夫に期待したい。
<近況>
2026年最初の月も終盤になりました。1月は毎年なんとなく長く感じるのですが、皆さんはいかがでしょうか。昨年に続き、今年も年賀状を出しました。

ちなみに、ご紹介しそびれた昨年の年賀状はこちら。年賀状じまいをした方にはわざわざ出しませんが、もらうだけならOK、の方にはお楽しみいただきたく、一言添えています。

著者

- 宮子 あずさ(みやこ あずさ)
- 看護師・著述業
1963年生まれ。1983年、明治大学文学部中退。1987年、東京厚生年金看護専門学校卒業。1987~2009年、東京厚生年金病院勤務(内科、精神科、緩和ケア)。看護師長歴7年。在職中から大学通信教育で学び、短期大学1校、大学2校、大学院1校を卒業。経営情報学士(産能大学)、造形学士(武蔵野美術大学)、教育学修士(明星大学)を取得。2013年、東京女子医科大学大学院看護学研究科博士後期課程修了。博士(看護学)。
精神科病院で働きつつ、文筆活動、講演のほか、大学・大学院での学習支援を行う。
著書
「本音のコラム」の13年 2010~2023(あけび書房)、「まとめないACP 整わない現場,予測しきれない死(医学書院)、『看護師という生き方』(ちくまプリマ―新書)、『看護婦だからできること』(集英社文庫)など多数。ホームページ: