健康長寿ネット

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第51回 年賀状あれこれ

公開日:2023年2月10日 09時00分
更新日:2023年2月10日 09時00分

宮子 あずさ(みやこ あずさ)
看護師・著述業


 訪問看護で働いていた頃、年始の挨拶状を作成する係をしていた。12月に入るとデザインを決め、葉書大の用紙に必要枚数を印刷する。書式は毎年使い回し、イラストは主にフリー素材。簡単な作業だが、利用者さんからは好評だった。

 この挨拶状、以前は年賀はがきで発送していた年賀状を、ある時から、最初の訪問での手渡しに変更した。挨拶文は、「今年もよろしくお願いします」のみで、訪問看護室の連絡先と、スタッフ全員の氏名を載せていた。

 その年訪問看護に来る看護師のメンバー表として、大切にしていた利用者さんも多い。壁に貼られた挨拶状を見ると、作った甲斐があったとうれしくなったものだ。

 ちなみに、郵送の年賀状から手渡しの挨拶状に変わるには、いくつか理由があった。中にはちょっとしたトラブルも関係していて、精神科疾患ゆえの繊細な精神状態への配慮が求められた側面もある。

 最初に問題になったのは、郵送で届かない人が増えてきたこと。郵送に使う住所録の入力ミスなど、こちら側の要因もあったが、数として多いのは、ポスト管理と表札を出さないことによる「宛先不明」での返送だった。

 困ったことに、前年届いたからといって、その年届くとは限らない。特に熟練した配達員がいなくなった地域では、経験知でなんとか配送されていたものが、未着になる傾向があった。これはもう、いたしかたないと言うほかない。

 そして、未着の年賀状が出た場合、「今年はもらえなかった」と怒る人も出てきた。新たにお渡ししても、精神的に不安定になった人もいる。

 こちらとしては、プラスαのサービスとして行っている年賀状が、精神状態を悪化させるのでは、本末転倒。そのため、未着リスクのある郵送はやめ、手渡しに変更した。

 そして、手渡しへの変更に伴い、文面の見直しを行い、喪中の人にも渡せる内容とした。これにより、うっかり喪中の人に送るミスも回避でき、全ての利用者さんに渡せるメリットもあった。

 年賀はがきの抽選を楽しみにしていた利用者さんからは、年賀状を惜しむ声も聞かれたが、全体としては、変更のメリットの方が大きかったと思う。

 訪問看護室の業務が終わり、この年末年始は久しぶりに病棟で勤務した。新たなし職場を楽しみつつ、挨拶状作成作業がないのが、少し淋しくもあった。

 年明け、1日2日と病棟で働きながら、挨拶状を渡した利用者さんの、嬉しそうな表情を思い出した。

 病歴の長い利用者さんの多くが、親族や友人との交流が切れ、年賀状とは縁のない年明けを迎える。ある利用者さんは、私から挨拶状を受け取ると、「今年は訪問看護以外からも1枚きたのよ」。

 嬉しそうに見せてくれた他の1枚は、前年に眼鏡を作った、眼鏡店からの年賀状。嬉しそうに2枚を重ねる利用者さんを見て、なんとも言えない気持ちになった。

 別の訪問看護ステーションに移行した利用者さんは、今年、年始の挨拶状をもらっただろうか。そんな余計なことまで気になってしまう。

 急速に年賀状の習慣は廃れ、私自身も、一時は400通を超えた発送が、今年は250通ほどに減っている。今回いただいた中にも、高齢や退職を理由に、「年賀状は今年までで終わりにします」と、年賀状じまいを告げるものも、何通かあった。

 私もこの先どうしようかと考えもするが、賀状のやり取りを続けている人の中には、賀状だけで繋がっている人もいる。印刷にタックシールでの簡単な年賀状でも、来なくなることを淋しがる人がいないとも限らない。

 結局、今年も、受け取った年賀状を整理し、来年の年賀状発送に備えている。

図:著者が使用する住所録を表す図。

<私の近況>
使っている住所録は、FileMakerでの自作です。20年以上かけて練ってきました。賀状辞退、喪中など、いろいろと設定できます。
とはいえ、やはり入力漏れもあります。賀状辞退をした人に送ってしまう失敗が、何度かありました。今年いただいた年賀状の中に、入力ミスに備えて、こんな一文入れればいいな。そう思わせてくれた年賀状がありましたので、ご紹介します。
「年賀状じまいをしていらっしゃったら、申しわけありません。お返事は気になさらず、こちらの近況報告として読み流していただければ幸いです」。

著者

筆者_宮子あずさ氏
宮子 あずさ(みやこ あずさ)
看護師・著述業
1963年生まれ。1983年、明治大学文学部中退。1987年、東京厚生年金看護専門学校卒業。1987~2009年、東京厚生年金病院勤務(内科、精神科、緩和ケア)。看護師長歴7年。在職中から大学通信教育で学び、短期大学1校、大学2校、大学院1校を卒業。経営情報学士(産能大学)、造形学士(武蔵野美術大学)、教育学修士(明星大学)を取得。2013年、東京女子医科大学大学院看護学研究科博士後期課程修了。博士(看護学)。
精神科病院で働きつつ、文筆活動、講演のほか、大学・大学院での学習支援を行う。

著書

「まとめないACP 整わない現場,予測しきれない死(医学書院)、『看護師という生き方』(ちくまプリマ―新書)、『看護婦だからできること』(集英社文庫)など多数。ホームページ:ほんわか博士生活(外部サイト)(新しいウインドウが開きます)

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